六十四話 追っ手
「……な、何か、ちょっと多い、かも?」
次第に近づく魔力の反応に、ネールも事の重大さを知ったようだ。
数十……いや、百以上……そこそこの速さで俺達に近づいてきている。
何かを追ってきた。
きっとこのユニコーンを……
それよりも魔力の形だ。
人間と変わらない四肢……さらに四足歩行の何かに跨っている。
下は馬か?
だが、乗っているのは、ゴブリンにしては大きい。
かといって、オークにしては小さく細すぎる。
こいつらは……スケルトンか。
「ネール。魔王軍にあれだけのスケルトンの部隊はいるか?」
「あれ、スケルトンなんですか? ってことは軍団?!」
「……そのようだな」
しかもただのスケルトンじゃない。
速さからして、馬のスケルトンに騎乗している。
「ネール…… 前衛を任せられるか?」
「も、もちろん!! 私がルディス様を守ります!」
震え声のネールは、【透明化】していた背のハルバートを手に取る。
そして隠していた翼と角を露にした。
ネールは本気のようだ。
しかし、ネールは魔王軍の大事な客人でもある。
傷つけるわけにはいかないから、戦わせるつもりはない。
一体でも残せば、近くの町や村にどんな被害が出るかも分からない。
もう、被害に遭った人々もいるかもしれないが、ならばここで終わらせる。
「太陽は……良く出ているな」
しかし妙だ……
アンデッドが白昼堂々と動くなんて。
それも、裏で操っている軍団の主のせいなのだろうか。
どの魔法で倒すか迷ったが、彼らも元は人間。
聖魔法が良いだろう。
次第に、白骨の騎馬軍団が向かってくるのが分かる。
「このネール様が相手よ! 掛かってきなさい!!」
ネールは勇ましく吼え、ハルバードを構える。
しかしその時、スケルトン達へ向かう馬蹄の音が響いた。
感じた事のある魔力の大きさ、聞き覚えのある馬蹄の調子。
「ユニコーンの集団?!」
仲間を守るため、あるいは遠くに見える人間であろう俺達を守るためか、ユニコーンが十数体、スケルトンへ向かっていく。
その中で、一際大きな魔力の反応があった。
だが、如何に強力なユニコーンと言えども、さすがにこの数相手では厳しいだろう。
しかも、すでに戦った後なのか、皆傷だらけだ。
スケルトン達は突如現れたこのユニコーン達に、進路を変えるのであった。
あれは……もしや前会ったユニコーンの長か?
ここは共同戦線を取れないだろうか……
しかし、以前俺と会ったことを思い出すかもしれない。
この帝印は、彼らにとっての憎悪の対象だ。
それでも、俺達は後ろで倒れているユニコーンを治療した。
何とか敵意がない事を知ってもらい……
もし、争うことになるにしても、あれだけ手負いであれば俺だけでもどうにかなる。
俺は思い切って、ユニコーンの長に【思念】を送った。
≪ユニコーン、そのままではお前達は死ぬ≫
≪ぬう? 誰だ?≫
≪そんなことは後で良い。お前は……オルガルドだな?≫
≪そうだ。我が名を知っているという事は、お前は……≫
オルガルドは、いやと続けた。
≪お前の言う通り、このままでは我らは突撃し、死ぬであろう。しかし、それがどうした?≫
≪俺の頼みを聞いてくれないか?≫
≪なぜ、人間……いや、呪われた帝印を持つ者の言うことを、我が聞く必要が有る?≫
やはり、オルガルドは俺が以前会った人間だと気づいたようだ。
【思念】などという魔法が使えるのは、俺ぐらいしかいないと思ったのだろう。
≪それはお前達の考え次第だ。生き残りたくば、俺に従え。でなければ勝手にしろ。だが、勝手にした場合、彼らはまた人間を襲うことになるぞ?≫
オルガルドは足を遅めて、しばし沈黙した。
自分達では敵わない。それは理解しているはずだ。
オルガルドは聡明だった。
≪……我らにどうしてほしい?≫
≪お前達の速度には、あのスケルトンの騎兵も追いつけない。彼らの周囲をぐるぐると周り、敵を円形にまとめてくれ。その後は、俺がやる≫
≪分かった……≫
オルガルドは俺に応えると、早速他のユニコーンに指示を出した。
スケルトンの少し手前で急に方向転換するユニコーン。
それを追うように、スケルトン達も向きを変えた。
ユニコーン達は攻撃を避け、防ぎながら、敵の外側を迂回していく。
上から見れば、まるで竜巻のように渦巻いていることだろう。
「あれ? あのユニコーン達、何か動きが」
「俺が指示したんだ。ネール、今から三十秒ほど、俺は無防備になる。周りの警戒を任せたぞ」
「は、はい!」
ネールに「頼む」と頷くと、俺は早速手に宙に浮く聖属性の魔力を結集し始めた。
太陽が出ていることも有り、聖属性の魔力は豊富。
自前の魔力はそこまで消費しない。
つまり、無防備と言うのは嘘だ。
ちゃんと、【魔法壁】も張っている。
ネールを試す最後の機会にしようと思ったのだ。
俺を殺す気であれば、今は絶好の機会。
しかし、ネールは必死に周囲を警戒してくれた。
やはり、俺を殺そうとは思っていないようだ。
ユニコーン達が決死の覚悟でスケルトン達を集め、俺も聖属性の魔力を圧縮できた。
俺はそのまま圧縮した魔力を、スケルトンのいる上空に放つ。
ユニコーン達は虚空の目を上に向ける。
すると、そこからは優しく眩しい光が降り注いだ。
「き、綺麗……」
サキュバスであるネールすらも、そう呟いた。
光がゆっくりと収まると、そこに立つスケルトンは一体もいなかった。
光を帯びた骨が、地面に崩れていく。
散乱した骨はやがて、光が弱まると共に消えていくのであった。
ネールは半分顔を引きつらせながら、俺に振り向く。
「す、すご…… ルディス様、やっぱすごすぎます! いや、おかしいって! あの規模の軍団を一瞬で…… 一瞬で灰に! どうしてこんなことが……」
自分で言ってて、信じられないと言った顔だ。
「ネールが周囲を見てくれてたから、魔力を集中できたんだよ。ネール、ありがとう。それに……」
一発で葬れたのは、ユニコーン達のおかげだ。
そしてスケルトン達よりも、厄介なのは……
さあ、どう切り抜けるか。
俺は向かってくるユニコーンを、じっと見つめるのであった。
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