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八十一話 先輩を誘う

 先程のエイリスと商人のやり取りを見た後、俺はギルドに向かっていた。


 しかし、あのエイリスがまさか、あんな顔をするなんてな……


 吸血鬼がやってきたと聞いた時、エルペンの冒険者達は皆この世の終わりのような顔をしていた。

 そんな時、まっさきに皆に行動を呼びかけたのがエイリスだ。

 常に元気で、勇気がある……それが俺のエイリスに対する印象だ。


 今回も切り替えが早かったと言えば早かったのだろうが……


 世話になっている先輩だからか、とても心配だ。

 それがいつも明るく頼りになる人だから、尚更。


「……おーい、ルディス様ー? 聞いてます?」

「ん? ああ、ごめん。ちょっと考え事をしてたよ」

「なるほど。さっきのエイリスさんのことですね! やっぱあれだけ綺麗な人だと、そりゃ心配しちゃいますよねー」

「そんなんじゃない! ……ただ、エイリスさんは随分とお世話になった人だからさ」

「……ふむふむ。なら、悩みを聞いてあげたらどうです?」

「それはそうなんだが……」


 エイリスなら、ありがとうとは答えてくれるはずだ。

 でも、さっきのカッセルとの会話を聞くに、人に心配はかけまいと何となく誤魔化されそうな気もするな……


 ノールとは王都への馬車護衛の依頼でより打ち解けられた気がするが、エイリスとはまだ先輩後輩の関係から抜け出せてない気がする。

 何でも相談できる仲間……そう思ってもらえるようになるには、どうすればいいだろうか。


 やはり一番手っ取り早いのは、何かで協力する事だろう。

 

 エイリスとカッセルはギルドに向かった。

 何か手伝えることはないか聞いてみるとしよう。


 俺はギルドに着くなり、エイリスとカッセルを探す。


 すると、提示版の前で依頼を見比べる二人がいた。


「エイリスさん、カッセルさん、おはようございます!」


 俺とネールは、二人に近づき挨拶した。

 

 すると、二人は先ほどの事なんて何もなかったように、いつもの元気な調子で答えてきた。


「おお、二人ともおはよう!」

「おはよ、二人とも! 今日はやけに早いわねー」


 俺はカッセルとエイリスに頷き、こう答える。


「ええ、いい仕事を取られる前に来ようと思いまして。でも、あんまりいい仕事が見つからないんですよね……シルバー級に上がれば、もっといい仕事も回ってくるのでしょうが」

「そっか、まだ昇格してないんだ。それだと確かにあまりいい仕事は受けらないわね……」


 エイリスはそう言うと、腕を組んで何かを考える。


「うーん。それじゃあ、私達が受けていた二十八階の奥で見つかった古い倉庫の調査、受けてみない? 難しくはないんだけど、二十八階は広くてちょっと面倒でさ」


 手伝えることはないかと聞こうとする前に、エイリスのほうから俺に提案をしてくれた。


 だが、明るい表情のエイリスとは反対に、カッセルが何か言いたげな顔をしている。


「多分スケルトンも出ないし、本当に調査するだけよ。これで二十デル。少し遠いけど、割のいい仕事でしょ?」


 戦闘もなしで二十デルの仕事か。

 確かに割のいい仕事だ。


「新たに見つかった場所だからまだまだ物品も手つかずでしょうし。貴重品はギルドへ届け出なきゃいけない決まりだけど……まあ、そこはね」


 少しぐらいなら好きにするのが普通と、エイリスは言いたいようだ。

 

「しかし……本当にそんないい仕事紹介して頂いて良いんですか?」

「もちろん! 可愛い後輩のためだし。もともと二十階のスケルトン討伐のついでに行くつもりだったけど、たった二十デルのためにあちこち行くのは面倒くさいもん」

「そうですか……では、紹介していただいたお礼といってはなんですが、報酬の半分と、見つけた貴重品のほうはエイリスさんとカッセルさんにお渡しします」


 俺の言葉に、エイリスは感動したように、大げさに呟く。


「うん、本当に良い子ね! でも、大丈夫だって。他に代わりになる依頼はいくらでもあるし」

「しかし、それではあまりにも……」

「先輩の厚意は受けるものよ? 先輩のおごりと思って、皆で美味しいものでも食べなさいな」

「では、お言葉に甘えて報酬の方はいただきます。でも、貴重品の方はお渡ししますね」

「うんうん……それで気が済むなら、そうしましょ。お宝のほうは期待させてもらおうわ。じゃあ、依頼書はこれね」


 にこっと笑うエイリスに、俺はさらに続ける。


「ありがとうございます! 必ず、何か見つけてみますね! あ、それと……エイリスさんさえ良ければ、今夜一緒にご飯でもどうですか?」

「え……」


 一瞬、エイリスの頬が赤くなった気もした。

 

 えっと……そういう男女のお付き合いという意味で言ったつもりじゃないんだが。

 しかし、この前の話からすると、これじゃ……


「もう、ルディスったら! あまりお姉さんをからかうもんじゃないわよ!」


 エイリスは俺の肩を痛いぐらいに、ポンポン叩く。


「あ、いや、その……もちろん、カッセルさんやネール達も一緒にという意味で!」

「ほうほう。まさか、ルディスにそんな気があったとはなー! エイリス、良かったではないか!」


 カッセルはからかうように、エイリスをニヤリと笑う。


「うるさい! あんたは黙ってなさい、カッセル!」


 エイリスは少し恥ずかしそうにカッセルの脇腹を小突く。

 だが、すぐにコホンと咳払いして、こう答えた。


「……まあ、食事ぐらいなら付き合ってあげるわよ。色々話したいこともあったし。もちろん、誘ったんだからルディスのおごりだからね!」


 エイリスはそう言って、カッセルに「早く行くわよ」とギルドを足早に出ていくのであった。


「あ……いや! カッセルさんも来てくださいよ! こっちも皆でいきますから!」


 俺の声に、カッセルはおうと一応は返事をしてくれるのであった。


 そんな俺を、ネールはにやにやと見つめる。

 そしてわざとらしく、こう言った。


「ああ。そういえば今日の夜、ルーン先輩達と洋服屋行く予定だったなー。ああ、残念!」

「ネール……ふざけるのはよせ。夕食はお前たちにも来てもらう。ともかく、今日はエイリスさんの依頼を成功させるぞ」

「はーい!」


 こうして俺達は、地下都市の二十八階の倉庫の調査に向かうのであった。

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