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三十三話 従魔との共同作業

 ……誰も見ていないよな?


 もう一度、この森の中を良く見渡してみる。


 いるのは、ルーンとマリナ、そしてスライム達だ。 

 皆少し離れた場所から、人の姿でこちらに手を振っている。


 ルーンやマリナは大人の背丈なのでよく見える。しかし、まだ子供にしか【擬態】できないスライム達は、ジャンプしながら必死にこちらへ合図を送ってくれた。


 周囲に人はいないようだな。


 俺は皆に頷いて、了解した旨伝える。 

 もう一度安全を確認すると、周囲へ向け【風斬】を放った。


 風の刃は周囲の葉を舞い上がらせ、木を数本切りつける。

 人の背丈の倍は有ろう木々は次々と倒れて、地響きを立てた。


「これぐらいで十分かな?」


 木は全部で八本。馬車を作るには事足りるだろう。


 俺達はエルペン付近の森で、木を伐っていた。

 ゴブリン達も向かう隠れ里へ物資を輸送できるように、馬車を制作するのだ。


 馬は…… アヴェル達が牽いてくれるとは申し出てくれたが、人の多い街道を進ませるのは難しい。

 それについては、別の手段を講じようとは思っている。


 ルーンが歩み寄り、声を掛けてきた。


「ルディス様、これだけでよろしいのですか?」

「あまり派手にやると、色々と後が怖いからな」

「そうですか…… でも、よく考えれば、これでお金を稼ぐこともできますよね」

「森を伐りすぎれば、この地に住む人も困るだろう。必要な分で十分だよ」


 森の中である日突然ぽっかり穴が開いたように伐採されていたら、地元の人間も驚くだろう。


 もちろん伐ろうと思えば、いくらでも伐れる。

 しかし、そんなにたくさん伐っても運べない。また作業中は誰に見られるかも分からないので、これぐらいが丁度いい。

 

 何より、俺の目的は冒険で、この世界で金持ちになることではない。

 まあ、もちろんお金は必要だし、たくさんあったほうが良いのだが……


「ここから更に木材に加工するぞ。皆、手伝ってくれ」

「はい!」


 俺とルーン達は魔法で切り出した木を丸太にし、更に馬車のための木材に切り出す。

 設計図に沿って、長さや厚みに気を付けながら。


 皆、見ない内に中々腕を上げたようだ。

 低位魔法の【風斬】といえど、丸太を切るのはそれなりの魔力を要する。

 流石に俺やルーンのように一回でとはいかないが。


 こうして従魔達と作業していると、昔を思い出すな……


 戦争の際、敵の士気を挫くため、木々を伐り、一夜で城を築いたり……

 従魔も人も徹夜で頑張ってくれた。俺自身も不眠不休だったっけ。

 そのおかげで敵は降伏し、死者を出さないで済んだので、皆の喜びも一入ひとしおだったが。 

 

「よし、切り出しは上手くいったな。次は乾燥だが…… 俺とルーンがやろう」


 その言葉に、マリナが反応した。


「ルディス様! その仕事は、私達にお任せください!」「「お任せください」」


 他のスライム達も、合わせるように申し出る。

 ルーンは溜息を吐いた。


「はあ…… 初めてのお前達では役に立たないから、私達でやるのです。そこで見てなさい」

「いいえ、ママ。私達も出来ます!」

「マリナ、木材を作るのは簡単なようで、実は非常に奥深いのですよ。特に乾燥は……」

「ルーン、やらせてもいいんじゃないか? これからゴブリン達と作業するなら、覚えておいて欲しいし。魔法と同じで、見るよりも実際にやってみてもらった方が覚えがいいだろう」

「それはそうかもしれませんが…… まあ、いいでしょう。その代わり失敗したら、食事抜きですからね?」


 ルーンは厳しい口調で釘を刺した。


 マリナ達は別に食料を必要としないが、何だか不満そうな顔だ。


 この前の宴会で、人間の食事が悪い物でないことを知ったのだろう。

 むしろ好きになったと言っていいほど、毎日一食何かしらを食事を求めるようになった。


 でも、食費は確かにかさむが従僕の働きに報うことができるのなら、安いものだ。

 人間の暮らしに慣れ親しむのも、今後のためになるだろう。


「とにかくやり方を教えよう。基本は炎系の低位魔法で、焦がさないように気を付けて……」


 俺が木の乾燥させるやり方を実践して教えると、スライム達は真面目に聞いてくれた。


「じゃあ、やってみてくれ」

「「はい!」」


 スライム達は、それぞれ木材を【火炎】等の炎魔法で熱し始める。

 皆慎重に均等に燃やそうとするが……


「あっ!」


 早速、一人やってしまったようだ。

 声の方を向くと、木材が轟轟と燃え上がっていた。


「……ど、どうしよう!」


 あたふたとするマリナ。

 スライムが火を使うことは滅多にないから、消し方を知らないようだ。


「マリナ、落ち着いて。水魔法を掛けてごらん」

「え、は、はい!」


 マリナは俺の声にあわてて、水魔法を木材に掛ける。

 煙が収まると、そこには黒焦げの炭が出来上がっていた。

 

「も、申し訳ございません、ルディス様!」


 俺に振り返り、土下座を繰り返すマリナ。

 心なしか、体だけでなく、声も震えている気がする。


 そんな謝るようなことではないと思うのだが……


「マリナ、失敗はつきものだ。気にするな」

「し、しかし、ルディス様が伐られた木をこんな風に……」

「失敗は想定済みだよ。むしろ失敗して、その経験を次に活かしてほしかったんだ」

「でも……こんな失態を」


 ここまで怖がっているのは、ルーンから聞かされた俺の人物像のせいだろうか。

 失敗には、割と寛容だったはずなんだがな……


 俺はルーンの目を見た。

 ルーンはばつの悪そうに、目を逸らす。


 やはり当たりか。ルーンは俺が失敗に厳しいと言い聞かせていたようだ。

 ……まあ、ルーンなりにスライム達の気を引き締めようとしているのだろう。


 マリナが恐れているのは、俺からの評価が落ちる事、または嫌われるという事だろう。

 だが、従魔になってくれた者達を嫌うこと等有り得ない。言い方は悪いが、出来の悪い子程可愛いし、教え甲斐があるってものだ。


 怖がるマリナの肩をポンと叩いてやる。


「失敗自体は良い事じゃないかもしれないな。失敗ばかりして木を焦がし過ぎたら、森がいくらあっても足りない。でも、炭は炭で使える。それに地上に戻せば、そこから新たな木々も育つ。しかも、今回、火が水で消えることも分かった…… 一つの失敗から、色々と知識が増えただろう? だから失敗は無駄にならないんだ」

「ルディス様……」


 マリナは涙を拭い、顔を上げた。

 

「マリナは皆よりも使える魔力が多いこともあって、きっと【火炎】が強力過ぎたんだと思う。魔力に気を付けながら、もう一度やってみよう」

「……はい、ルディス様!」


 マリナは俺の指導の下、次は頑丈な木材を加工することが出来た。


 スライム達も悪戦苦闘するが、ルーンも教えてくれたので、しっかりとした木材が完成する。


「次は車輪と軸…… 最後に組み立てだな。皆、あともう少しだぞ!」

「「はい!」」


 スライム達は、その後も俺とルーンの指示に沿って、馬車の製作を進めるのであった。


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