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二十五話 装備の作成

 今日はエルペンで一番大きな食料品店に来ていた。

 人間の姿をしたルーンとマリナも一緒だ。


「ルディス様、こちらも必要ではないでしょうか?」

「……ん? ああ、そうだな」


 マリナが壺を指すので、俺は無条件に肯定した。


「……ルディス様? お体の調子でも?」

「いや、大丈夫だ」

 

 言葉ではそう答えたが、頭の中は他の事で一杯だった。


 数日前現れた、人を襲う吸血鬼。

 すでに、吸血鬼に襲われた親子をユリアが助けたという話は、街にも広がっていた。


 ユリアは人々のため尽くすため、街道の巡回、傷病兵や病人の治療という地味な運動から始めていた。

 まだ剣を手にしてから数日だというのに、人々からの評判は上々だ。


 エイリスら先輩冒険者に聞いた所、吸血鬼による襲撃は、最近では珍しい話でないらしい。

 しかし、エルペン周辺はまだ被害が及んでいない地域であった。


 彼らは街道で人を襲い、血を啜る。

 適性が有る人間は、吸血鬼として仲間にするという。

 

 そんなだから、人間の共通の敵として認識されている。


 各国も軍隊で対処しているが、吸血鬼達は中位魔法を使うので、一人を倒すのに十人以上の被害がでることも。


 エルペンの冒険者、軍隊を見ても、あの吸血鬼達に太刀打ちできる者はいなそうだ。


 このエルペンも狙われるのでは…… そんな不安がよぎっていたのである。

 

 せめてもの希望は、俺の言葉がそれなりの地位にあるであろうロイズに伝わる事。


 ロイズであれば、俺の声に応えないということは有り得ない。

 挨拶あるいは報復か…… いずれにせよ回答をしたがるはずだ。


 しかし、今はあれこれ考えていても仕方ない。

  

 俺は自分と従魔のために生き、出来る範囲で出来ることをするだけだ。


「ちょっと考え事をしていただけだよ。壺もそうだが、食糧も必要だな」


 今日は従魔達と拠点のための資材、食糧を見ているところだ。

 

「ごぶ、……失礼しました。子供達は何を食べるでしょうか」

「ああ。保存がきく物がいいな」


 必要な物がいまいち分からないが、ヘルハウンド達はともかく、ゴブリンは人とそう生活様式は変わらない。


 だが、ゴブリン達がどんな物を持ち合わせているかは分からない。


 この前の襲来を見るに、武器や道具は扱えるのは確かだが。

 最低限の食糧、木や石を採ったり、加工できる道具は有ったほうがいいだろう。


 集めた物は、ヘルハウンドやスライム達に、持って行かせる。

 スライム達だけでは道中危険だろうということで、アヴェルが申し出てくれたのだ。


 拠点の構築はアヴェルやロイツに一任するとしよう。


 食料品店を出て、俺達は次に道具屋を目指す。

 商店街を進んでいると、マリナが足を止めた。


「うん? どうした、マリナ?」

「……この鎧、格好いいなと思いまして」


 マリナの視線をくぎ付けにしていたのは、重厚な鉄のプレートメイルだ。

 エルペンの騎士が身に着けるようなもので、先輩であるカッセルもこの形式の鎧を持っている。 

 防御力に優れており、前線に出るのに適していると言える。


 お値段は、百デルか……


 まだ三百デル以上あるが、これから道具を買うことを考えれば、ちょっと買い控えたい。 


 ルーンが声を荒げる。


「何を馬鹿な事を言ってるんですか! 絶対に買いませんよ!」

 

 典型的な子供を叱るお母さんのようなルーンの言葉。

 マリナは慌てて答えた。


「そ、そんなんじゃないんです! ただ、本当に格好良いと思ったので」

「ほう。マリナは剣士や騎士に興味があるのか?」

「スライムだと手足がないので…… こうやって手足を使って、ルディス様を守れれば嬉しいなと思いまして」


 マリナは、ルーン程でないが数百年をあの小さな洞窟で過ごした。

 人間の世界で見える物は、何もかもが輝いて見えるのだろう。


 ルーンは両手を腰にあて、こう注意した。


「取ってつけたようなことを…… 駄目ですからね」


 確かに、お金の事を考えれば難しい。


 ……ん? そうか、そもそもお金を使う必要はないのか……

  

