百四十五話 再び王都へ
「つまり、敵は武装した人型の不死者だけではないと?」
俺の声に、オルガルドは頷く。
「大型の魔物の姿の者も多数。元はドラゴンのアンデッドもいた」
「ドラゴンのアンデッドか……」
アンデッドの種類によって、作成や召喚に要する魔力は異なってくる。
一般に、大型の生物のほうがより多くの魔力が必要になるのだ。
「ドラゴンともなると、並の術者では作成できませんね」
隣で聞いていたルーンはそう呟いた。
「ああ……そんなアンデッドを使役できるのは」
俺の頭に、ヴィンダーボルトの言葉が頭によぎる。
ヴィンダーボルトにアンデッド召喚や作成の力を与えていたのは、片翼の天使だった。
身体的な特徴から、それは堕天使だと推測できる。
俺のかつての従魔フィオーレは、俺の知っている限り唯一の堕天使だ。
もしフィオーレがヴィンターボルトに力を貸していたとして、その理由には疑問が残る。
ヴィンダーボルトは小者だ。
フィオーレが彼の何かに賛同して協力したとは思えない。
きっと、ヴィンダーボルトを利用しようとしたのだ。
今、軍団と呼ばれる不死者たちは大陸全土を脅かしている。
ヴィンダーボルトの件は、フィオーレの壮大な計画の内の一つに過ぎないはずだ。
「オルガルド。俺は北方へ向かおうと思う。東方へ行っても、敵の指導者と会える可能性は低い」
「うむ、それがいいだろう。だが、ルディス。実はここに来る途中、この国の首都が騒がしいのが気になった」
「王都のことか? 何かあったのか?」
王都はユリアが王となってまだ間もない。混乱は確かに生じるだろうが、皆ユリアの下で団結していたはずだ。
オルガルドはうんと頷く。
「多くの人間が、北よりその王都に逃げ込んでいた。仲間の一人を探らせたが、東部の不死者たちよりも、南下が深刻のようだ」
「北に住んでいる人々が、王都に難民として逃れてきているわけだな。東部と比べ、このヴェストブルク王国は人口も街も少ない……きっと、南下を止めるすべがないんだ」
このヴェストブルク王国は、大陸西部における大国だ。
主な敵対国家は、東方の国々。
それゆえ、防衛戦力は大陸東部方面の山脈に多くが配置されている。
砦なども、基本的に東部へ偏っているのだ。
「なるほど。ゆえに、王都は騒がしかったのだろう。王都の人々は、王都にて、敵を迎え撃つようだ」
「そうか……分かった。一度、王都へ向かおう」
そこで軍団を倒し、北上する。カリスの魔王軍ともうまく挟撃できるかもしれない。難民から、軍団の情報を得られるかもしれない。
オルガルドは「我も共に向かおう」と言ってくれた。
俺は従魔たちを皆集め、こう伝える。
「皆、俺は王都に戻る。不死者を倒すのに、皆の力を借りることになるかもしれない。不死者たちは生きた魔物も攻撃する。ここは、人間に……いや、俺に力を貸してくれないか」
従魔たちは誰しもが首を縦に振った。
アヴェルとロイズが一歩前に出ると、アヴェルが口を開いた。
「我らは常にルディス様に従います。いつでも、ご命令を。それにフィオーレは我らの仲間。必ず連れ戻しましょう」
「ありがとう、皆……皆はここで戦の準備を整えてくれ。すぐに伝令を向かわせる」
俺の声に、従魔たちはすぐに準備に取り掛かった。
俺はルーンに向かって言う。
「よし、行こう」
「はい、ルディス様!」
ルーン、ネール、マリナは俺にそう返してくれた。
その他、連絡係としてヘルハウンドを数体伴い、俺はオルガルドらユニコーンと王都を目指すのだった。




