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三十話 一揆

 正門から入り庭を抜けると、屋敷の正面玄関に到着する。 


 玄関は閉まっているので、少し様子を見よう。


 数分待っていると、兵士が屋敷を出入りするのに扉を開いたので、俺はそれに合わせ屋敷に侵入した。


 屋敷の中では、兵士が二列縦隊で巡回している。

 立哨している者も含めれば、まさに死角なしといったところだ。

 

 何故、こんな警備が厳重なんだ? 


 以前、ユリアを訊ねた時は、こんな警備ではなかった。

 ルディス教徒を警戒しているのか?

 

 とにかく原因を探らなければいけない。

 

 俺自身は姿はもちろん、魔力で敵に気付かれることはない。

 このまま、屋敷一階の廊下を進んでいく。


 すると、早速黒いフードを目深く被る者に気が付く。

 兵士より少ないが、廊下を見張っているようにも思える。


 ……どうして、客人である彼らが見張りを? まさか……


 俺は接近し、【探知】で魔力を探る。


 人間の倍の魔力…… 吸血鬼で間違いない。


 しかし、何故兵士達は吸血鬼を前にして、何も言わない?

 吸血鬼と気付いてないのか? いや…… 


 兵士達は皆、直視はしないが、ルディス教徒達を疑わしい目で見ている。


 異常であることは知っているが、命令か脅しで口を出せないのだろう。


 俺は更に奥に進む。丁度この奥はユリアの部屋だ。


 ユリアの事が気になったのだ。

 安否はもちろん、王女という身分を考えれば、吸血鬼に狙われている可能性もなくはない。


 ユリアの部屋の前には領主の兵一人と、ルディス教徒が二人見張っていた。


 護衛…… ロストンはどこへ行ったのだろうか?


 中には、ここにも吸血鬼が三体。そして人間が四人いるようだ。


 中で一体何を?


 どうにか中に入ろうと様子を見ようとしたとき、扉が突如開いた。


 部屋から出てくる二人の吸血鬼。


 奥には…… ロストン?


 中では、ロストンを始めとした護衛達が縄で拘束され、一か所で集められていた。


「姫殿下に手を触れてみろ?! 貴様らの命は……!」


 ロストンは声を上げるも、すぐに中にいる吸血鬼にメイスで頭を殴られる。

 兜も取られていたので、気絶してしまったようだ。


 ロストンの言葉からすれば、ユリアも捕らわれているのは間違いない。


 しかし、ユリアはこの部屋にはいないようだ。


 ……厄介なことになった。


 ユリアやロストン達を助けたい。

 だが、ここで騒ぎを起こせば、他のルディス教徒が駆け付けるだろう。

 

 だが、その過程で、どこかにいるユリアや領主の兵に危害が及ぶ可能性がある。


 もっと情報を集めるべきだが、人目が多く扉を開けられない今 探索に時間が掛かりそうだ。


 その間にユリアや領主の身に何かあれば……


 吸血鬼はこの屋敷を足掛けに、何らかの方法で街を襲うつもりだろう。

 領主の命令にさせ人を一か所に集めて…… いくらでもやりようはある。


 止めなければいけない。しかし、どうやって?


 俺は知恵を絞る。すぐにある策が浮かんだ。

 

 もし今回の件で白なら領主には悪いが、これも街の人のためだ……


 屋敷を一度出ると、俺は帝印でルーンを呼ぶ。


 少しすると、【擬態】で夜陰に紛れたルーンがやってきた。


 俺は【思念】で、ある命令を下す。


 ルーンは了解したと、すぐに屋敷の外に向かっていった。


 兵士をなるべく傷つけないように、尚且つ吸血鬼への襲撃と悟られないようにするには、これしかない。


 しばらくすると、屋敷の外、広場から声が上がる。


「もう限界だ!! このクソ領主!! 殺してやる!!」

「出てこい、太った豚め!!」

「税金を減らせ! 領主を締め上げろ!」


 複数の声は、領主を誹謗中傷する内容だった。

 広場からでなく、屋敷の四方からも声が浴びせられる。


 その声に、領主の兵は慌てて、屋敷の外へ飛び出す。

 人数にして十、二十…… 兵達は広場を探すも、声の主らしき人影は見当たらない。


「領主の兵だ! 殺せ!」


 しかし、声はまた別の場所から聞こえてくる。

 兵達は、四方に散って、反乱分子を探し始めた。


 それとは別に、更に十数名の兵が、屋敷の外で警戒を始める。


 ルーン達、中々上手くやってくれたようだ。

 それに勉強の甲斐あってか、言葉をしっかりと覚えている。 


 ともかくこれで、屋敷内の兵は減ったはずだ。

 また、吸血鬼達は自分達への襲撃でなく、領主への反乱と理解するはず。


 俺は一気に屋敷へ駆け込む。


 中では、吸血鬼達も何が起きたと廊下に集まっていた。

 窓の外に顔を向けている。


 全部で二十体はいるか。まずは作戦成功と言っていいだろう。 


「何が起きた?!」


 階段から降りて、屋敷の入り口の様子を見ようと出てくる者もいる。

 彼らが口にしていたのは、やはり俺の知る帝国語であった。

 

 吸血鬼は全員で二十数名。領主の兵や屋敷の使用人も多少混じっているようだ。


 これなら、多少暴れても問題ない。


 そして今回は手加減をしている暇はないだろう。


 俺はまず一階の廊下に行き渡るように、【放電】を放った。


「な?!」

 

 兵は突然の電撃に、声を上げた。

 この【放電】でまず、人間だけが倒れる。


 だがやはり、吸血鬼は対策をしていたようで倒れない。

  

 異常に気が付いた吸血鬼達は、魔法を唱えようとする。


 俺は【聖光】を放つ。


 屋敷の一階にまばゆい光が行き渡った。


 吸血鬼達は突然のことに目を覆うことも出来ず、その場で崩れ落ちた。


 本来はアンデッドに使う魔法であるが、太陽の光を嫌う吸血鬼にも効果のある魔法だ。


 フードから覗かせている吸血鬼の顔は焼けただれている。

 即死だろう。万が一、生きていたとしても目は使い物にならない。


 念のため、帝印でアヴェルを呼んでおく。

 吸血鬼がまだ出てくるかも分からない。


 さて、残りの吸血鬼とユリアはどこだろうか。


 俺は【探知】でまだ生き残っている吸血鬼の魔力を探る。


 廊下で倒れている吸血鬼はやはり全て死んだようだ。


 そして魔力の反応が有るのは、やはり上の階。


 吸血鬼の死体を避けながら、二階へ向かう。

 

 すると二階では、領主の兵と使用人が数名いた。

 皆、窓から外の騒ぎを見物しているようだ。

 

 吸血鬼はいないが、高さ的には二階のどっかの部屋でいるのは確かだろう。


 俺は例によって、【放電】で人間を倒す。

 バタバタと倒れる人間達は皆、何が起きたか分からないといった顔だ。


 さて邪魔者は、ほぼ排除できたはずだ。

 このまま魔力の反応がある部屋へと足を進める。


 扉の向こうには人間が二人。そして吸血鬼が三体。

 吸血鬼の一体はずば抜けて魔力が高い個体がいる。


 ……ロイズなのか?

 

 俺は堂々と扉を開くのであった。

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