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危険の予感

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「はあ……本当に学生なんかやるんですか?」


 アッピス魔法大学の試験当日。

 ルーンは大学に向かうまで、不満たらたらだった。


「先輩嫌そうですねー。私は人間の学校って滅茶苦茶興味あったんですけど! 楽しそうじゃないですか!」


 ネールは上機嫌で言う。

 マリナも口にはしないが、学校にいけるのが嬉しいようだ。


 だが俺はルーンが何故学校が嫌なのか知っているので、ルーンにどうこうは言えない。


 というのも、ルーンは俺の前世の皇子だったころを覚えているから嫌なのだ。

 俺は魔法大学で孤独な日々を過ごしていたし、ルーンたち従魔も魔物の出入りを禁じる魔法大学に入れないということで退屈な時間だったのだ。


 まあ魔法を覚えるうちに、その決まりも有名無実となったというか、魔法で人目を誤魔化せるようになった従魔たちは自由に出入りし始めるのだが。


 それを考えると、今も人目を誤魔化しているのは変わりない。怪しまれないように魔力を抑えたり、俺たちの会話も聞こえないようにしている。


 校門をくぐると、先日会ったヴェストブルク王国出身の娘アリシアが声をかけてくる。


「ああ! ルディスさんたち! おはようございます!」

「おはよう、アリシア。昨日は願書の提出方法とか教えてくれてありがとう」


 アリシアは試験方法やこの学校での宿など、親身に教えてくれていた。


 アリシアは首をぶんぶんと振る。


「いえいえ! それよりも絶対、一緒に合格しましょうね!」

「ああ、頑張ろう」


 ヴェストブルク王国からの受験生たちは俺たちだけだ。だからアリシアも俺たちに受かってほしいのだろう。


 ルーンは冷めた目でアリシアを見ているが。


 ネールが小声で言う。


「もう、先輩ったら。綺麗な子がルディス様の前に現れるとすぐに……うっ!?」

「ネール……私に感情などありません。ただ私はルディス様の婚姻関係が複雑にならないよう警戒しているのです。見てください、彼女の目を」

「た、確かにちょっと惚れていそうな……ルディス様格好いいですからね」

「でしょう。でも考えてみてください。ただでさえノーと言えないルディス様。伴侶が増えすぎて、やがては大陸を揺るがしかねない派閥争いになる恐れもあります。あのユリアもああ見えて絶対束縛したがるタイプでしょうし」


 ユリアには毎週手紙を送らされているだけに、ルーンの言うことを真っ向から否定できない……


 会話はアリシアには聞こえないようにしてあるが、アリシアは何となく険悪な空気を感じ取っているのか苦笑いしている。


 そんな時、突如後ろから声が響く。


「はっ! 今年もどこからやってきたのか分からない、野蛮な言葉を喋る奴がいるな!」


 振り返れば、そこには金の刺繍の入った紫色のローブを着た者がいた。

 

 この魔法大学の制服と少し似ている。

 魔道共和国には基礎学校があるそうなので、そこの生徒だろうか。


 ルーンが機嫌の悪そうに言う。


「私にはあなたの言葉が、聞こえていますよ。知らない言葉を野蛮と片付けるなんて、自分の不勉強っぷりを晒しているようでみっともない」

「な、なんだと!? このローデシオン家の誇る麒麟児、イーゴット様を不勉強だと!? お前たち、この私を誰だか分かっているのか!? お前たちなんて、我が父上の一声で」


 怒るイーゴットを見て、アリシアがルーンの袖を引く。


「る、ルーンさん。あのバッジ……アッピスの貴族の方です。もめ事を起こさないほうが」

「ほうほう。逆らえば、受験を落とされるわけですね? そんな学校はこちらから願い下げです!」


 ルーンはわざわざ周囲に聞こえるように大きな声で言った。


 本人としてはこれで魔法大学に行けなくなるのなら儲けものと思ったのだろう。


 しかし、教職員のようなものがやってきて言う。


「こら! 問題を起こす者は失格だぞ! さっさと会場へ向かえ!」

「し、しかし、こいつは、この私を!」


 イーゴットは納得いかないという顔をするが、職員は呆れるように息を吐く。


「本当に君のような生徒が増えたね……この学校では魔法の腕と魔力がすべてだ。それは君も知っているだろう?」


 その声にイーゴットはぐぬぬと口を噤むと、俺たちを睨みつけた。


「覚えておけよ! あとで皆の前で、お前たちをねじ伏せてやる! 私の魔法を目にして泣くなよ!?」


 そう言い残して、イーゴットは試験会場に向かうのだった。


 ルーンとネールはべえっと舌を出して、それを見送る。


 しかし、ねじ伏せるとは……そんな物騒な試験あっただろうか。


 俺は筆記試験と魔力の試験しかないとアリシアに教えてもらっていたので、首を傾げる。単に言葉の綾かもしれないが。


 そんな中、職員が言う。


「外国からの受験生だね……気にしないで頑張ってくれ」

「仲裁していただき感謝します。先生」


 俺が頭を下げると、職員は複雑そうな顔をする。


「なかなか辛い試験になると思うが……どうか気を付けてくれよ」


 そう言い残し、職員は去っていくのだった。


 アリシアはその声に、元気よく「はい!」と答えた。


「ルディスさん! いい人がいてよかったですね!」

「ああ、そうだな……」


 アリシアは公正そうな職員に好感を覚えたようだ。


 たしかにあの職員は公正なのだろう……しかし、あの表情は。


 ともかくこの様子だと、アリシアの言っていた去年までの試験の内容と今年の試験は確実に違ってくるだろう。

 外国人を締め出しているというし、これは警戒が必要そうだ。


 俺は周囲に気を配りながら、試験場へと入るのだった。

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