「マリナ、良く言ってくれた。俺は、自分の出来ることを忘れる所だったよ」


 ルーンもマリナも目を丸くした。


「鎧も道具も、自分達で作ればいいんだよ」


 プレートメイルも道具も、自分で作ればいいのだ。

 今の俺なら鉄を溶かして冷やすことなど、造作もないことだ。

 

 ギルドの不用品と、買い込んだ原料を集めれば、出費を抑えられるだろう。


 早速、革やインゴットを買い込み、宿に帰る。


 我流であるが、斧や鋸をまず作成する。

 型はないが、焼き切ったり、圧力を加えることで作れる。


 いくらか剣や槍も作っていた方が良さそうだな。


 マリナの鎧もそうだが胸当ても……


 ついつい欲張ってしまうのは、必要以上に準備を整える俺の悪い癖か。

 戦いの前には、常に万全の態勢でなければ気が済まなかったものだ。


 十数人が使える量が完成した。

 少しは手を動かす作業も有るので、結構な重労働だ。

 

 さて、次はマリナの鎧も作るとしよう。


「マリナ、少しそのままにしといてくれ」

「はい!」


 【探知】で魔力の形を読み取る。

 人に宿る魔力の形は、だいたい体の形に近いので、鎧を作るための指標とするのだ。


「ありがとう…… じゃあ、胸甲から作ろう」


 鉄のインゴットを溶かして、何層かに練り直す。

 そしてマリナの胸の形に合わせ、成形し、冷やした。


 胸だけでなく、肩、腕、腰、脚も同じように仕上げていく。


「あとは穴に、革紐を通して…… 完成だ」

「すごい! 店にあったものより、格好いいです!」

「見た目はどうだか分からんが、きっとぴったりのはずだ。着けてみるといい」

「はい、ルディス様!」


 マリナはうきうきとして、鎧を身に着けようとする。

 だが、どう装備するか分からないらしい。


 【思念】で着方を教えても良いが、基本こういう重装の鎧は、人の力を借りて身に着ける物だ。

 

 ここは俺が手伝うとしよう。立ち上がって、手際よく付けていく。

 胸と腰に手をまわし、脚を締め付け…… 


「る、ルディス様……」


 恥ずかしそうにするマリナ。それを羨ましそうに見るのはルーンだ。


 何か他意が有ってやっているわけではないのだが……


「よし、動いてみるといい」

「はい!」


 マリナはその場でぴょんぴょんと跳ねたり、手足をぶんぶんと動かす。


 意外にも身軽に出来たようだ。動きやすさが見て取れる。


 姿見で自分の姿を確認したマリナは、俺に振り返った。


「ありがとうございます、ルディス様!!」

「気に入ってくれたようで何よりだよ」

「今後も一層、ルディス様のため役立てるよう、精進します!」

 

 目を輝かせるマリナ。

 従魔の士気を高めるのも、俺の役目だ。

 実用的な鎧で喜んでくれるなら、こちらとしても嬉しい。


「ふんっ…… ルディス様から直々に鎧をいただいたのだ。ぼろ雑巾になるまで働かなければ、釣り合わないからな。だいたい……」


 ちらちらとマリナの鎧を見るルーン。

 

 どうやら羨ましくてたまらないらしい。


 小言を次々とマリナに浴びせていく。


 これは、作らなければいけないだろう……


「……ルーン。サイズを測るから、そこから動くなよ」

「え?! いいんですか、ルディス様?!」

「あ、ああ……」


 待ってましたと言わんばかりに、ルーンの顔はにこやかになる。

 さっきまでの小うるさい姑のような険しい顔はどこへやら、一転して可愛らしい少女のようだ。


 俺は、ルーンの鎧も作ってやるのだった。

 他のスライム達は、変身してもまだ小さいので、短剣をこしらえる。


 多少は研磨をしたりもするので、俺の腕は悲鳴を上げた。


 結果として皆喜んでくれたので、まあいいか……


 こんな平和な日が続けばな…… そう願うのであった。

 

 だが、俺の不安は的中してしまう。


 数日後、冒険者ギルドの掲示板には吸血鬼討伐の依頼で一杯になった。

 それだけじゃない、街道や付近の村の巡回まで。 


 エルペンはにわかに騒がしくなるのであった。


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