転生魔法
【隠密】で姿を隠しながら俺は大学の敷地を駆けていく。爆炎の上がるほうへ。
そこでは教師であるフリシアが戦っている。本来であればアンデッドには聖魔法が有効だが、明かりを確保するためか炎魔法を中心に使っているようだ。
「使われている魔力の量からして、やはり他の教師たちとは別格だな」
近づくと、さらにその魔法の腕を見せつけられる。
魔力の割には魔法の威力は大したことがない──魔法の狙いが正確だ。放った魔法はブレずに、敵へと飛んでいく。
何発も火炎魔法を撃っているのに爆発と爆発が干渉しない。爆発の範囲も考慮して魔法が着弾する場所を計算しているのだ。
まるで……かつてのリリスのような。無駄のない正確無比な魔法だった。
いかん……観察だけでなく、俺も加勢するとしよう。
しかしどうするか。
もう少し、フリシアの様子を見てみたい。それに生徒に危害が及ばないとも限らない。
「手加減なしでいくか──【聖光】」
天に手を掲げると、瞬く間に眩い光が夜空に広がった。
光は雨となって辺り一帯に降り注ぐ。
現れたアンデッドは一瞬にして灰となってその場に崩れていった。周辺からはアンデッドの反応が完全に消失した。
自分でも驚いたが、だいぶ転生前の魔力を取り戻せてきた。これも従魔たちのおかげだ。
これだけ派手にやればフリシアも怪しむだろう。
狙い通り、フリシアは周囲を見渡す。そして──こちら側に目を向けた。
【探知】で魔力を追っているか……あるいは天性のものか。
【思念】で接触してみるか。
(見事な魔法だった、フリシア)
俺の思念を受けて、フリシアは驚愕する。もう一度周囲を見ると、こちらに真剣な顔を向けた。
(あなたは誰?)
(お前の、生徒を戦に巻き込まないとする理念に感銘を受けた者だ)
(だから、私に手を貸したの?)
(そうだ……俺からも質問させてもらおう。何故、自分の地位を捨ててまで生徒を守ろうとした?)
(そこまで知っているなら聞いているでしょ? 演説で語ったことが全てよ)
(ルディス、か)
(ええ……昔から、その名が頭から離れないの。彼を深く学ぶほどにね)
やはりリリスとは関係がない? いや、もしかしたら。
(では、彼の従魔だったリリスという名に聞き覚えはないか?)
(名前は知っているわ。イービルアイのリリス。でも……いえ、リリス?)
フリシアは目を丸くする。
(ルディスに関する記述を残し……その傍ら、転生魔法を研究……それを、エライアの予言のルディスと転生する時期に近くなるように……っ!? な、なんで私がそんなことを知っているの?)
困惑するフリシア。
転生魔法を研究? ……もしや、リリスは転生魔法を編み出していたのか。
転生魔法自体は眉唾なものと考えられていたが……転生した俺がいる以上、否定できるものではない。
また、リリスが編み出した転生魔法がどんなものかも分からない。
もし転生前の記憶がなくなるような転生魔法であった場合……リリスから転生したフリシアの今の状態や行動にも説明がつく。
そうだ、と断じることは俺にもできない。また、フリシアにはフリシアが歩んできた人生がある。
(何かルディスと縁があるのやもしれないな……もしルディスに興味があるなら落ち着いた時でいい)
こちらに顔を向けるフリシア。
(大陸西部のヴェストブルグ王国を訪れよ。そこに、ルディスの従魔がいる)
(ルディスの、従魔が?)
(あるいは単に魔法を探求したい、という目的でもいい。いずれにせよ、我らはお前を歓迎する)
黙り込むフリシア。迷いのようなものが窺える。
だが、やがてこう口を開いた。
「……私には生徒たちがいる。彼らの卒業までは大学を辞めない」
(ふっ……天晴れな心意気だ。先ほども言ったように、我らはいつでも歓迎する。急ぐことはない)
それでは、と【思念】を切ろうとする。
しかし、フリシアは待ってと口にした。
「あなたはルディス……ルディスなの?」
(どうかな……)
そう言い残し、俺は去ることにした。
その後、アンデッドは完全に消滅させられた。
ルーンたち別働隊の働きもあり、生徒たちに被害はなし。
大陸統一を宣言した学長も、翌日には宣言を取り消した。そもそも、切り札であるアンデッドが消滅したのでは戦いにはならない。再軍備をするにしても、数年はかかる。
ともかく俺たちは、アッピスの野望を打ち砕くことに成功するのだった。




