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十二話 従魔の申し出

「ひいいいイッ!!」


 周りのゴブリン達が、蜘蛛の子を散らすように逃走を始める。

 【放電】の麻痺は治まっていたようだ。


 俺には敵わないと思ったのだろうか。

 頭目であろうベイツの高位魔法を跳ね返したのを見たのだから当然か。


 ベイツの体は跡形もなくなり、俺がかつて与えた浅紫色のローブだけがひらひらと宙を舞っていた。


 とにかく、これ以上の殺生をしなくて済むなら好都合だ。


 後は【透明化】と【隠密】で、エルペンに帰るだけだな。


 俺はエルペンに振り返った。


 ……うん?


 そこには、一体の赤いローブを着たゴブリンがいた。

 体を震わせながら、額を地面にこすりつけている。


 命乞いか?


「そう不安にならずともよい。余はもう」

「ルディス様! どうカ! どうか、このオレをあなた様に仕えさせてくださイ!」

「……余の従魔になりたいと申すか?」


 ゴブリンは一度頭を少し上げて、また地面に低く平伏する。


「顔を上げよ。 ……そして名を名乗るのだ」

「は、はイ! オレはロイツと申しまス!」

 

 ゴブリンは足を震わせながら、頭を上げてそう名乗った。

 

 俺はそれに、どことなくかつての”ベイツ”の面影を見た。

 もちろん、人間がゴブリンの顔を見分けるのは至難の業だ。

 だが、”ベイツ”も俺を恐れながら、従魔になりたいと申し出てきた。


「……そうか、ロイツか。では、ロイツよ。余の従魔とならんとする理由は何だ?」

「オレ、ルディス様のような、伝説の大賢者になりたいでス……」

「ほう? それは、つまり余をかの皇帝ルディスと信じるのだな?」

「当然でございまス!! あの高位魔法、先代の口伝ではルディス様ただお一人が使えたと聞いておりましタ」


 【魔法反射】のことだろうか? 厳密に言えば、別に俺だけが使えたわけじゃないのだが……


 まあ、それはこのロイツが従魔となってから教えればいい。


「そうか。では、お前は魔法を極めて何をする?」

「……極めル? いえ、ルディス様、オレは一生を掛かっても魔法を極められませン。だから、オレが従魔になりたいのは、魔法のためだケ」

「一生を懸けて、魔法を学ぶということか…… ははははっ!!」


 これは面白い。己の欲望のため、一生を魔法のためだけに費やすか。


 平和に貢献したいとか、忠誠を尽くしたい等と言われるより、何倍も信用が出来る。


 俺ですら、魔法を極めたかも分からないのだ。

 魔法の修練は、一生ものだ。


 ……しかし魔法のためにか、同じことを言っていたのが過去にいたな。

 

「ひっ! お許し下さイ!」


 ロイツは俺の笑い声に、再び頭を何度も下げる。

 自分の言葉が気に障ったと勘違いしたのか。


「はははっ! 勘違いするな」


 俺の声に、ロイツが再び頭を上げる。


「ロイツよ! 余はお前を気に入ったぞ。お前を余の従魔…… 従僕としよう!」

「本当ですカ! 身に余る光栄でス!!」


 ロイツはもう一度、深く平伏するのであった。


 俺は【探知】で、ロイツの魔力を調べる。


 ベイツとかつての”ベイツ”よりも低い魔力。

 これでは、中位魔法も使えないだろう。


 だが、それはどうでもいいことだ。

 

