表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

74/189

七十三話 昇格の話

「二十体……すべて魔力が宿ってるので、確実にスケルトンの骨ですね」


 ギルドの受付の後ろで、職員の声が響いた。


 受付嬢はそれに頷いて、麻袋に金貨を入れ始める。


 俺達は依頼の後、王都のギルドにスケルトンの喉骨を届けていた。

 依頼報酬の十デルの他、スケルトン一体討伐につき三デルがもらえることになっているので、今回は六十デル。


 エルペンのゴブリン退治より報酬が良いのは、王都のギルドが裕福だからだろうか。

 

 そんなことを考えていると、青髪の受付嬢が麻袋をどかっと机の上に置いた。


「一度で二十体討伐はなかなか珍しいですねー。確か、エルペンから来られた方々でしたっけ? って、ブロンズ級?!」


 受付嬢は俺の胸元を見て、目を何度か瞬かせる。


 ブロンズ級は、冒険者ギルドによる冒険者への格付けでは最下位。

 そんな新人がスケルトン二十体を倒したことを、驚いているのだろう。


「まさか、あなたたちがエイリスさんが推していた、エルペンきっての大物新人……」

「いや、多分俺達のことじゃないと思いますよ」


 エイリスの話がここまで回っていることには驚きだ。

 そして多分、その新人は俺達の事を指してるのだろう……


 受付譲は俺に報酬を手渡しながら言う。

 

「まあ、そうでしょうね。エイリスさん、話を盛ってばかりですし」

「はは……」


 俺は報酬を受け取り、苦笑いする。

 すると、いきなり右肩をがしっと掴まれたの。


 振り返るとそこには……


「え、エイリスさん?」

 

 長いブラウンの髪を後ろで纏めた、二十歳ぐらいの美女……

 エイリスが不気味に笑っていたのだ。


「ルディス? 今、私の話してた?」

「それは…… というより、王都来てたんですか?」

「エルペンで頼まれていた依頼を済ませたから、カッセルと一緒にね。やっぱ王都の方が仕事も多いし」

「なるほど。それで、カッセルさんは?」

「カッセル? カッセルには宿へ荷物を届けさせてるわ」


 エイリスは当然のようにそう答えた。

 

 カッセルは相変わらず、良いように使われているみたいだ……

 まあ、仲が良いことの裏返しとも言えるだろう。


「あんた達こそ、ノールと来たばかりなんでしょう?」

「ええ、ちょうど昨日来たばかりです。今は、地下都市の依頼をこなした帰りで……」

「へえ。昨日の今日でもう依頼とは、本当に仕事熱心ねぇ! 私なんて、王都に初めて来てからの数日は、遊び惚けていたけど」


 エイリスは俺の肩を掴みながら、受付嬢に続ける。


「この子はルディス。あとは、ルーン、マリナ、ネール。皆エルペンの大型新人よ」

 

 受付嬢はやはりという顔で答える。


「やはり! エルペンから来ていた冒険者さんや職員から聞いてます。何でも、ゴブリンを百体以上倒した凄腕の新人だとか」

「それは罠を上手く利用したからで、本当に大したことはないんです」


 俺はそう謙遜するが、受付嬢は首を振る。


「いえいえ、冒険者は戦いが強くなくたって別に良いのですよ。上手く、依頼をこなせる力があれば」

「そうよ、ルディス。私も上手いことカッセルを盾にしてるだけで、オリハルコン級になったんだから」


 エイリスは自慢するように言った。


 ……自分で言うかそれ?

 まあ、確かに剣や魔法が強いばかりが、冒険者として凄腕とは限らない。

 

 ここにいるエイリスも情報収集に長けているので、それを活かせる依頼をこなしているのだろう。


 受付嬢は俺に続ける。


「ルディスさん。エルペンから届いた依頼履歴も申し分ないですし、皆様のシルバー級への昇格をギルドマスターに頼んでみます。ですが、その前に一つ依頼をお願いをしてもよろしいでしょうか?」

「お願いですか?」

「はい。実は地下都市の四十二階で、謎の鳴き声のような音の報告が上がっていまして……住民の方々が不安がっているのです」

「とすると、その調査を?」

「はい。 ……ただ、魔物の目撃情報という訳でもなく、ケガ人が出たわけでもないので、報酬はあまり出せないのですが……」


 昇格と引き換えに、調査をしてきてくれというわけか。

 

 昇格のメリットは受けれる依頼が増える事。

 そしてギルドが特別な依頼を回してくれる可能性が高まる事だ。


 ただ、メリットだけでなく、単純に何の音なのかも気になるな。

 地下都市についてはもっと情報が欲しい。

 人が住んでいて調べつくされたと思われた場所にも、何か見落とした情報があるかもしれない。


 不死者召喚の魔法が掛けられた魔鉱石も気になるが……それは今日の夜でも良いだろう。


 俺は即座に頷いた。


「分かりました! その依頼、受けさせていただきます」

「ありがとうございます! 昇格のほうはなるべく早めに承認するよう、マスターに言いますので」


 受付嬢が答えると、エイリスは俺の頭を撫でる。


「ふふ、ルディスは本当に良い子ねー。 ……安心して、私からもマスターにちゃんと昇格させるよう、強く言っておくわ」

「あ、ありがとうございます、エイリスさん……」


 誰かに頭を撫でられるなんて、生前の俺にあっただろうか。

 突然のことに、何だか俺は恥ずかしくなる。


 それを感じ取ったのか、エイリスはニヤリと笑った。


「……あれっ? もしやルディス、照れてるの?」

「い、いや、そういうわけじゃ……」


 俺は何とか真顔で答える。


 しっかりしろ俺……俺は仮にも、元こうて……


「もう、初心うぶなんだから。ルディスだったら、デートしてあげても良いわよ?」


 エイリスは俺に身を寄せて、そんなことを言ってきた。

 俺は一瞬で、頭が沸騰しそうになってしまった。


 そんな俺に受付嬢がふふっと笑う。


「もう、エイリスさんったら。あまり新人をからかうもんじゃありませんよ」

「新人って言っても、もう並みの冒険者より活躍してるわよ。ね、ルディス?」


 エイリスは俺の肩をポンポンと叩き、耳元でささやく。


「もちろんルディスが奢ってくれるなら……いつでも付き合ってあげるわよ。 ……それじゃ、私はマスターに会ってくるわね」


 手を振ってギルドの奥へ向かうエイリス。


 後ろからは、こんな声が聞こえた。


「なるほど……ルディス様はお姉さん系が好きと」


 ネールの声にマリナも続ける。


「ノールさんもお姉さんですもんね」

「……そうか。年上でしたか」


 ルーンも納得したように言った。

 

 どうやら、弱点をさらしてしまったようだ。

 俺は元皇帝。

 基本自分より上の立場がいなかったので、どうにも年上には弱い。

 いや、篭絡ろうらくならば、年上相手でも毅然と対応できると思うが……


 俺は首を横に振る。


「……まだ夕方までは時間もある。ささっと調査を済ませるぞ」


 俺はそう言って、そそくさとギルドを出るのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術大学をクビになった支援魔術師←こちらの作品もよろしくお願いいたします!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