百十五話 見返り
「へえ、私もいきたいなぁー」
カリスはお菓子を食べて満腹になったのか、腹をさわさわと撫でながら呟いた。
「カリスも?」
「だって、ここザール山でしょ? 大陸でも有数の大火山だよ? 噴火を止めてるって、すごそうじゃん?」
「魔法を使っているのは、間違いないと思うがな……だが、カリス。君には、しばらくこの王都の地上にいてほしい」
「ええ、どうして?」
「火口に到着した時、地上の人々に何かが起こらないとも限らない。もしもの時は、君に王都の人を助けて欲しいんだ」
「私が人間を?」
カリスは不思議そうに訊ねると、茶に口を付けた。
その言葉に、カリスの部下でもあるネールがぴくりと肩を震わせる。
何故、人間を助ける必要があるのか……魔物であれば普通そう思うだろう。
ネールは、俺の願いをカリスが不快に思ったと、感じたようだ。
「ま、まま、魔王様! ルディス様もお菓子を奢って下さったわけですし、ここは」
「さすがに、全額は出しませんよ……出すなら、ネールが支払ってくださいね」
ルーンがそう口を挟むと、ネールはそんなことで争っている暇はないと、ルーンに目で必死に訴える。
俺とカリスが口論になる……そう恐れたのかもしれない。
しかし、カリスはお茶を飲み干すと、いつもと同じ様子でいった。
「いいよ。このお店の人には、こうして美味しいお菓子もつくってもらったしね」
ネールはほっとした様子になる。
だが、「だけど」というカリスの言葉に、再び姿勢を正す。
「休む場所と、お菓子をちょうだい!」
「もちろんだ。俺が泊っている宿の隣の部屋を借りるとしよう。菓子は……決まったものを宿に届けさせる」
さすがにまたこれだけ食べられると、金がなくなるだろう。
この店に菓子を配達してもらうよう頼んでおこう。
はやく、早く帰ってくる必要もあるな……。
「やった! それじゃあ、私はしばらくこの街を観光してるよ!」
「ま、魔王様、少しは言葉を……」
「ネール。いいんだ。ただ宿の中に居ても退屈だろうからな。……カリス。この仕事が終わったら、王都の案内をするよ」
「うん! 待っているよ!」
こうして、カリスは俺たちに協力してくれることになった。
次の日の早朝、俺たちは王宮のユリアたちと合流し、地下都市へ向かうのであった。




