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五十四話 王都行きを決める

「王都、ですか?」


 宿の中で、スライムに戻ったマリナだけが俺の話に応えてくれた。

 

 同じくスライムに戻ったルーンとネールは互いに口論を重ね、チビスライム達は思い思いにくつろいでいる。


 ネールは客人だし、チビスライム達は初めての長旅でもあったから大目に見るとしても、ルーン……


「ああ、王都ヴェストシュタット…… 純粋に、どうして火山の上に都市が築かれたのかが気になったんだ」

「なるほど。でも、都市の成り立ちを知るだけなら、この街にある図書館という所でもいいのではないでしょうか?」

「そうだな。当然、本や人から情報を聞いて下調べはしていくつもりだけど、この目でザール山を見てみたいというのもあってね……まあ、俺のわがままみたいなものだよ」

「そういうことでしたか! それなら、このマリナどこまでもお供しますよ!」


 マリナは健気に胸をポンと叩いて応えてくれた。


「ありがとう、マリナ。でも、一応王都に行くのは、生活の為でもあるんだ」

「それは、先程エイリスさんが仰ってた王都には仕事が溢れている、という事ですね?」

「その通りだ」


 だんだんとマリナは察しが良くなってきている気がする。

 

「まずエルペンから王都へ向かうような依頼を受ける。そしてしばらくは王都で仕事をしながら、ってところかな」

「そうしましたら、明日は市場で遠出に必要な物を揃えておきますね!」

「ああ、頼む」


 マリナだけが俺の話を真面目に聞いてくれる。

 先程までは、ずっと寝不足の俺を気遣ってくれていたし……


「……色々ありがとうな、マリナ」

「え? あ、はい! 私もお役に立ててうれしいです!」

「それじゃあ、俺はもう、今日は寝るよ」

「はい! おやすみなさい、ルディス様!」


 俺がベッドに横になると、マリナはスライムの体を伸ばして、布団を掛けてくれた。


 体はすっかり眠いが、頭には部屋の喧騒が響き、なかなか寝付けない。


 そろそろ限界……ではあったのだが不思議と嬉しくなるのは、従魔達との在りし日を思い出すからだろうか。


 ルーンはよくサキュバスのアルネと喧嘩をしていた。

 何でも、俺に近づく危険分子だとか……


 実際ネールの真意は掴めないが、ルーンがこうも敵視している以上、俺の寝込みを襲うのは不可能だろう。


 それはさておき、従魔達が言い争いをしたり、時には魔法や腕っぷしで衝突することは珍しくなかった。


 だからか、俺は再び従魔達が戻ってきたという安心感を得られたのだろう。


 だが、俺の元従魔達で生き残っている者はまだまだ多いはず……

 従魔に戻ってもらう、ではなくせめて再会できればどんなに嬉しい事か。

 死んだ従魔にしたって、俺の剣を守って死んだサイクロプスのギラスのようにどういった運命を辿ったのか知れれば……


 不安なのは再び得たこの俺の一生で、それらがどこまで成し遂げられるかということだな。


 人間の一生はあまりにも短い……


 俺はそんなことを考えらながら、ゆっくり眠りにつくのであった。


 結局、良く寝れたのかも分からないまま、次の朝を迎える。


 俺はマリナに、ルーンとネールと共に買い出しに行くよう頼んだ。


 そして俺はギルドにいる、ある人物の元へと向かう。


「図書館? 別に良いわよ?」


 先輩冒険者のノールは、俺が図書館に行きたいと言うと、快諾してくれた。

 

 エルペンの図書館は王立で、誰もが蔵書を無料で閲覧できるわけではない。

 だが、ノールのように魔法大学を卒業している知識人は、ただで閲覧が出来る。

 同行者もその恩恵を受けることが出来るのだ。


 俺はノールに続き、図書館へ入る。


 ノールはと言うと借りたい本があるとかで、ルディス関連の本……当然、賢帝である”ルディス”の本を借りていた。

 今日は意外にも真面目に、『ルディスと従魔の魔法大全』を読んでいる。

 そんな本を著した覚えはないので、俺の死後、誰かが書いたのだろう。どんな魔法が書かれているのかは俺も気になるところだ。

 

