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三十五話 聖獣探し

 馬車でエイストの東に一日いったところで、街道沿いの村を発見する。


 家が二十軒ほど林立した村。宿もなく、周辺には青々とした草原が広がり、森が点在するだけだ。


 人の足で二日なら、だいたいこの近くにいるかもしれない。依頼を出したのが、この村である可能性も有る。

 俺は馬となったルーンとマリナに待機を命じ、村で単身聞き込みをすることにした。


 早速、羊飼いの中年男性を捕まえて話を聞く。

 この男性は村長の息子であり、村の実質的な代表でもあるそうだ。

 

「角を持った馬かい? じゃあ、あんたが冒険者ギルドからの」


 品定めされるかのように、足元から頭へと視線を向けられた。

 まあ、若い俺はいかにも頼りがいがなさそうだろう。鎧もないし、ブロンズのバッジをつけているからなおさらだ。


 中年男性は仕方ないと思ったのだろうか、ため息を吐いてから俺に依頼を出すまでの顛末を伝えてくれた。


「一か月ほど前の話になるな…… ここから北にある森を抜けた先にある丘で、村の者が角の生えた馬を発見した。白く、美しい馬だったそうだ。だが、目が合うと、すぐにどこかへと走っていったんだ」


 外見からするに、ユニコーンで間違いなさそうだ。人間と必要以上に関わろうとしないのも、聖獣らしいな。


「目撃情報はそれだけですか?」

「いや、その後も目撃したって村人がいる。最初こそ皆気味悪がってたんだがな……話が広まるにつれて、美しさと物珍しさから自分も見たいと、村人の誰もが北に行くようになったんだ。かくいう俺も子供と見にいったよ。俺は見つけられなかったが、昼夜問わず目撃情報は増えた。 ……だが、ここからが妙でな」


 中年男性が表情を曇らせる。


「一週間前ある村人の若い夫婦が馬を見つけ目を合わせた時、馬が角を向けて突進してきたと言うんだ。夫婦は何とか、小さな洞穴に入り込んで難を逃れたそうなんだが……」

「最初は敵対的でなかったのにですか……馬の怒りを買った可能性もありますね」

 

 こくりと頷く男性。

 

 聖獣はナイーブな性格だ。魔物のように人間を嫌ってはいないが、プライドが高く、見世物にされるのが耐えられなかったのかもしれない。

 だがそれならば、別の地域に移ればよかったようにも思えるが……


「ああ。それからというもの、見に行くのはやめようという事になった。だが、羊を放牧する関係上、北にいけないのは困るんだ。北はまだまだ草が生い茂っているからな。だから、あんたたち冒険者を呼んだんだ」

「なるほど……ただ、一つ確認を。最初見た馬と襲ってきた馬が、別という事は考えられませんか?」

「すまんが、そこまでは何とも…… 俺達は羊の顔は見分けられても、馬を区別するのは無理だからな。それに襲われた夫婦は、後ろを何度も振り返る暇はなかった。夜で暗かったのもある。ただ、白くて角が生えているのは確かだと言ってたよ」


 白くて角が生えている、そして夜も行動している……情報だけならユニコーンで間違いないな。


「そうですか……分かりました。私が調査に向かいます!」

「ああ、頼んだよ。 ……だが、兄ちゃん一人なのかい?」


 心配そうに訊ねてくる中年男性。

 子供を見るようなまなざしだ。

 

「え、あ、近くに二人ほど仲間がいますので、ご安心ください」

「そうかい。まあ、くれぐれも無理はしないでくれよ」


 心配はありがたいし、弱そうに思われるのは慣れている。

 だが、いやだからこそ、見返してやろうという気持ちも多少は湧くものだ。

 絶対に見つけてやろうじゃないか。


「はい!」


 俺は村を出て、ルーン達と合流し、目撃情報の有る丘へと北進した。


 途中、馬車を北の森に隠し、帝印でアヴェル達を呼んでおく。

  

