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六十三話 積み重ね

 ユニコーンはすぐに気を失った。


 それを見た護衛のロストンは落胆する。

 

「ああ! また倒れてしまったぞ」

「ロストンさん、どうやら気を失っているだけです。少し休ませれば……」


 そうだこのユニコーンの体調は心配ない。

 それよりも、今の逃げろという言葉は……


 ユニコーンがこれだけ傷だらけになる相手がいるという事。

 しかも、ユニコーンの集団を離散させたのだ。


 武器を見るに、人間等の道具を用いる生物の仕業のようだが……


 とにかく、ここには抵抗できない傷病人が多い。

 魔物と戦いになれば、俺でも守り切れるか……


 いや、全力を出せば……

 それは俺の力がユリア達にばれてしまうかもしれない。


 だが、その心配はなかった。

 

 ユリアが確認するように呟く。


「……人間……逃げる。古代の帝国の単語を音にすると、こうなるはず。この聖獣は、きっと私達に逃げろと告げているんだわ」


 ノールも頷く。


「後半の逃げるという言葉は、大陸西部南方で今も使われている、逃げるという単語とほぼ同じ発音でした」

「つ、つまり、ユニコーンは私達に逃げろと告げていると?」


 ロストンの問いに、ユリアは頷いた。


「聖獣がここまで傷だらけになるのです……とんでもない魔物がいるはずです。ロストン、今すぐにここから去りましょう」

「は、はい、それは。しかし、この聖獣はどうしましょう……」


 人と聖獣は本来関わってはいけない。

 聖獣は人間を守る一方、人間は聖獣を敬うよう教えられる。


 ここでそのままにするのがいいのか、それとも連れていくのが良いのか。

 神殿の神官でも迷う状況だ。


「殿下」


 俺はユリアの前で跪く。


「殿下、聖獣の看病は私に続けさせてください」

「ですが、この聖獣の言葉によれば、ここは危険だと」

「危険であれば、誰かが敵を惹きつけなければいけません」

「ならば、私も!」


 俺は首を横に振った。


 普通、庶民が王族に逆らうなんて有り得ない。


 だが、このユリアはそんなことを気にするような人間じゃない。

 

 ユリアは尚も俺に言葉を掛けようとするが、ロストンがその肩を掴んだ。


「……殿下、ここはルディスに任せましょう。ユニコーンの治療なら、彼に任せておけば大丈夫。それにルディスよ。何かしら、敵から逃げる自信があるのだろう?」


 お前なら、と言わんばかりにロストンは訊ねてきた。


 俺は、うんと頷く。


「はい……実は、脚には自信が有ります。もし魔物が来たら、俺はエルペンの方に惹きつけます」

「……分かった。では、誰が残る? 自慢じゃないが、俺も足は……」

「お気遣いなく、俺だけ……いや、そこのネールと俺で防ぎます」


 俺の声に、ルーンはぷくっと頬を膨らませた。

 

 しかし、ルーンも理解しているはずだ。

 俺が車列を離れた場合、もし有事があれば、一番頼りになるのは自分しかいないと。


 本当は俺一人だけが都合がいい。

 だが、何かある時の連絡係は残したい。


 また、ネールの事を信用してないわけじゃないが、万が一を考え手元に残しておきたかった。


 それを聞いて、心配そうに訊ねたのはノールだ。


「ルディス、私が残るわ」

「いえ、ノールさん。もし、万が一魔法が使える魔物に馬車を襲われれば、あなたしか魔法で対抗できません」


 現状、ユリアやロストン達が最高戦力と考えているのはノールだ。

 そのノールを抜くというのは、なかなか勇気のいることだ。


「……でも」

「ノールさん、大丈夫です。俺には賢帝の加護がありますから」


 不安そうにするノールに、俺は笑って返した。


「……分かったわ。でも、明らかに敵いそうもなければ、ユニコーンを置いてすぐに逃げて。聖獣は人を守るのが使命。自分のため人間が死んだとなれば、その魂がどうなるか……」

「分かっています、俺だって死ぬ気はありません」


 ノールは無言で頷いた。


「さあ皆さん、急いで」


 俺に皆、了解の声を送る。

 そして車列の方に戻り、再出発の準備を整えた。


 皆が出発する中、ユリアが馬上から声を掛ける。


「ルディス、またもあなたに無理を……」

「気になさらないでください。それにしても、無理を言っている自覚はあったのですね」

 

 俺は少し意地悪っぽくユリアに返した。


 魔法を教えろはともかく、あれだけの情報で剣を探して来いと言ったのはさすがに無理がある。


 ユリアはそうねと笑うが、その表情はやはり暗い。

 今回は命が関わっている。俺が心配なのか。


 俺はユリアに続ける。


「……でも、それも全ては殿下の力になりたいからです。俺は、殿下のやろうとしていることのお手伝いをしたい」


 俺を呼び出したあの日、ユリアは志を語った。

 ユリアはその時と変わらず、今も人々の役に立とうとしている。


 俺も最初から変わらない。

 俺は出来る範囲で、ユリアの力になるつもりだ。


「ルディス…… ありがとう」

「礼は、後で少し相談させて頂けば……」


 ユリアは俺の声に、ふっと笑う。


「……生きて帰ってきたら、何でも聞いてあげるわ」

「今、言いましたね、何でもと」

「も、もちろんよ。だから、ちゃんと帰ってくるのよ! あなたにはまだ、色々聞きたいことがいっぱいあるんだから!」

「はい! さあ、殿下も」


 ユリアは頷き、馬を走らせていった。


 俺は車列と共に行くルーンに【思念】で会話する。


≪ルーン、くれぐれも頼んだぞ。一応、マリナとお前に魔力を今から送る≫

≪かしこまりました。こちらは、私達にお任せください。しかし、ルディス様、ネールだけで大丈夫でしょうか?≫

≪問題ない。ネールはあくまで連絡役と考えている≫

≪かしこまりました……≫

≪心配するな。ユニコーンの回復が早ければ戦うこともなく、すぐに追いつくだろう≫

≪はい……しかし、くれぐれもお気を付けを≫


 俺は分かったと、交信を切る。


 同様にノールも心配そうな顔を送るが、俺は力強く頷いて見せる。

 すると、ノールも頷き返してくれた。


 車列は急ぎ、その場を去っていく。


「……へえ。随分と慕われているんですね。さすが賢帝と言われるだけあるなあ」


 ネールは感心したように呟いた。


「慕われてるわけじゃない。まあ信用はしてくれているみたいだが」


 今までの俺の行動が、俺の言葉を聞いてくれるようにしたのだ。

 

「ま、とにかくこれで、私とルディス様は二人きりですね!」

「随分と余裕だな。このユニコーンはお前と同等の魔力を有している……敵は、遥かに強いはずだぞ」

「それはそうかもですけど、ルディス様が負けるなんてありえないじゃないですか」

「そうとも限らないがな…… とりあえず、俺はユニコーンの治療を続ける。といっても、すぐ終わるはずだがな」


 俺は回復魔法をユニコーンに掛けようとした。

 だが、同時に発動していた【探知】が膨大な魔力の反応を報せる。


 俺がその方向に顔を向けると、そこには砂煙が巻き上がっていた。

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