 俺の従魔となることでその魔力は増える。

 それに、俺の近くであれば帝印の効果で、使える魔力が増加した。

 これから魔法を学び続けるのであれば、成長もしていくだろう。


 何より、今の魔力等重要ではない。

 今後どうしたいのかが重要だ。


「では、ロイツよ。余の従魔となる前に、条件を伝えておこう」

「はイ! 何なりト!」

「まずは、余の許しなしに野生動物以外へ危害を加えることを禁止する。もちろん、刃を向けてきた者は、人間であろうと魔物であろうと抵抗したまえ」


 理性のない者は、俺の従僕にはしない。


 高潔な信条を求めているわけではない。

 ただ己の利益のためには、一定の理性が必要であると理解してほしいのだ。


 従魔の契約は上下関係と言う者もいたが、俺からすれば双方に利益をもたらす契約だ。


 契約には、決まりが必要。互いの利益のために必要なことだ、


「そして余の下した命令を守る事。しかし、異論が有れば必ず述べよ」

「かしこまりましタ、ルディス様!」

「そうか。では、契約を始めるとするか」

「……え? 条件はそれだけなのですカ?」

「無論だ。どうした? 気が変わったか?」

「いエ! とんでもありませン!」


 そうだ。俺が従魔に求めるのは、そんなことぐらい。

 王が騎士に求めるような忠誠などはいらない。奴隷ではないのだ。


 故に俺は、帝印の能力、絶対服従も滅多に使わなかった。


 俺の最後の絶対服従が、最初の絶対服従になった従魔も多かっただろう。


「では、良いな?」

「はイ!」


 俺の右手の五芒星が光る。


 ロイツの同意が得られた証拠だ。


「うむ…… ロイツよ、そなたを余の従僕と認む」


 俺がそう述べると、ロイツの体には俺の帝印が一瞬浮かび上がった。


「これでお前は余の従魔だ。よろしく頼むぞ」

「はッ! このロイツ、精一杯お仕えしまス!」

「さて、ではこれからだが……」


 そうだ、これからのことだが……


 どうしよう?


 ベイツに随分と偉そうに、魔法の境地が云々言ったが……


 とても今は、ロイツに魔法を教えられるような環境にない。


 小さくて【擬態】の出来るスライムなら、エルペンに連れ帰れるのだが……


 とはいえ、従魔を増やすのであれば、これは遅かれ早かれ問題になる事だっただろう。 

 

 どこか人間の目に付かない場所に拠点を構築する必要が有るな。


 それには、やはり働き手が必要。


「ロイツよ…… お前に試練を与えよう」

「はっ、何なりとお申し付けくださイ!」

「余はこれからも魔力を増やしたい。またお前の魔力を増やすためにも、従僕…… 従魔を増やす必要が有る。そこでだ。お前は、他に従魔に相応しい者を、ゴブリンから募ってほしい」

「かしこまりましタ! オレと同じようにルディス様を信仰する者がいますので、そいつらを集めてきまス!」

「信仰? ああ、余の復活を望むと言う」

「はイ! それをまさか、生きている内に目にすることが出来るとハ……」


 信仰というからには教義があったりするのだろうか。

 詳しく聞きたいが、いずれここにもエルペンの兵がやってくる。


「……そうか、随分と待たせたようだな。では、十分に集まったなら、しばらくは人目に付かないところで待機してくれ。折を見て、余が帝印で適当な場所へと呼び寄せる」

「帝印で呼び寄せル?」

「うむ。この帝印はな、従魔に向けて主人の方角を知らせることが出来るのだ。それを頼りに来てくれればいい」

「なるほド! かしこまりましタ!」

「それぐらいだな…… ああ、少し待て」


 俺はベイツが着ていた浅紫色のローブを拾う。

 だが、【火炎嵐】のせいでどこも穴だらけだ。


 これはかつて、俺が”ベイツ”に与えたものだ。

 魔法のローブだけあって、【火炎嵐】を受けても何とか耐えたようだが。


 俺は中位魔法【修復】を使う。

 今の俺では完全には直せないが、少しはましになるだろう。


 浅紫色のローブは、穴のない状態にまで戻った。

 しかし、細かいくすみは消えていないようだ。


「とりあえずは十分だろう。これは、お前が受け継げ」

「はっ、ありがとうございまス。今のも魔法なのですか?」

「そうだ。いずれお前にも教えてやろう。これが有れば、魔力が上がるのは知ってるな?」

「いエ、知りませんでしタ」

「そうか…… とにかく持っていれば、魔力が上がる。着ていけ」

「はイ!」


 ロイツは浅紫色のローブを着始める。


 うむ、なかなか似合っている。

 新人らしい立ち振る舞いも有って、かつての”ベイツ”のようだ。


「では、兵も迫っていることだ、ここらで別れるとしよう。ロイツよ、頼んだぞ」

「はイ! 陛下のため、必ずや仲間を集めてきまス!」


 そう答えて、ロイツは頭を下げる。

 そしてそのまま、北側の森へと消えていった。


「では、俺たちも行くか」

「はい、ルディス様!」


 俺のローブとなっていたルーンは、そう答えた。


 俺は【透明化】と【隠密】で姿を隠し、エルペンへと帰還するのであった。

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