百二十三話 衰え
「うぉおおおお!!」
カッセルが大剣を振って、階段のスケルトンを蹴散らしていく。
ルーンやマリナ、ネールら新人を気遣って、前衛を代わってくれたのだ。
そんな汗をかくカッセルに、俺は慰労の意味もこめて回復魔法をかける。
「ふう……む、すまぬな、ノール」
「え?」
「今、回復魔法をかけてくれたのだろう? 怪我もしてないのに」
「いえ、私は何もしてないわよ?」
「え? では、殿下が?」
カッセルは首を傾げ、ユリアに訊ねた。
「いえ、私も何も……ルディスではないのですか?」
ユリアは首を横振ると、俺に顔を向けた。
「はい。今のは俺です。前衛を代わっていただいたので」
「そうだったか。ノールはなかなか疲労回復の魔法は使ってくれないのでな」
「やたら動き回るあなたに使っていたら、それこそこっちが疲れきっちゃうわよ」
ノールはカッセルに小言をいった。
その二人を見て、ルーン達が再び前衛に戻る。
そんな中、エイリスがため息をつく。
「はあ……私の疲れもとってほしいわよ。もう一時間も階段を降っているせいか、脚がパンパン」
エイリスは自分の足をさわさわと撫でた。
俺はそんなエイリスに魔法をかける。
「おお、すごい。ルディス、ありがとー」
「いえいえ……しかし、本当に終わりが見えませんね」
この階段にはいってすぐ気が付いたことだが、この階段は上下左右に伸縮している可能性がある。
階段は埃が少なく、逆に塵が舞い上がっているせいか、空気が重い。
魔法の反応はないようので、もうこれ以上伸びたりしないだろうが……うん?
俺は上から階段を下ってくる魔法の反応に気が付く。
スケルトンが迫ってくる……いや、違う。
球状の反応……岩が転がってくるのか。
だが、ただの岩ではないだろう。おそらく、魔法を宿した爆弾のようなもののはずだ。
しかも一個じゃない。二、三個……十個もあるな。
あれが【爆炎】魔法を宿しているとして、全て爆発した場合……
ここの床と壁では、簡単に崩れるだろう。
俺たちはもちろん、地上のほうにも何かしらの影響があるかもしれない。
当然、王国人に被害がでるのだ。
そこまでして隠すことか……ヴィンダーボルト?
曲がりなりにも、俺は一国の君主だった。
慣れないなりにも、死力を尽くして国民を守ろうとした。
だからこそ、彼のやったことが理解できない。
そして死してなお、生者の世界に干渉しようとするその姿勢に怒りを覚える。
ともかく、止めてこないといけないな……
俺が後ろに首を向けると、ロイズが俺と目を合わせた。
(陛下。岩のほうは、この私にお任せを)
(ロイズ、気づいていたか……すっかり老いたと思ったが)
(さきほどは失礼いたしました。が、あれは感極まっただけ。まだ、もうろくしておりませぬよ)
(少し冗談をいっただけだ……それで、任せられるか)
(はっ。すぐに戻ってまいります)
ロイズはそう俺に伝えると、急に「あっ!!」と声をあげた。
「しまった……階段の途中で大事なものを落としてしまったぞ」
皆、ロイズに振り返る。
「すぐに戻ってまいります! 皆様はそのまま下に!」
そんなロイズをエイリスが呼び止めた。
「ちょ、ちょっと! スケルトンが来たら危険だって! あとじゃいけないの?」
「ええ! ……あれは我が主の忘れ形見。我が命よりも大事なもの」
皆、先程のロイズの涙を見ているからか、あとにしろとは強く言えなかった。
まあそんな大事なものをとは落とすなとは、言いたいだろうが。
「仕方ないわね……カッセル、ノール。皆を頼むわ。私は彼を護衛する」
エイリスの言葉に、ユリアがいう。
「ならば、皆で戻りましょう……そうすれば……いや」
ユリアは言葉を途中で止めた。
これはロイズの幻惑魔法。
一人でいかせて大丈夫という安心感を、皆に感じさせているのだ。
洗脳と違い、これはどちらかといえば回復魔法に近い。
ある程度の友好関係のある者を安心させるための魔法だからだ。
「皆様、安心して下さい! それでは!!」
ロイズの言葉に、皆「気を付けて」と不安そうな顔をしつつも見送った。
ロイズのやつ、やはり魔法のほうは全く衰えてないみたいだな。
「皆さん、俺たちは下を目指しましょう」
俺の声に、皆はうんと頷く。
俺たちは再び、階段を下るのであった。




