百一話 同行
「なるほど……しかし、また殿下の依頼とはね」
俺の話を聞いて、エイリスはそう呟いた。
俺はこの地下都市の最下層について話した。
ユリアが皆のためにそこを発見したいという話と、一方でリュアックがそれを悪用しようとしていること。
そしてそこに至るために経由する、闘技場とそれに通じる地下牢の話をだ。
こんなことは、エイリス達だから喋れる話だ。
ノールをはじめ皆、ユリアに好感を持っているからできる話でもある。
以前、ユリアから賢帝の剣を探す依頼を受けた時、エイリスは古代の遺跡などの情報を提供してくれた。
エルペンから王都までの護衛の依頼も、当然知っている。
だから、またユリアから仕事を頼まれたのかと思ったのだろう。
「不思議な縁がありまして……」
「殿下から気に入られちゃったんじゃない? いやあ、王女がお得意様かあ。うらやましいわあ」
たしかに信用はされてるんだろうけどな……本当に変な縁だ。
俺が従魔の足跡に興味があり、ユリアもかつての俺と従魔に興味があるのだから、探すものが一致してくるのは自然なのかもしれないが。
そんな中、カッセルが腕を組んで呟く。
「ふむ……しかし、リュアック王子か」
「昔から、いろいろと問題のある方として有名ね」
ノールもカッセルに同調するように言った。
カッセルはうんと頷く。
「うむ。豊かな商人相手に、牢獄から勝手に罪人や魔物を連れてきて、その処刑や拷問を見世物にしてるとか……その様子はあまりにむごいと聞くが」
「王都の裏社会ともつながりがあるとか……まあ、とにかく権力欲の強い方ね」
ノールが言うと、エイリスも口を開く。
「今回の戦争だって、もともとは東部の商人に冤罪をかけたリュアック王子が引き金なんでしょ? 本当に迷惑な男よね」
誰も聞いてはいないだろうが、リュアックはやはり評判が悪い人物だそうだ。
いや、評判もそうだが、かなりあくどい奴なのだろう。
これはなんとしても、やつよりも早く最下層に到達しないとな。
「ま、私達も同行していいわよ。そもそも私達も十八階の調査が依頼だったわけだし。その代わり……」
「エイリス! お前はルディス達から受けた恩を忘れたのか。見返りを求めようなどと」
「冗談よ、カッセル。単にそんな場所があるなら、私達も見てみたいじゃない。何百年も忘れ去られた闘技場なんて、是非見てみたいわ」
エイリスの言葉に、ノールも頷いた。
「話だけなら聞いたことがあるけど、王国ができてすぐの場所だし、私もこの目で見てみたいわ」
そう言ってノールは俺に振り返る。
「だけど、発見してもしばらくはギルドに内緒……ってことね。ギルドからリュアック王子に漏れないとも限らないし、私達も黙っているわ」
「ありがとうございます。当然、価値のあるものはエイリスさんたちにお渡しするので」
「ふふ、お宝が期待できそうね。それじゃあ、早速行きましょ!」
こぶしを突き上げたエイリスだが、すぐにそれを下げた。
「……で、そこに行くまでの道は、見当がついているの? まさかしらみつぶしに、なんて言わないでしょうね?」
「え……ええ! 地図もばっちり頭に入れてきたので! 俺に付いてきてください」
俺はとにかく前へと歩き始めた。
実際は地図なんてない。
だから、さっきと同じように魔力を飛ばして、道を探るだけだ。
そして同時に、魔鉱石の反応を探してみる。
スケルトン、シャドウキメラ……そして召喚魔法が記憶されている魔鉱石の反応……いくつもの魔力の反応がある。
その中から、施錠魔法の記憶されたものを見つけるのだが……これは骨が折れるな。
いや……他のより、一際大きな魔力の反応がある。
しかも、施錠されているようだ。これで間違いなさそうだ。
俺はその方向へと魔力を飛ばし、道を進んでいく。
途中、やはりシャドウキメラなどが襲ってくるので、魔法で倒しながら。
「随分と腕を上げたわね……最初見た時から、すごいと思っていたけど」
ノールは感心するように言った。
エイリスも頷く。
「そりゃそうでしょ。ルディス達は、エルペンじゃ百年に一度の大物新人なんて言われてたんだから」
「そんな風に言われてたんですか、私達?」
マリナが言うと、エイリスはさらに褒め言葉を口にする。
「そりゃそうよ。そもそも最初のうちは……」
マリナが嬉しそうに聞く中、ルーンは当然とばかりに鼻が高そうだ。
ネールもこれに口を出す。
「まあ、皆ルディス様のために冒険者やってるんですし、やる気に溢れてますからね! なにしろ、ルディス様との結婚がかかっているんですから!」
また、こいつは……
「本当、もてる男はつらいわねえ。カッセルも羨ましいでしょ?」
「いや、俺は別に……」
「そっか、あんた婚約者一筋だもんね。あの子のために、家をつくるんだとかいっつも」
「こ、こら、エイリス! その話は、他の冒険者には内緒にしてくれと!」
とまあ、エイリスはカッセルの方が弄り易いのか、話題は変わった。
そんなこんな賑やかに話していると、俺達は巨大な魔力の反応がある場所へと着く。
見るからに巨大で無骨な鉄の扉……中には魔鉱石が埋められ、魔法で施錠されているようだ。
俺は【透明化】で見えないベルタに、【思念】で訊ねる。
(どうだ、ベルタ? わかりそうか?)
(ちょっと待ってください……扉の剣の紋章は……多分ですが、アレイシア・バルナード、です)
(アレイシア……アレイシア、だと?)
(ご存じで?)
(ああ……帝国で語り継がれていた伝説の剣闘士だ。間違いなさそうだな)
闘技場を思わせる名前で、いかにも合言葉にぴったしだな。
「アレイシア・バルナード……」
俺がそう呟くと、扉は鈍い音をたてながら開いていくのであった。




