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三話 従魔と共に冒険者登録する

「早く、姫殿下を!」

 

 護衛が禿げ頭の医者に急かした。


 医者達は姫殿下を見て、大慌てで病院の中へと運ぶのであった。


 傷だけで言えば大したことがないはず。


 だが、姫と呼ばれるぐらい高貴な人だ。

 医者達も大事が有ってはいけないと、あたふたしているのだろう。


 護衛達も一緒に病院に入るのを見て、俺はこっそりと抜け出すことにした。


 俺はギルドの青い屋根を目指して、エルペンの活気あふれる市街を進む。


「ふう…… えらい目に遭ったな」


 大したことはしていない。

 しかし、ここ十五年間の農民生活で戦いとは無縁だったから、何だか疲れた。


 それに何故、ゴブリン達は帝国の言葉を?

 人を襲うのは、人間を敵視していることが、今も昔も変わらないからだろうが。


 だが、これでやっと冒険者に…… いや、その前にルーンを見つけなければ。


 恐らくエルペンの城門付近にいるだろうと、行き先を変える。


 しかし、どこか見覚えのある長いブロンドの女性が俺に向かってきた。


「せ、セシル?」


 セシル…… 俺が前世で魔法学院に通っていた頃の同級生だ。

 エトルリア大公令嬢で、中々の魔法の使い手だった。


 大図書館に引きこもりがちな俺にも、挨拶をしてくれる優しい子だったのを覚えている。

 くりっとした青い瞳に、スタイルのいい女性らしいボディライン。

 

 セシルは帝国中の男から、常に求婚されていた。もちろん俺も、惚れていた。

 しかし、世間話ばかりで、ろくに仲良くもなれなかった。

 

 何故、セシルが? しかも魔法学院の若い姿のままで、服はそこら辺の農民のものだ。

 セシルは俺と同じぐらい、十五歳ぐらいの外見だったのだ。


 似ているだけで赤の他人か? いや、違う。


 セシルは俺の前で立ち止まると、その場で跪く。


「ルディス様、お待たせしました」


 物々しい挨拶が、行き交うエルペンの市民の注目を集めた。


 この子はセシルの姿をしているが、セシルではない。俺はそう確信した。

 

「……ルーン。ここでは、やめてくれ」

「え? はっ」


 セシルはそう答えて、立ち上がった。

 

 最初は好奇の目を向ける市民達であったが、皆、そのまま歩いて行った。


「ルーン、ここでは俺はただの庶民なんだ。そんな挨拶は、止してくれ」

「申し訳ございません、ルディス様。考えが及びませんでした」

「これから気を付けてくれればいいよ。それより、何故セシルの姿に?」

「そこら辺の住民の姿に【擬態】しようと思いましたが、それでは不都合が有るかと思いましたので」

「それで、もう生きているはずもない人間の姿を取ったわけか」


 何故、帝国人の中で”セシル”に化けたのかが気になったんだけどな……

 

 ルーンは俺と同様に、いくらかの高位魔法が使える。

 そしてスライムの固有魔法【擬態】を極めていた。


 普通のスライムと違い、【擬態】のままずっと過ごすことが出来る。

 その上、いくらかの基礎魔法であれば行使できた。


 そして何より、その【擬態】の完成度の高さは特筆に値する。

 声はもちろん、体の構造までもコピーしたルーンは、本物とうり二つであった。

 

