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百二話 地下牢

「……ごほっ」


 扉が開くと、エイリスは咳きこんだ。


 風がこちらに吹いてくるのと同時に、埃が運ばれてきたのだ。


「【魔盾マジックシールド】」


 ノールは、前面に【魔法壁】の下位にあたる防御系の低位魔法を放ってくれた。


 埃と風は、俺達の横を抜けていく。


 エイリスはノールの肩をぽんと叩く。


「ありがと、ノール。しっかし、すごい埃ね……」

「長年誰も足を踏み入れてなかったのだろう。これは面白そうだ」


 カッセルも未知の場所ということで、気分が高揚しているようだ。


 風がやむと、埃も落ち着き、明りが奥まで照らすようになった。

 一本の通路と、その左右に鉄の檻で区切られた牢獄が見える。


 俺はベルタに【思念】で訊ねる。


(ベルタ、ここに見覚えはあるか?)

(ないですね……こんな場所は初めて見ました)

(そうか。最下層組には知らされてなかった場所なんだな)


 【探知】で探るも、特に魔力の反応はない。厳密に言えば、ネズミや虫の類はいるようだが、魔物の反応はなさそうだ。


 そんな時、マリナが声を上げた。


「ひっ!」

「ちょ、マリナ、驚かさないでよ……ああ……」


 ネールは牢獄の中の骨を見て、呟いた。


 長い細い蛇のような形の骨。

 だが蛇とは比べ物にならないほど、太く長い。

 生きている状態なら、馬が三頭並んだような長さだろう。


 エイリスもそれを見て、不思議な顔をする。


「でかっ……なんの骨かしらね?」

「デザートスネーク……大陸の南の魔物だと思うわ」


 ノールが答えると、カッセルが驚いた様子で口を開く。


「あの、馬すらも丸呑みにすると呼ばれる、蛇の魔物だと? 相当珍しい魔物と聞いたが」

「ええ。すでに絶滅してるんじゃないかって言われているわね。でも、デザートスネークは南部でも最南端に生息している魔物……こんなところにいるなんて」


 誰かが捕まえたとしても、ここまでは距離がある。


 ヴィンダーボルトが大金をつんで運ばせたのかもしれない。


(ルーン、なんか感じたか?)

(いえ。恐らく、私たち従魔とは関係ないでしょう)


 ルーンの言う通り、恐らく俺と俺の従魔とは関係がなさそうだ。そもそも俺の従魔に、デザートスネークはいなかった。

 

 とはいえ、こんなところに連れてこられて一人死ぬとは……

 デザートスネークは言葉も操れる。

 闘技場はやはり、残酷だな…… 


 とはいえ、まだまだ牢獄はある。


 ルーンと共に、注意深く中を見ていくとしよう。


「とりあえず、何かないか探しつつ、進んでいきましょう!」


 エイリスの先導で、俺たちは通路を進み始めた。


 牢獄には骨以外は、ほとんどがらくたしかなかった。

 食事を入れるための樽やらバケツなど、とても価値のありそうなものはない。しかも、どれもボロボロだ。


 俺の従魔と関連するやつはいなさそうだな……しかし、珍しい魔物ばかりだ。


 東部の秘境にいるような魔物までいる。

 相当なお金がこの闘技場では動いていたのだろう。


 これを見て、ベルタは少し気分が悪そうであった。

 知り合いがいるか訊ねたが、仲間はいないらしい。


 ただ、自分達にはこんな場所は伝えられておらず、まさか魔物が牢獄に閉じ込められていたとはと、ショックを受けているらしい。

 最下層の魔物は協力を要請したヴィンダーボルト。魔物に表向きは敵対心のないよう、振る舞っていたはずだ。


 エイリスはちょっと残念そうに呟く。


「ねえ、カッセル……魔物の骨って売れるかしら?」

「ふむ。どうだろうか。牙は武器になりそうだが」

「東部の大学では標本として高く買い取る者もいるようだけど……王国ではどうかしらね」


 ノールは興味深そうに骨を観察しながら、そう呟いた。


 そんなこんなで五分ほど進むと、前に魔力の反応が見えてきた。


 また扉。しかし、施錠されているわけではない。

 この魔法は……【浮遊】か。


 次第に目でも、その扉が見えてくる。

 やたら禍々しい装飾の扉だ。

 

 エイリスもそれに気が付く。


「お、あの扉、階段かしら?」

「また閉まっているようだが……なにか仕掛けは」


 カッセルは扉の前へと歩いていく。


 そして注意深く扉を見ようとすると、扉が引き戸のように勝手に開いた。


「な、なんだこれは!? うん? ただの部屋ではないか」


 扉の向こうは、小さな部屋だった。人が十人は入れるぐらいの。


 これは魔法の昇降装置。帝国でも使われていた。


 入って上昇を念じれば、部屋が上昇していく。

 おそらくは、闘技場に繋がっているのだろう。


 俺が、この装置は調べたものですと言う前に、ノールが言った。


「帝国の高い建物にも使われた、魔法の昇降装置ね。入って、上に上がるように念じましょ」

「……危なくないかしら?」


 エイリスは不安そうに呟いた。

 

 俺はそれに答える。


「俺も調べましたが、王立図書館の本で闘技場にはこの装置があるという記述を見ました。特に使っても問題ないと思います。もし不安でしたら、まず俺が……」

「いや、大丈夫よ。何事も、挑戦だし……さ、行きましょ!」


 そういうエイリスに、カッセルもおうと答える。


 しかし、ノールだけは不思議そうな顔をしていた。


「ノールさん?」

「ルディス……王都の図書館に、そんな本あったかしら?」

「え? あ、ありましたよ。名前は忘れましたが……」

「そう……まあいいわ、行きましょう」


 ……ノールは魔法大学にも通っていた知識人。そんな本、王都の図書館にはないはずと思ったのだろう。

 俺の言葉を本当と思ったかどうかは分からないが、こういう話をノールにする時は気を付けないとな……

 

 俺達はそのまま昇降装置に乗る。


 すると扉が閉まり、体がふわりと浮く様な、変な感覚になった。


「な、なんかおかしくない? やっぱ、危ないんじゃ?」


 エイリスはノールの肩を掴み、心配そうに呟いた。

 

 しかし、これが普通だ。昇降装置は正常に機能しているようだ。


 一分もしない内に、 昇降装置は止まった。


 そして扉が開き、俺たちはそこから出る。


 巨大な広場……それを囲むように、観客が座るスペースが城壁のようにそびえている。


「おお! なんかすっごい場所ね!」

「うむ。王都の地下にこのような場所があろうとはな……」

「東部のものと比べても立派ね……」


 感動するエイリス達。


 俺も少し驚いたが、古代の帝国のものに見劣りしない。

 端まで歩くのに、三分はかかるぐらいの広さはある。


 そんな中、マリナが何かを発見したようだ。


「うん? あれは……」


 すぐに俺たちは、この闘技場の中央の巨大な鎧に気が付くのであった。

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