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六十五話 聖獣再び

 額から一本の角を伸ばしたユニコーンの集団がこちらに向かってくる。

 その内の一際大きなユニコーン……オルガルドは俺の前で立ち止まる。


「何こいつ? ルディス様がせっかく仲間を助けてやったのに偉そうに!」


 ネールはオルガルドに向かって、頬を膨らませる。


 しかし、オルガルドはネールに振り向かない、先程助けたユニコーンを見るだけだ。


 サキュバスといえば高位の魔物。

 それは聖獣のオルガルドにも分かるはず。

 即座に排除しなければならない対象のはずなのだ。


 だが、オルガルドの興味は俺にあるのだろう。

 俺に目を向け、こう問うてきた。


「……何故、助けた?」

「逆に問おう。助けられるのに、助けないやつがいるのか?」

「お前と道徳について話す気はない」


 はあ……皇帝の時もそうだったが、こういう頭の固いやつは苦手だ。


「魔物を従える帝印を持つ俺……魔王の落胤が何故聖獣を助けたか、と聞きたいんだろう」

「そうだ」


 オルガルドは深く頷く。

 正直、こういった問答は面倒なだけだ。

 特に、このような頭の固いのやつとの問答は。


「簡単な事だ。俺にとっては人間も魔物も聖獣も、等しく同じ命を持つ存在……人を助けるように、聖獣も助けるだけだ」

「詭弁だな。聖獣と魔物が理解できるはずがない」

「そうか。だが、俺はお前のその道理に従う義理も、つもりもない」


 不服そうな顔をするオルガルドだが、無駄な討論をする気はない。


「そこのユニコーンはしばらく休めば治るだろう。俺達はもう行かせてもらうぞ」


 俺はネールに行くぞと言って、オルガルドに背を向けた。


「待て。また我等を”見逃す”つもりか?」


 俺との力の差は、オルガルドは分かっているようだ。

 この前俺達が逃げたことを、見逃してくれたと解釈したのだろう。


「何とでも取ればいい。俺はただ、時間が惜しいだけだ」


 そう言い残して去ろうとした時、遠くから帝国語が響いた。

 振り向くと、そこには一体のユニコーンが。

 彼らの表情と感情に明るいわけじゃない、だが焦っていることは感じ取れた。


「オルガルド様! アイシャが!」

「落ち着け、どうした?」

「アイシャが起き上がらないのです!」

「何? ……敵の毒か?」


 オルガルドはすぐに俺達とは反対の方向に振り返り、駆けていった。

 その先には、一体の倒れたユニコーンを他の者達が囲んでいる。

 白い光を見るに魔法を回復の掛けているようだが、効いてないらしい。


 すぐにオルガルドも回復魔法を掛ける。

 他のユニコーン達よりもまばゆい光……【治癒】の上位にあたる、高位魔法【快癒】。

 しかし、アイシャが息を吹き返すことはない。

 ならばと、今度は俺がユリアに教えた【浄化】も使うが、それも意味がなかった。


 ユニコーン達が見守る中、オルガルドは様々な聖魔法を試す。

 だが、ついにアイシャが目を覚ますことはなかった。


 オルガルドは沈痛な面持ちで、首を横に振る。

 その瞬間、ユニコーン達の目に涙が浮かんだ。

 

「ルディス様ぁ、あんな失礼な奴ら放っておいて、行こ?」


 ネールが俺の手をぐいぐいと引っ張る。

 俺はそれを優しく解き、オルガルドの近くに向かった。


「ルディス様?」


 ネールは不思議なのだろう。 

 自分に敵対的な態度の者を助けに行くのが。

 

