百十七話 包囲
「な、なんだ、こいつらは!?」
扉の向こうにいたスケルトンを見て、ユリアの護衛の兵士が声をあげた。
同時に、闘技場の中央からも声が響いた。
「後ろにも敵が!」
声をあげたのは、庶民に扮した吸血鬼のロイズだ。
俺達が通ってきた通路は塞がり、そればかりか闘技場の壁から無数のスケルトンが現れたのだ。
「まずい、囲まれたか……ロストン殿は殿下を! 我等は奴らを倒す!」
カッセルは大剣を手に、スケルトンに突撃していく。
同時に、俺も皆もスケルトンたちに攻撃を始めた。
俺やルーンたちは開いた扉からやってくるスケルトンを、ノールたち先輩冒険者は闘技場のスケルトンたちに対応する。
ユリアはロストンたちに守られながらも、回復魔法を皆に掛けていた。
ロイズ達はナイフを手に、避けながらなんとなく戦っている。
さすがに、こんなスケルトンたちに誰も苦戦することはないか……しかし、まさかこんな急に現れるとは。
ここにもスケルトンのトラップがあったのだろうか。いや、魔力の反応はなかった。
これはそうか……転移魔法か。
どこかにスケルトンの集積されている場所があり、それをここに転移させている。
だから、魔力を察知させずにスケルトンを投入できたんだ。
そこに転移を使う者がいるか、そういった仕掛けがあるか……だが、増援の姿はない。打ち止めのようだ。
俺もルーンもロイズも、こんなやつらは秒で倒せる。
しかし、なかなか本当の力を見せられないので、派手に倒せない。
なので、全てのスケルトンを倒すのに、十分以上もかかってしまった。
「……皆、大丈夫?」
回復魔法を掛けながら、ユリアは皆に言った。
俺達はそれに言葉や身振りで大丈夫と応じる。
俺が皆に【魔法壁】をかけていることもあったので、誰もケガはしてないはずだ。
そうでなくても、さすがにスケルトン相手に後れを取る者は、ここにはいなかった。
エイリスはふうと息を吐くと、こう呟く。
「いきなり、手厚い歓迎ね……これからが思いやられるわ」
「ああ。だが、地下都市の最下層へ行く道だ。やはり一筋縄ではいかぬのだろう」
カッセルはエイリスの言葉に頷くと、大剣を背中に戻した。
たしかに、今までの地下都市の場所とは違う。
この先も転移魔法を使ってくるかもしれないな。
防ぐ手立てはあるが……仕掛けが知りたい。もう少し泳がせたいところだ。
俺は後ろでなんとなく魔法で皆を守ってくれていたベルタにも訊ねる。
(ベルタ。この仕掛けについて、何か知ってるか?)
(い、いえ……ただ、一つ最下層保全隊の言い伝えがあって……)
(言い伝え?)
(かつて逃げようとした者が、突如として現れた多数のスケルトンに阻まれ、逃亡を断念したことです。そこには、罠の仕掛けもなにもないはずなのに)
(つまり、今と同じような展開だったってことか)
(はい。皆、ヴィンダーボルト様が仰っていた裏切者は殺されるという言葉を思い出し、それが本当だったと認識するようになったそうです)
(なるほど……)
とすると、この仕掛けはヴィンダーボルトの残したもの……
この先も色々と気を付けた方が良さそうだな。
だが、皆まだ最初の戦いだというのに疲れている。
様子を見ながら、対応するとしよう。
しばらくすると、周囲を見回していたノールが言う。
「もう敵も見えないし、皆特にケガもないようね。ですが、殿下……ここからは私たちだけでも」
「そうです。まずは俺たちが先行して、安全を確保した後殿下に来ていただくことも」
俺もノールの言葉に同調する。
しかし、ユリアは首を横に振った。
「いえ……皆だけを危険な目に遭わせるわけにはいきません。私も行きます」
その力強い返事に、俺たちは皆頷く。
こうして、俺たちはついに最下層へ続く階段を下りていくのであった。




