二十二話 剣を授ける
「……これがルディスの剣」
跪く俺から、ユリアは剣を受け取る。
この剣は、先程俺が魔力を宿す特性を移し、見た目を整えたものだ。
女性でも扱いやすい細剣となっている。
鞘から剣を出して興味深そうに見つめると、こう続けた。
「随分と洒落ているわね…… ルディスがこんな剣を使っていたとは思えないわ」
ご名答。
こんなごちゃごちゃとした剣、俺は使わなかった。
しかし、俺が持ってきた以上、その剣は正真正銘”ルディスの剣”だ。
そうでなきゃ困る。
「見た目はそうかもしれません。しかし、この剣を手にした時、使える魔力が増えたのです」
「……本当? まあ、試してみようじゃない!」
ユリアは剣を持ちながら、近くの机に振り向いた。
卓上には、呪毒が入った瓶が有る。
「……行くわよ。それっ!」
瓶に向けて、ユリアの手のひらから光が放たれる。
光を受けると、瓶の中の液体は紫色から透明に変わった。
ユリアは目を見開く。
「嘘…… さっきまで、全然駄目だったのに。じゃあ、これは本当にルディスの剣ってこと?」
剣をじろじろ見つめるユリア。
俺はこう答えた。
「確信は持てませんが、恐らくそうかと」
「……これが本物でなければ、何だっていうのよ。魔鉱石の武器ですら、ここまでの魔力は得られないわ」
「そうであればいいのですが。ただ、殿下の努力によるところが大きかったのでしょう」
「お世辞は結構よ。 何はともあれ、報酬を出すに値する武器なのは間違いない。これを受け取って」
「ありがとうございます、殿下!」
ユリアからは、金貨が入った袋を渡された。
中身は三十デル。少ない気もするが、一日の稼ぎとしては十分すぎる。
しかし…… 嬉しい反面、少し寂しい気持ちも残る。
欲しがっていた剣は手に入り、しかも、高位魔法を使えるようになった。
俺はもう用済みだから、ここに来ることもないだろう。
これが最後になるだろう。いや、最後になってほしい。
その剣を悪用しない限りは、俺がユリアの前に現れることはないからだ。
「殿下、私の役目は終わったようですね」
「そうね…… これで魔王軍と戦う者達を癒すことが出来る。私も戦場に行けるわ。全部、あなたのおかげよ」
「私などは何もしておりません。全ては殿下の努力が結果になっただけ」
「本当、お堅い男ね。あなた、もてたことないでしょう?」
その言葉に、俺は意表を突かれる。
実際、女性との会話は、当たり障りのない事しか口にしなかった。
だからか、結婚の話など舞い込んできたことがない。もちろん、魔物を従えているという時点で、論外だったかもしれないが。
ユリアは、返答に困る俺に微笑んだ。
「ふふ。私は嫌いじゃないけど、それじゃ結婚できないわ」
「ま、まあ、忠告として胸に刻んでおきます。それでは、私は」
俺は頭を下げて、部屋を後にしようとした。
だが、最後にどうしてもこの言葉を残したかった。
「……殿下、どうか私のような、弱い民をお救い下さい」
高位魔法を使えるようになったのだ。他の魔法も、努力次第では覚えられるだろう。
それがどうか、人々のために使われてほしい。
その剣は、心の優しいギラスが千年以上守ってきたものの片割れなのだから。
ユリアは、小さく笑った。
「言われなくたって分かってるわ。私はいつか、あのルディスのようになってみせる」
「その言葉、信じております。殿下なら、賢帝すらも越えられるでしょう」
「それは、難しい話ね。でも、そうなりたい…… また、会いましょう、冒険者ルディス」
「はい、殿下!」
俺はそう言い残して、ユリアの元を去るのであった。




