百二十話 近衛騎士の亡骸
「今度はなんだ!?」
カッセルは大剣を構え、光を見つめた。
光が収まると、そこには……
「騎士……?」
エイリスがそう呟いた。
長剣と盾、サーコート付きの鎧……たしかに、騎士を思わせる風貌の者がいた。
しかし、ただの騎士ではない。
正確にいえば、おそらく生前は騎士だったスケルトンだ。
この騎士は一体だけでなく、十数体が俺達を囲むように現れた。
カッセルは舌打ちして、騎士たちに大剣を向ける。
「ちっ! さっきの奴らよりは、少しは骨がありそうだな! ロストン殿、殿下を! ……ロストン殿?」
カッセルは呆然とするロストンに目を向けた。
ロストンだけでない、護衛やユリアも額に汗を浮かべ、騎士たちを見ていた。
いったいどうしたというのだろうか?
もしや、この騎士達を知っている……うん?
俺はサーコートに描かれた王冠の紋章に気が付く。
「殿下!?」
ノールがユリアに声をかけた。
すると、ユリアは我に返ったような顔をした。
「ご、ごめんなさい、ノール……あの者達は、王宮の近衛騎士と同じ鎧を身に着けています」
「なんと……では、彼らは」
ノールが呟くと、ユリアはうんと頷く。
「彼らは、もと近衛騎士だった者達……」
あるいはただその鎧を身に着けているだけかもしれないが……
ユリアたちからすれば見慣れた者たちが、変わり果てた姿に見えるのだから、戦う気も鈍ったのだろう。
しかし、騎士たちはそんなこともお構いなしに、剣をこちらに振り上げてきた。
「まずい!」
カッセルは大剣ですぐさま騎士を切りつけようとした。
が、騎士は軽い身のこなしで、それを避ける。
「こいつら、俺の攻撃を!?」
「カッセル殿! 彼らが本物の近衛騎士だったのなら、相当な剣の使い手たち。気を付けられよ!」
ロストンもようやく剣を構え、カッセルに忠告した。
やはり、ただのスケルトンではないようだ。
明らかに動きが今までのスケルトンと違う。
連携を取りつつ、じりじりと距離を詰めてくる。
まるで、意思を持った生き物のような動きだ。
ヴィンダーボルトの側近だろうか。
いずれにせよ、こいつらは他のスケルトンと違うようだ。
もっとも、俺やルーンたちの相手にはならないだろう。魔法が使える者達でもないようだし。
「俺が魔法でやつらの足を止めます! その内に攻撃を!」
俺はそういって、氷魔法を騎士達の足元に放った。
その隙に、ルーンやマリナ、ネールが騎士達を攻める。
同じようにノールも氷魔法で騎士達の動きを封じ、エイリスやカッセルがそこに攻撃を加えていった。
しばらくして、俺達は騎士達を倒し終えた。
普通のスケルトンよりは時間がかかったが、皆特にケガなどはしていない。
そんな中、ユリアがいった。
「……近衛騎士の亡骸にまで守らせる場所……そこまでして、ヴィンダーボルトが隠したいもの」
確実に最下層へ迫りつつあることを確信した俺達だったが、ちょうど昼時ということもあり、この処刑場の片隅にある小さな部屋で休息をとることにするのであった。