 だが、俺と従魔に真の敵など存在しない。


 ユニコーンの一体が俺に気が付き、その角を向けてきた。

 オルガルドも俺に気が付いたようで、こちらに振り向く。


「何の用だ?」

「聖魔法が効かない理由が有るはずだ……恐らくは、聖属性を纏わせた闇魔法の呪いだろう……」


 俺はアイシャに【状態診断】を掛けて、より詳しいを情報を得る。


「【闇蝕】……闇属性の高位魔法で、体の組織を闇属性のものに変えていくものだ……このままでは、アイシャはやがてアンデッドと化してしまうだろう」


 俺の言葉にユニコーン達が一様にざわつく。

 無理もない、誇り高い聖獣がアンデッドになるなど、考えたくもない事だ。


 ユニコーンの一体が、たまらずオルガルドへ提案した。


「オルガルド様! アイシャを一刻も早く楽にしてやりましょう!」

「待て! まだ、アイシャは助かる」


 俺の言葉にユニコーン達は、「人間は黙っていろ!」と罵声を浴びせる。

 このような者の言葉を聞いては駄目だと、オルガルドを諫めた。


 しかし、オルガルドは「静まれ」と静かに一喝し、俺に訊ねる。


「……では、どうすれば助かる?」

「通常であれば、高位魔法の【浄化】で十分【闇蝕】は止められる。しかし、それが効かないのは【闇蝕】に、聖属性が加わっているからだ」


 聖と闇……本来では打ち消し合うはずの二つの属性が、【闇蝕】の効果を損なわない程度に調和している。そんな芸当、誰が出来るというのだろうか……いや、俺ならできるだろう。しかし、俺以外の誰が?

 今戦った”軍団”のアンデッドの中に、それほどの魔法の使い手がいたというのだろうか?


 疑問は残るが、今はまずアイシャを救わなければならない。


「まずは聖属性を除去する。俺が全身に【闇属性付与】を掛ければ、それは難しくないだろう」

「ふむ……では、我らは?」

「アイシャに【浄化】を掛けてほしい。【闇蝕】の浸食を食い止めるんだ。使えるのは、オルガルドだけか?」

「ああ、そうだ」

「そうか。なら、俺も【浄化】を掛けよう。予想以上に体の深くまで侵されているから、二人の方が良い。さあ、始めるぞ」


 頷くオルガルドに、俺は一言付け加えた。


「それとだが……【闇蝕】で一旦闇属性を帯びた体の部分は治せない。つまり、これ以上の【闇蝕】の浸食を止めるだけだ。【聖別】を使えば治せるが、今の俺の魔力では行使できない」


 【聖別】……闇属性を含んだ物体を消す【聖光】と違って、闇属性だけを切り離すことが出来る。

 俺が皇帝であった時代では、神殿の最高聖職者、預言官だけが扱えた聖魔法。俺も使おうと思えば使えるが、必要とされる聖属性の魔力が尋常ではない。帝国の神官を総結集させ、聖属性の魔力を供給させなけば、預言官も使えないのだ。


 とにかく、アイシャの命は助かる。しかし、それは【闇蝕】の進行を止められるだけというだけ。

 元の状態には戻せないのだ。


 それを聞いていたユニコーンの一体が声を荒げた。


「つ、つまり、アイシャは闇属性を帯びたまま生き返るという事か?!」

「そういうことになる。裏を返せば、闇属性の魔法を使えるように……」

「ふ、ふざけるな! そんなの死んだも同然だ! オルガルド様、やめましょう! きっと他の聖獣が許しません!」


 ユニコーンの声に、オルガルドは沈黙する。


 俺はこのオルガルドという聖獣の事が、少し分かった気がした。

 正義感に溢れ、曲がったことは許せない。

 その根底にあるのは俺と同じ、誰かを救いたいという思い。


 だが、親や一族から受け継いだ聖獣の道徳、それが彼の足枷となっているのだろう。


 オルガルドは今、アイシャを救うため、道徳にあう大義名分を頭の中でこねくり回しているのだ。


「……どういう道を選ぶかは、アイシャ次第だ。俺らが決めていいことじゃない」


 俺は迷うオルガルドを他所に、アイシャに【闇属性付与】をかけ始める。


「貴様! 何を勝手に!」

「待て!!」


 飛び出そうとしたユニコーンを、オルガルドは止めた。


「お、オルガルド様……」

「闇を扱うは人間も同じ……それだけを理由に、アイシャを殺してはならん」

「で、でも、それではアイシャは聖獣では!」

「どうするかは、このアイシャが決めることだ……」


 オルガルドは決心したようだ。

 

「オルガルド、今だ。【浄化】を掛けるぞ」

「うむ」


 俺とオルガルドは、アイシャに【浄化】を掛けた。


 白い光が全身を包むと、苦しそうにしていたアイシャの顔は穏やかになるのであった。

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