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四十五話 交戦

 ”ルディス”という名前を聞いて、サキュバス達は互いに目を見合わせた。

 

 すると、一人がくすくすと笑いだすのを皮切りに、全員馬鹿笑いし始める。


 何が可笑しい、と俺も訊ねたかったが、すでに怒りを抑えられないルーンを抑えなければならない。


 サキュバス達は笑いをこらえながらこんな事を口にした。


「ちょっ! 私達が、そんな言葉でビビると思ったぁ?! それで漏らすのは、子供だけよ!」

「人間を馬鹿にすると、ルディスが殺しに来る…… 私達のことわざを知ってるなんて、偉いでちゅねー!」


 別にサキュバス達を脅そうと思って名を名乗ったわけじゃないが……

 良くも悪くも、彼女たちの間にもルディスの名は知れ渡っているようだ。


「まあまあ。ルディスって、人間はよく子供に付ける名前みたいよ。人間の中じゃ、最強の男だし」

「そっかあー。まっ、いかにも強者の威を借りたがる、弱い人間のやりそうなことねー」

「ちょっと魔法が出来るからって、調子に乗るんじゃねーぞ!」


 散々な言われようだな……

 この感じだと、次に口にする俺の言葉は、到底受け入れてもらえなさそうだ。


 とはいえ、ここは俺と従魔が暮らしていく場所。

 早々に去ってもらうとしよう。


 俺は【思念】で、ルーンにある指示を送る。


 ルーンは分かりましたと、何やら上機嫌で応じてくれた。

 たぶん、俺を馬鹿にするサキュバス達をぎゃふんと言わせたいのだろう。

 

「まあ、人間が弱いのは確かだ……俺も含めてだが」

「なーんだ! 自覚できてるじゃない。だからさ、私達と……」

「……それは断ると言ったはずだ。今は俺の質問に答えてもらいたい」

「はあっ?!」


 サキュバス達はまたも怒りを露にする。


 その中で、隊長だけは妖しく口をにやけさせた。


「久々に、なかなかいじめ甲斐のありそうな男じゃないの。これはちょっとお仕置きが必要ね……周りの低俗な魔物も、なんか反抗的なやつばっかだし」


 隊長は片手で長い紫色の髪を撫でて、そのまま手のひらを俺に向ける。


「【隷従】を防いだぐらいで良い気になっちゃったみたいだけど……私達は高位魔法も使えるのよ。今、私の魔法で、その綺麗な手足だけ消し去ってあげるわ」


 隊長が手の平に黒い光球を浮かばせた。


 闇属性の中位魔法、【闇球ダークショット】か。

 以前、吸血鬼が使っていた【闇炎ダークファイアー】はこれの強化版で、闇属性の火による継続的ダメージを与えられるものだった。例えるなら【闇球】はただの矢で、【闇炎】は火矢。


 高位魔法を使えると言うくせに中位魔法を使うのは、【闇炎】では俺を殺してしまうと思っているのだろう。

 事実、【闇炎】を食らった人間は、一瞬で黒い炎に呑み込まれる。

 それに、【闇球】も鉄の鎧ぐらいなら、簡単に切り裂いてしまう威力はあるのだ。


「今から泣いたって遅いわよ……ま、泣かせるつもりだけど!!」


 黒い光球はある程度の大きさになると、四つに分かれる。

 その四つも元の大きさにまで膨れ上がると、ついに俺に放たれた。


 放たれた【闇球】を見て、サキュバス達は皆にやにやと俺を見ている。


 彼女たちが何を期待しているのかは、理解したくもない。

 

