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六十七話 王都到着

「おお、あれが王都かあ」


 馬車に乗る傷病人の一人が、進行方向に向かって言った。


 エルペンから十日、俺達は王都へ至る最後の丘を越えたところだ。


 目の前の光景には、俺も目を見張った。

 視界に納まりきらない程の広さを持ち、頂上は雲が掛かる大きな山……

 いや、正確には山とは微塵も感じさせない程、山肌には建物が埋め尽くすように密集していた。


 一番外側には、俺も見た事がない高さの城壁が存在している。

 エルペンの城壁、いや物見やぐら、その倍以上もある高さだ。


「こんなものを人間が……」


 まだ若い傷病人は、王都を見た事をなかったのだろう。

 目の前の王都が人間によってつくられたことを、とても信じられないようだ。


 一方の俺も、この高さの防壁を造る技術が気になった。

 少なくとも、魔法を用いずには成し遂げられなかったはずだ。

 西部には人も少ない、エルペンの防壁を見るに築城技術も俺の時代からさほど変わってない。


 そしてあれだけの人間が山の上に暮らしているという事実……

 水はどうしてるのだろうか。疑問は尽きない。


 隣を歩くルーンが言った。


「私が他の従魔と別れあの洞窟に向かう時、この近くを通りました。その時は、火山灰に埋め尽くされるはげ山だったのですが……千年でこれほど変わるとは。人間もなかなかやりますね」

「ああ。だが、実際はここに人間が住み始めて、まだ五百年。世界中を旅していれば自分の知らない光景もあるかと思ったが、まさかこんなに早くそんな機会に恵まれるなんてな」


 俺が感心していると、ネールが口を開く。


「私も東部含めて人間の街を見てきたけど、あの王都が一番大きいですねー」

「ネールは王都に行ったことあるのか?」

「いえ、上空から見ただけですよ。塔も城壁も高いから、あまり低く飛んでいると、攻撃されるって私達も知ってます。結構痛いとか、先輩たちは言ってましたね。下手したら死んでたとか」

「なるほど。防備も見かけ倒しじゃないってことか」


 サキュバスが痛いというぐらいだ。

 魔術師にしろ兵器にしろ、強力な防備があるのだろう。


「しかし、一番の問題は……」


 あれだけ大きな都市が、神話の時代から知られる大火山の上に立っているのだ。

 もし噴火すれば、ひとたまりもない。


 ……これは探索のし甲斐がありそうだ。


 俺達は車列と共に、王都の正門をくぐるのであった。


 正門からは、宮殿へ真っすぐと続く大通りが見える。

 だが、俺達はまず、正門付近にある馬車を停める広場へと向かった。


 次々と馬車から降りる傷病人。


 ほとんどの人間が、自力で歩くまで回復している。

 もちろん、せっかく来たのに治ってましたとなれば、ユリアも骨折り損となるだろう。

 だから、最終的な治療は簡単な薬での治療で完治するように調整している。


 彼らが向かうのは、誰でも治療してくれるという神殿付属の病院だ。

 神殿の神官が善意で運営している病院で、俺の時代にも存在した。

 お金はあまり持ってないので、薬などは決して質の良いものではないが、回復魔法に関しては文句の付け所のない専門家たちだ。


 そして俺達冒険者と、エルペンの兵士達はここで任務終了となる。


 ユリアは俺達を前に、一礼しこう述べた。


「皆、今回の護衛任務、ありがとうございました。おかげで、誰一人欠けることなく、王都で治療を受けさせることが出来ます」


 次に、ロストンが続ける。


「皆の労をねぎらう為、報酬とは別に今日は宴会を予定している! また、二泊ほど王都で評判の宿で疲れをいやしてもらいたい! エルペンの領主にも許可は取ってある」


 その言葉に、付いてきた兵達は口笛を吹かしたり、諸手を上げて喜んだ。


 最後にもう一度ユリアがありがとうと告げると、兵達は皆宿へ向かうのであった。

 俺達もその恩恵に預かれるらしいのだが、ユリアが少し待ってと呼び止めた。


「皆、今回は本当にありがとう。報酬も決して多くないのに、あなた達は私に協力してくれた」


 その声に、ノールが答える。


「私は特に何もしていません。でも、ルディスとネールは命の危険も顧みず、皆のため倒れたユニコーンと残ってくれました。私の報酬は、どうかこの二人に……」

「いいえ、ノール。護衛はそもそも敵に攻撃をためらわせる目的もあるわ。報酬は自分で受け取るべきよ……でも、確かに二人がやってくれたことには、報いたい」


 ユリアは少し考えて、俺に顔を向けた。


「ごめんなさい、恥ずかしい話だけどお金はもう底を突きかけてて……その代わりと言ってはなんだけど、ここ王都の古い地図の断片をあなたにあげるわ」

「ち、地図の断片?」


 思わずネールが、不満そうに聞き返した。

 そんなものに何の価値があると、言いたいのだろう。


 俺としては気持ちだけでいいし、別に古い地図でも構わない。

 古い王都を知れるのも、面白い。


 だが、ノールが「それは羨ましい」と頷く。


「そんなものをお持ちだったのですね。私達冒険者にとっては、まさにお宝のようなものです」

「そうね、何かの役に立てばと思って。どこにも出回ってない地図だから、まだ何か眠ってるかもしれないわ」


 眠ってる? どういうことだろうか?


「でも、ちょっと宮殿の私室を整理しなきゃいけないから、少し時間をもらってもいいかしら? ……あっ」


 ユリアは俺の後方の何かに、視線を奪われたようだ。


 俺はその方向へ振り返る。


 すると、武装した者達が数名、担架に乗せられ神殿付きの病院へ運ばれていった。

 彼らの胸元には、冒険者を現すバッジが付いてる。

 一人の鎧を見ると、胸の部分が割れるように破壊されていた。


「あれは……」

「恐らく、地下都市ダンジョンで魔物にやられたんでしょうね」

「……地下都市ダンジョン?」


 俺はこの時、王都の本当の広さをまだ知らなかった。

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