 その魔法のおかげで、俺も数々の戦争で謀略を成功させてきた。


「それでルディス様、これから私はどういたしましょう?」

「あ、そうだったな。俺と同郷出身ということで冒険者に…… そうか、冒険者志願書がなかったな」


 冒険者になるには、町村の首長が発行した冒険者志願書が必要。

 そもそも戸籍のないルーンが、それを手に入れるのは難しい。


「書類が必要なのですね! そうしたら、あれをやりましょう!」


 ルーンは、セシルの顔に笑みを浮かべる。

 久々に俺と一緒に魔法を使えるのが、嬉しいらしい。


「あれか…… まあ、誰が困るわけでもないしな」


 ”あれ”というのは、文書の偽造だ。

 ルーンは体の一部分を消費して、物へ【擬態】させる事も出来る。


 その持続時間は素晴らしく、魔力を込めれば込めるほど長時間持続した。


 今日はもう魔法を使うつもりはない。ありったけの魔力を消費し、文書を偽造するとしよう。


 偽造という言葉に少し背徳感はあるが、誰が損をするわけでもない。

 それに戸籍がないのでは、ルーンは冒険者になれない。


「よし、やるか。俺が【思念】で冒険者志願書の記憶を送る」

「かしこまりました!」


 【思念】で冒険者志願書の記憶を受け取ったルーン。

 そのまま体の一部からスライムゼリーを分離させ、冒険者志願書に【擬態】させた。


 俺も、魔力をその冒険者志願書に送る。


「これで二週間は持つだろう。では、行くか」

「はい、ルディス様!」


 俺達は冒険者ギルドへ向かうのであった。


「ということで、このルーンの分も持ってきました」


 俺はスライムゼリーを二袋に分けて、受付嬢に渡した。


 受付嬢は偽造した冒険者志願書をルーンから受け取ったが、特に怪しむこともなかった。

 

 この街の兵士が言っていたように人手不足で、冒険者の身辺調査など行わないのだろう。


「かしこまりました。では、確認させていただきますね」


 受付嬢は麻袋からスライムゼリーを出し始めた。

 だが、受付嬢はそれを見て額に汗を浮かべる。


「こ、これは?」

「スライムゼリーです。いや、お恥ずかしい。ブルースライムぐらいしか倒せなくて」


 本来、スライムは魔物の中でも弱い部類だ。

 スライム種の中でも、ブルースライムは更に最弱。


 このルーンは、俺と十年以上訓練を共にしてきた。

 それゆえ、そこら辺の魔導士に劣らない魔法を行使できるようになったが。

 

「……ブルースライム? 初めて見たわ…… まだ、そんな魔物が存在していたのですね」


 俺は受付嬢の言葉で、何故驚いたかを察した。

 恐らくブルースライムは、この時代では珍しいのだろう。

 絶滅したか、希少種になったのだ。


「え、ええ。弱い魔物がいないか、森深くまで入ったので…… いやあ、苦労しましたよ!」

「そうだったのですね。 ……いや、良く見つけました。お二人とも、試験は合格です」


 受付嬢は気を取り直して、俺とルーンに銅色のバッジを手渡してきた。


「これでお二人は、晴れてブロンズランクの冒険者です。頑張ってくださいね!」

「はい、頑張ります!」


 俺はやる気溢れる新人のように、応えるのであった。

 ルーンも俺同様に、元気よく返事をした。


 その後、受付嬢からは、現在の冒険者という職業の説明を受けた。


 まずはメリットから。


 冒険者はこの大陸の全ての冒険者ギルドを利用できる。

 つまりは、国境を気にすることなく、移動の自由が有るのだ。

 冒険者ギルドには、冒険者無料の宿泊所が併設されていること多い。

 

 次にデメリットだ。


 三か月以上理由もなしに何も依頼を受けなかった場合、冒険者の資格ははく奪される。

 また、魔物との戦いにおいて領主の要請が有れば、協力する事が義務付けられていた。

 これも特別な理由なしに断れば、冒険者ランクが降格、または資格がはく奪される。


 冒険者のランクは下から順に、ブロンズ、シルバー、ゴールド、ミスリル、オリハルコンと上がっていく。ランクによって、受けられる依頼の制限が有るそうだ。


 また、冒険者にはクラスが有る。

 これはギルドの適性検査によって、名乗れるクラスに限りが有るとのことだった。


 俺とルーンは、明日その適性検査を受けることにする。


 そして今日はもう、ギルド併設の宿に向かうのであった。


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