 それに……


「俺は断ると言ったはずだぞ?」


 勢いよく迫りくる球は、俺の前で急に止まると、サキュバス達に跳ね返る。

 目にもとまらぬ速さで、【闇球】は彼女達の髪を揺らし、過ぎ去っていった。


 サキュバス達はえっ、と間抜けな顔をして振り返ると、そこには綺麗に抉れた地面が。


「え? え?」


 サキュバス達は皆目をぱちくりとさせる。


 隊長は額から汗を流して、再び俺に体を向けた。


「な、何をした?!」

「【魔法反射】は知っているか?」


 俺の言葉を聞くなり、隊長の顔が急に真面目なものに変わった。

 

「こいつ、やっかいね。一気に片づけるわよ!」

「「は、はい!」」


 他のサキュバス達も真剣な顔で、俺に対し手を向ける。


 今度は【闇球】だけでなく、【闇炎】も撃ってきている。


 その程度では無駄だ……だが、魔王直属の部下ともなれば、こちらも手荒な真似は出来ないな。

 あの魔王のことだ、万が一こいつらを傷つけでもしたら、何を言われるか。


 こちらもサキュバス達に当たらないように魔法を跳ね返す。


 地面は更に抉れ、【闇炎】で植物のいくつかが燃えあがり始めた。


「こ、こいつっ!!」

「私達の魔法が効かない?!」

「狼狽えるな! 魔法が駄目なら……っ」


 隊長は一人振り返り、ワイバーンに載せた斧を取りに戻ろうとする。


 おっと、そうはさせるか……


「ルーン、頼む!」

「待ってました!」


 【魔法反射】で俺は手が離せないので、ルーンにある魔法を頼んだ。

 

 ルーンの魔法は突風を起こし、サキュバス達の斧をこちらへと運ぶ。


 がしゃがしゃという音を立てて、俺の前に斧が落ちてくる。

 黒い翼の意匠がついた戦斧……黒翼の戦斧団の由来でもあるこの斧は、あらゆる金属を断ち切り、魔法をも割くと言われている。


 サキュバス達は顔を青ざめさせ、一度魔法を打つ手を止めた。


 その様子を見て気を良くしたのか、ルーンが斧へと近づく。


「いやあ、いい斧ですねっ!」


 ルーンは斧を立てて小さく振り回し、さらに続ける。


「ルーン、おふざけは……」

「木を伐るのになかなか良さそう。あー…… 木こり用の斧、買わなくても良かったかなあ」


 ルーンの言葉に、サキュバスの隊長が声を荒げた。


「スライムごときがっ!」

 

 今度はルーンへ魔法を放とうとする隊長。

 他のサキュバスもそれに続こうとした。


 すでに力の差は分かっているはずだが、サキュバスはプライドが高い。

 こういうのは逆効果だと、ルーンも知っていたはずだが……


 どちらにしろ、彼女達に話を聞いてもらうには、もっと圧倒的な力を見せなければいけないか……


 俺も手に、黒い光を浮かべる。


 知っているかは分からないが、俺の知る最高の闇魔法を見せてやるか……


 サキュバスは俺の手を見て、驚愕する。


 人間が闇魔法を使うのもおかしいし、その大きさにも驚いているのだろう。


 俺はサキュバス達に、こう問うた。


「時に、魔王……カリスは元気か?」

「な、何故、人間がカリス様の名を?!」

「カリスとは三日三晩に渡って、魔法を撃ちあった仲だからな……」


 その時の魔法がこれだ。


 俺の手から放たれた黒い光は空高くに打ちあがる。


 その光を追うように、サキュバス達は顔を上げた。


 ワイバーン達は危険を察知したのか、散り散りになって飛んでいく。

 黒翼の戦斧団のワイバーンともなれば、乗り手を置いていくようなことはないと思うが、これも生存本能か。

 もちろん、誰も殺すつもりなどないが。


 黒い光はそのまま、サキュバス達のずっと後方、川の近くの平地へと飛んでいった。


 着地した黒い光が周囲へと広がる。

 爆発音も爆風もない、静かなものだ。


 だが、光が収まると、そこには半球状の大きなくぼみが出来ていた。


 サキュバス達はその光景を前に、呆然と立ち尽くすのであった。

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