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四十二話 従魔達の出迎え

「旦那、こんなところに、本当に平地なんかあるんですかい?」

 

 馬車を牽くフィストは心配そうに、馬車に乗る俺に訊ねてきた。


 そう聞くのも無理はない。

 昼なのに夜と見紛うほどに暗い森が、かれこれ二時間も続いているのだ。


 でこぼこの道に、馬車はがたごとと揺らされ、マリナは慣れない感覚で気分が悪そうだ。


 かくいう俺も、気持ちの悪さを感じていた。


「もうそろそろのはずだが……」


 俺は【探知】で微小な魔力を頼りに、従魔達の場所を探していた。 

 そしてそれが近くなることも確認していたが……


「む? 何か音が聞こえますぜ!」


 フィストは耳で何かの音を感じ取ったようだ。

 俺も魔力が急接近するのを確認する。

 

「この魔力は…… アヴェルだろう。俺達を出迎えに来たようだな」


 その言葉通り、俺達の前で姿を現す黒い狼が。


「ルディス様、遅くなり申し訳ございません。スライム達はすでに運んだので、お迎えに上がりました」

「アヴェル、ご苦労だった。道があってるか不安だったんだが、これで安心だな」

「それではご案内しましょう……といっても、このまま真っすぐですがね」


 アヴェルは俺達の馬車を先導する。

 歩きやすい道を選んでくれているのか、揺れもだいぶ収まった。


 ルーンもそれを感じたのか、フィストに声を掛ける。


「フィスト、これが従魔に求められる心配りなのです」

「へ? どういうことっす?」

「はあ……あなたはルディス様のことを、少しも考えてないのですか?」


 フィストは本当に分からないようで、首を傾げている。


 ルーンは呆れたようだが、アヴェルが少し嬉しそうに語った。


「まあ、最初はそんなものだ。俺も最初は、ずいぶんとルディス様を揺らしてしまったからな」

「そういや、そうだったな。最初あまりにも気持ち悪くなったから、悪いと思いつつも酔い止めの薬を飲んでいたよ」

「いやあ、あの時は本当に申し訳ありませんでした。人を乗せるなど、夢にも思わなかったので」

「それがいつの間にか、背中で寝れるぐらいになったんだ……一体、どんな魔法を使ったのかなんて思ってさ」


 苦笑いしつつも、感慨深そうに俺とアヴェルは昔の事を語り合う。


 アヴェルは寡黙な男だ。こういう話にもならない限り、昔話をしようとしなかっただろう。


「え?! そんな魔法あるなら、俺も是非教えてほしいっす、アヴェル先輩!」

「それは例え話ですよ、フィスト……」

「へ?」


 ルーンのつっこみにもかかわらず、フィストはそんな魔法が本当に存在すると思っているようだ。

 

 アヴェルもそれを聞いて、愉快そうに笑った。


「なかなか面白いやつだな。まあ、馬車を牽くのはまた少し別の話だ。魔法で揺れを軽減するコツも教えてやるとしよう」

「うっす! お願いするっす、アヴェル先輩!」


 アヴェルもフィストも上手くやってくれそうだ。


 そうこう話していると、俺達は森の先に眩い光を見る。

 

 そしてついに森を抜け、以前アヴェルが案内してくれた平原に到着した。

  

 ゴブリンが作った建物だろうか、帝国時代の重厚な石造りの神殿のようなものが見える。

 

 俺達が向かう先には、ヘルハウンドが十体程、ゴブリンが五十体程、綺麗に整列していた。

 ミニスライム達はというと、自由奔放に飛び跳ねて俺達の到着を喜んでいる。


 ルーンがすぐにでも飛んでいきそうなのを俺は手で止め、皆の前に歩み出た。


 すると、ロイツが俺の前に出て、跪く。


「ルディス様、大変お待たせしました。皆、ルディス様にお仕えしたく、この場に参った者です」


 その声に合わせ、ゴブリン達は膝をつき、頭を下げた。

 随分と統率の取れた礼、元からか俺が来るまでに練習したのだろうか。

 ただ、後ろの建物を見るに、帝国時代から受け継がれてきたものの影響は大きそうだ。


「こんな堅苦しい出迎えはよしてくれ。今回は、皆で親善を深めるため集まったのだからな」


 俺はそう答えながら、ミニスライム達を胸元に呼び寄せた。


 ぴょんぴょんと喜ぶミニスライム達を見ても、ゴブリン達は最初表情を崩そうとしなかった。


 だが、俺がミニスライム達と話している内に、何となく緊張も解けた気がした。


「お前達ここの探検はまだなんだろう? ヘルハウンド達と一緒に見て回ってくるといい」

「はい、ルディス様!」


 あまり遠くに行くな、川に入るなとは付け加えといて、ゴブリン達以外の従魔には自由に行動させた。


「さて、ゴブリン達よ」


 俺が再び目を向けると、ゴブリン達はまたすぐに頭を下げる。


 まあ、仕方がないか……


「皆、顔を上げるんだ。一人ずつ挨拶するから、名前を教えてくれ」


 俺はそう言って、一人ずつ名前や趣味を尋ねた。


「何か趣味とかあるか?」

「ううむ、趣味ですか……」


 趣味と聞かれても、なかなか答えられない者ばかりだったので、気が付いたことを一言二言交わして、親睦を図る。

 そして魔法を学んでどうしたいかとも聞いてみた。


 魔法を一生学びたい……

 皆、同じような回答ばかりだが、とにかくロイツから俺の話を聞いて、興味を持ってくれたのは間違いがないのだろう。

 

 全員を従魔にして、俺の帝印はさらに力を得る。

 従魔達も同じように魔力を多くを持てるようになったことが【探知】で分かる。


「これで、中位魔法は使えるぐらいにはなったはずだ」

「ありがとうございます、ルディス様! 我等精一杯お仕えいたします!」


 ゴブリン達はロイツと一緒に頭を下げる。


 俺は「頼んだぞ」と答えるにとどめた。


「はっ! それで申し訳ないのですが、我らはまだルディス様のお屋敷を建て終わってなくて……」


 ロイツが目を向けるのは、神殿風の建物。

 あれを、屋敷にと考えていたらしい。


「そんなものを建てていたのか?」

「はい! ルディス様は神そのものですので!」


 いや、神と呼ばれているのは知っているが、何も屋敷まで神様準拠にしなくてもいいのでは……


「もっと簡素でいい…… が、ここまで作ったのなら完成させた方が良いな。引き続き頼むとしよう」

「それはもう! ですがルディス様が来られるまでに完成できず、申し訳ございません」

「そんなことを気にしていたのか。今日はもう仕事はやめて、皆でここら辺を探検するぞ」

「え?! しかし」

「どこに何を建てるとか、皆で決めたいだろ。早速皆を呼んで、見て回るとしよう」

「そ、それはそうですが、新参の我らの望みなど聞き入れる必要は」

「新参だからこそ、参加してほしいんだ。皆に早く溶け込んでほしいからな。さ、行くぞ」


 俺は後ろにいるルーンとアヴェルとそう告げて、まずは川の方へ向かおうと伝えた。

 ゴブリン達も恐る恐るだが、付いてくる。


 こうして俺達は、従魔の隠れ里を造る視察を始めるのであった。

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