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十五話 黒い影

「マリナ、この薬草も頼めるか」

「はい、ルディス様! 今、参ります!」


 青く長い髪を揺らして、マリナは俺の元へ走ってくる。

 

 俺は森の中で摘んだ薬草を、マリナに渡した。

 すると、ルーンが少し遠くの木の下から声を掛けてくる。

 

「ルディス様、こちらに魔鉱石が!」

「今行く!」


 俺とルーン、マリナは、エルペン近くの森林に覆われた丘に来ていた。


 魔物退治に…… ではない。

 薬草を採ってくる依頼で、ここに来ていたのだ。


 しかし、報酬は少ない。麻袋一杯の量で、五デルという額だった。


 これだけでは全く儲けが出ない。


 だから、こうして俺は背負った籠にせっせと鉱石の類を入れているのだ。

 すでに俺の籠には、人一人の体重に匹敵する鉱石が入っている。


 魔法で掘り起こした方が早そうだが、あまり多く掘ったところで一度に多くは運べない。


 魔鉱石の鉱床を見つけるのは容易いことだ。【探知】で探せばいい。

 魔鉱石は、微弱な魔力を発している。


 採掘場を作って、少しずつ運ぶか…… しかし、その間に奪われるということもありそうだな。


 それはそれで、また新しく掘ればいいのだが……


 ただ、魔鉱石の採掘場が出来たら、領主が利益を独占するために調査に乗り出しそうだ。


 それに万が一、採掘場を作ったり、作業しているところを見られたら、色々と不都合だ。


 あまり目立つことは避けたい。


 とりあえずは冒険者のランクを上げるため、こつこつと頑張っていこう。

 

 エルペンに帰ると、俺は鉱石商の元へ、ルーンとマリナはギルドに向かう。


 俺は鉱石を売りに、ルーン達は報酬を得るためである。


 街の大通りには、商人の露店が立ち並んでいる。

 しかし、ここ数日は少し店が少ないように思えた。


 その中で鉱石を扱う商人の元へ向かう。


「すいません、これを売りたいのですが」

「おお、魔鉱石かい! 高値で買い取るよ」


 俺は眼鏡をかけたヒョロヒョロの中年鉱石商から、魔鉱石と引き換えに四十デルを受け取った。


 一個が五デル。それが八個だったので四十デル。中々の儲けだ。


 その分、体の方もだいぶ疲れたが。


 しかし、俺の仕事はまだ終わっていない。


 このまま、ユリアの元へ魔法を教えに行くのだ。


 といっても、体はもう動かさない。


 用意させた呪毒に、【浄化】を掛けるだけなので、ユリアの部屋で出来る。


「うーん。駄目だわ。魔法陣は完ぺきなはずなのに……」

「練習あるのみですよ、姫殿下」


 俺は肩を落とすユリアに、そう声を掛ける。


 頭で思い描く魔法陣等は、すでに教えた。後は、詠唱するためのヴェスト語、【浄化ピュリフィケイション 】を考えたり。


 しかし、ユリアは中々の魔法の才能の持ち主だった。


 まず、俺と同じようにユリアは詠唱を必要としなかった。


 王族ということで、ノールの言うように帝国人の末裔なのかもしれない。

 帝印を持っていることを考えれば、誰かの皇子の子孫の可能性もある。


 つまりは、遠い親戚かもしれないということだ。


 持っている魔力も、たいしたものだ。

 ノールや他の冒険者よりも多く、魔力を有している。


 だが、高位魔法を使うのは難しそうだ。 

 中位魔法であれば、十分に使える量だが。


 ユリアは、俺の言葉に悔しそうにする。


「王印も魔法も駄目なんて…… いや、諦めないわ。今日は朝まで、練習してみる」

「お休みにならなければ、体はもちろん、魔力も回復しません。ゆっくり休まれてください」


 俺の声に一応は頷くユリアだが…… 俺が帰ったら、多分練習を続けるだろう。


 今日もすでに、目の下にクマが出来ていた。昨晩から、ずっと練習してるのだろう


 こういう子は、言っても聞かない。

 本人の希望通り、【浄化】から教えたが、少し無理が有りそうだ。


 ここは、明日からちょっとした中位魔法を教えて、自信をつけさせてみるか。

 魔力を限界まで消費させていけば、その最大量も少しずつ増えていくはずだ。


 俺はそんな事を考えながら、領主の屋敷を後にした。

 既に日は暮れている。


 今日はもう帰ろう。


 ユリアに魔法を教える報酬は、一日二デル。


 効率を考えれば鉱石集めの方が良さそうだが、一時間で済むので妥当なところだろう。

 市街で済むのも、こちらとしてはありがたい。


 それに、こうやって魔法を教えていると、昔の俺を思い出す。

 従魔達に、色々な魔法を教えていたなと。


 皆……


 かつての思い出が頭に浮かぶたびに、なんだか寂しくなる。


 別れてすぐは、自分の死の方が早いと思ったのでそこまででもなかった。


 だが、今は千年後。ベイツのように、すでに死んでいる従魔も多いだろう。


 もうどうやっても会えないんだなと思うと、やはり寂しい。

 