 俺の方はというと、王都に関する記録を探るため、『王都史』、『ヴェストブルク建国神話』に目を付けた。


 この二冊を読むと、細かい差はあれど、王都が出来るまでの流れはだいたい一緒だった。


 当初大陸西部には、東部を何かしらの理由で追われた人間達の集落が点在するだけで、国家という国家が存在しなかった。

 東部では多数を占め、あらゆる生物の覇者であった人間という種族も、ここ西部では魔物に狩られる野生動物のごとく存在であった。


 そんな人間達に、ある時救世主が現れる。


 それがヴェストブルク王国初代国王の、ヴィンダーボルト一世。


 元々東部の貴族であったヴィンダーボルトは、ある日虐げられている人々を助けよと、神のお告げを得た。 


 その天啓に従い、剣の腕に覚えがあったヴィンダーボルトはわずかな兵を率い西部に入る。

 だが、魔物との戦いは一進一退だったらしい。

 

 このままでは人間は滅びてしまう……


 ヴィンターボルトは、神のお告げを求めることにした。


 神はヴィンターボルトに知恵を授ける。

 ザール山に城を造り、そこを人間を守る砦になさいと。


 そのお告げに従い、ヴィンターボルトはザール山にヴェストシュタット城を造り、度重なる魔物の襲撃を撃退した。


 大きな戦いとしては、ヴェストシュタットの戦いがあげられるようだ。

 この戦いでは、ヴェストシュタットに襲来した十万の魔物の軍勢が、神の力を得たヴィンターボルトによる炎の魔法で全滅させられたことになっている。

 

 やがて街は大陸西部中から人を集め、東部からの難民の希望の地となる。

 

 これがヴェストシュタットが出来たいきさつだそうだ……


 ……


 これは全く鵜呑みに出来ない。


 ”ルディス”に関する歴史が色々な変遷を経たように、これも同様であることは想像に難くない。

 何しろ、今も君臨する王国にある王立図書館、そこに収められている初代国王に関する歴史だ。

 王の権威を損ねたものはあってはいけないし、逆に権勢を誇示するものが溢れているはず。

 

 故に、これはあくまで神話と捉えるのが一番だろう。

 しかし、神話になるのはそれなりの理由があるはずだ。


 修飾する事柄を抜いていけば、歴史を抽出できるかもしれない。


 ここで一番気になるのは、剣で戦ってきたヴィンターボルトが突如、神の力とやらで炎の魔法を使えるようになったことか。


 ヴィンターボルト……一体何者なんだ。


 この初代国王も調べてみる必要はある。だが、その前に……


「すいません、ノールさん」

「ん? どうしたの、ルディス?」

「ノールさんは王都に行かれたことがおありでしたよね?」

「それはまあ……向こうのギルドでも良く仕事をしているし」

「実は聞きたいことがあって。王都の土って、何色でしょうか?」

「土…… 王都は岩山の上に立っているようなものよ。少し離れると、赤い土が出てくるわね」


 ノールは俺に、更に土壌について話してくれた。


「王都のあの城壁と石造りの街並みは、その岩山から取れる石材の賜物ね。比較的新しい街なのに東部の都市をも凌ぐほど大きく発展したのは、そういった理由もあるわ」

「なるほど……」

 

 だが、食糧はどう賄ってきたのか。

 そもそも、大陸西部は未開である以上に、不毛な地であったことが人間社会の発展を拒んていたはず……


「王都について調べてるの?」

「ええ。実は王都に足を延ばしてみようと思ってまして」

「そう。勉強熱心ね」


 ノールはそう言って微笑んでくれた。


「近々、王都では仕事が溢れるから、私も行くつもりなの。多分、エイリスやカッセルも行くはずだわ。向こうで会えたら、よろしくね」

「こちらこそよろしくお願いします!」

「今度は王都の図書館も連れて行ってあげるわ……あそこはすごいわよ」


 どんな本があると紹介してくれるノール。

 だが、ちょっと”ルディス”に関する書物の事が多い気もするのであった。


 この後、俺はヴィンターボルトについても調べた。


 しかし、どれも似たようなことばかりが書かれ、ヴィンターボルトが真にどんな人物だったかは分からないのであった。

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