 そこで周囲に人気がいないことを確認し、ルーンとマリナを人の姿に戻らせる。

 そして二人が馬車にある鎧や剣を身に着けてから、俺達は再び丘を目指した。


 森の中で、ルーンが歩きながら俺に訊ねる。


「やはり、ユニコーンなのですか?」

「村人の話だけを聞けばな。聖獣は普通人を襲わないから、怒らせたのかもしれないな。村人が何度もユニコーンを見に行ったって話だ」

「まあ、聖獣は好きじゃありませんが、人間は身勝手ですからね」

「それはあるかもしれないな……だが、出来ればユニコーンの誤解を解ければいいんだがな」


 自分で言っておいてなんだが、それは土台無理な話だと思った。


 聖獣は魔物を忌み嫌っている。それは人間が魔物に抱くものよりも深刻だ。

 そもそも聖獣の定義は何か? 帝国人なら、魔物を絶滅させるため神が創り給うた高潔な生き物、と貴族も民衆も口を揃えて答えていた。


 なによりも、聖獣は人を超える力を有しており、全ての闇魔法を破る聖魔法を使うのだ。

 捕まえるも倒すも、一筋縄ではいかないだろう。


 いわば、俺と従魔達の天敵のようなもの。


「マリナ、これから戦うのは、今までの敵とは比べ物にならないぐらい強いだろう。危ないと思えば、すぐに逃げろ。ルーンは、マリナを必ず守れ」

「そんな、私は死んでもルディス様をお守りします!」


 マリナがすかさず俺に答えた。ルーンも首を振って、訴える。


「そうです。私とマリナの命等どうでもいいのですから」

「おいおい、そんな寂しい事を言うな。それに……どちらにしろ、俺は人間だからお前達よりも先に死ぬ。だから、死んだ後もお前達には……」


 俺の言葉にマリナとルーンが目に涙を浮かべた。

 ルーンは特に、すぐにでも泣きわめきそうな感じだ。


 いかん……


「いや、俺はまだまだ死なないし、こんなとこで倒れる気もない。二人とも、今日も頼むぞ!」


 二人は「はい」と答えるが、いつもの元気がない。

 これからユニコーンを前にするのに、これでは万が一の時怖い。


「いやあ、まあでも、ユニコーンなんて余裕だな! 是非馬にして、皆に見せびらかしてやろうじゃないか! な、マリナ?」

「は、はい! 必ずや、そういたしましょう!」

 

 マリナはすぐに切り替えて、力強く応じてくれた。


 しかし、ルーンは乗ってくれない。

 

「ルーンも頑張ってくれよ。ユニコーンを売れば、馬十頭買うのも夢じゃないかもしれないぞ!」

「ユニコーンほどの聖獣なら、城一つ買えるような気もしますが……」

「あ、ああ。そうかもな!」

 

 俺とルーンの間に微妙な空気が流れる。

 だが、ルーンも子供じゃない。

 

「ルディス様…… もういなくなるなんて言わないで下さいよ、ルディス様」


 ルーンは自分のわきの下に俺の腕を回して、更に手をぎゅっと掴む。

 とても切なそうな顔だ。転生前人間を見てきたのが長いルーンだけあって、とても感情表現が豊かなのだろう。こんな時には、それが少し面倒くさくも思えるが……


 握られている手で、俺もルーンの手を強く握り返す。

 

「分かってるって……」


 ……これからは、いなくなるとか、死ぬとかの言葉はタブーだな。


 俺はこのままの状態で、ちょっとした昔話をマリナに聞かせる。


 そんなこんなで、俺達は聖獣の目撃された丘に着くのであった。


 丘には膝を覆い隠すような高さの草花が生い茂っていた。

 俺達は見通しの良い場所まで登り、周囲をぐるりと見渡す。


「わあ! どこまでも緑が続いていますね!」


 マリナは思わず声を上げた。


 取り立てて何かが見えるわけでもなく、草原と森が広がっているだけだ。

 遠くには先程いた村が小さく見える。もっと遠くには、同じような村が点在していた。


 何という事のない、田舎の村だ。


 それでもマリナにとっては真新しい景色なのだろう。

 俺だって、こういう場所は癒されるし好きだ。


 とはいえ、大都市と首都を結ぶ街道沿いでこんなに人がいないのか…… 

 このヴェストブルク王国はやはり新興国ということなのだろう

 

「ああ、のどかなところだな。遠くには、羊や牛も見えるな……」


 この辺の人間は放牧で生計を立てているのだろう。家畜の集団が各地で群れを成している


 ルーンも日除けのために額の所に手を置き、周囲に目を凝らした。


「……ですが、ユニコーンはおろか馬も見当たりませんね」

「うむ。だが、森でなければ【探知】の効果も損なわれない。この剣が有れば、見つけるのはそう難しい事じゃないさ」


 俺はすぐに目を閉じ、【探知】で全方位の魔力を探知する。

 小さな虫も魔力を持っていることが有るし、魔鉱石が落ちていることも有る。

  

 しかし、ユニコーンは大きいし、持っている魔力も多いので、見つけるのは難しい事ではない……と、そんなことを言っている間に見つけた。


 魔力の方へ振り向き、目を開くと、そこには小さな林が有った。

 

「……いたぞ。二人とも、警戒しながら付いてきてくれ!」

「「はい」」


 俺達は丘を降りて、東にある小さな林に向かうのであった。

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