 俯き気味で大通りを歩いていると、口論をする若い男女の姿が目に入る。


「こんな時間に外出るなんて正気?! 最近は、黒い影が街道に出没してるのに!」

「黒い影がなんだ! 俺は、もうこんな街出ていく! あんな領主のために、これ以上馬鹿高い税金なんて払ってられない!」

「だからって、今日はもういいじゃない!」

「明日、やつらが取り立てに来るんだぞ?!」


 女性が男性が城壁の外に出ないよう、呼び止めているらしい。


 原因は税金のようだ。


 俺達冒険者は税金を納める必要がない。冒険者資格がはく奪されない限りは。


 しかし、農民や市民は税金を領主に納めなければいけないのだ。


 小耳に挟んだことだが、領主は前のゴブリン襲来で騎士の殆どを失ったらしい。

 新たな騎士を抱えるためには、資金が必要なのだろう。

 遺族への支払いも有るはずだ。


 そのしわ寄せが領民に…… 元々、ここの領主は評判が悪かったので、少し心配だ。


 それよりも何より、”黒い影”とは一体何だろうか?


 夜盗のことか? 


 領民の税金が上がった事で、盗賊に身を落とす者がいてもおかしくはないだろう。


 その夜はいつも以上に夜道を警戒しながら、宿に戻った。


 そして次の日。ギルドに高額報酬の依頼が出される。

 

 依頼主は、何とこの街の領主であった。


 内容は、黒い影の調査と討伐だ。

 

 五百デルという報酬に、冒険者達も皆、掲示板の前に群がる。


 俺は近くにいたノールへ声を掛けた。


 あのゴブリン大襲来以来、ノールは以前のような様子に戻っている。

 それも以前に増して、熱心に依頼を受けているようだ。


「黒い影…… 一体なんでしょうね?」

「私も人から聞いた話だけど、とんでもない速さで襲ってくるそうよ。夜の街道に、赤い二つの光が見えたと思うと、周囲を回って飛び掛かってくるって」

「盗賊か何かでしょうか?」

「元冒険者や暗殺者の盗賊…… そう思うのが普通だけれど、襲われた人達は無傷で、何も奪われないらしいの」

「では、魔物? それも、変な話ですね」


 魔物にしろ、人にしろ、意味もなく襲うことはあり得ない。

 何か目的が有るはずだ。


「ええ。しかも、意味の分からない言葉を、二、三吐いて去っていくとかで……」

「気味が悪いですね……」


 得体の知れない敵だから、町の人も恐れているのか。


 領主も領主で、領内で変な噂が立ち、遠方からの商人が寄り付かなくなることを恐れているのだろう。


 ルーンが、俺にこう訴えた。


「ルディス様、私達もその依頼受けましょうよ!」

「ああ、そうだな……」


 一度に五百デルは大きい。人々の税金からと思うと、なんだか気が引けるが……


 しかし、先輩冒険者のエイリスがこう声を掛けてきた。


「残念だけど、二人とも。この依頼は、ゴールドランク以上の冒険者じゃないと受けられないって」

「ええ?! ……そうなんですか」

 

 そうだ、俺はまだ駆け出し冒険者。ランクもブロンズだ。


 依頼によっては冒険者をランクで制限するものもある。

 これは、まさにその依頼だったようだ。


 残念だが、規定は破れない。


 エイリスは俺の肩を、ポンポンと叩く。


「そう、しょぼんとしなさんな。私達が討伐したら、酒の一杯は奢ってやるから!」

「そうだ。今度は、エイリスの奢りでな」


 隣から、そう声を掛けたのは、赤い鎧が自慢の大剣士カッセルであった。


「そうよ、このオリハルコン冒険者のエイリス様…… って、どうして私が奢らなきゃいけないの?!」


 二人はいつものように、軽口を叩く。


 俺の後ろで、ルーンの声が聞こえた。


「ノールさんも行かれるのですか?」

「ええ、私もこの二人と一緒に行くわ」

「それなら、安心ですね!」


 ノールの答えに、ルーンは冗談っぽく言ってみせた。


「ちょっと、ルーン。今の聞いたわよぉ。それって、私とカッセルだと心配ってこと? ……このこのぉ」


 エイリスもじゃれるように、ルーンの頭をほっぺを優しくつねる。


 いつもの三人。心配はいらないか……


 それにこのギルドでは十人もいない、オリハルコン級の冒険者だ。

 俺が考える以上に、幾度もの死線を乗り越えてきてるはず。

  

 だが、俺は黒い影の戦い方に、不安を拭えないでいた。


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