百話 つくりもの
「シャドウ……キメラ」
目の前に現れたのは、何者かによって作り出された魔物であった。
材料は、闇属性の魔力。そして獣から出てきた魂をもととする魔物……ウィスプ。
これを組み合わせることによって、つくられるのだ。
シャドウキメラは、かつて帝国で秘密裏につくられていた”兵器”とも呼べる存在だった。
俺もつくり方だけは知識として持っていたが、自分でつくることはなかった。当然、皇帝の間は帝国での製造は禁止していた。
獣であっても魂をどうこうするというのは、俺の信条に反する。
もちろん、従魔も製法は知っていても、実際につくる者はいなかった。
だが、何故こんな場所に?
これも、最下層の魔物と、ヴィンダーボルトが関係しているのだろうか。
ともかく、彼らは普通の魔物とは違う。つくり手の命令を忠実に守る、殺人兵器なのだ。
話が通じる相手ではない。
俺はとりあえず、傷だらけのカッセルに回復魔法を掛ける。
「カッセルさん、今、回復します!」
「ぬ? ルディスか、これはありがたい」
カッセルは傷が癒えるのを感じると、こう言った。
「気配を感じるので大剣を振ってみたが……なるほど、シャドウキメラ相手では効かぬわけだ」
シャドウキメラはいうなれば、ウィスプの強化版。魔力の集合体であるので、剣などの攻撃は通用しない。
つまりは、魔法の出番……
「【炎壁】!!」
俺が魔法を放つよりもはやく、ノールは魔法を繰り出した。
また、エイリスも矢じりに粉のようなものを振りまき、それを弓でシャドウキメラに放つ。
あれは魔鉱石の粉末……魔力を付与したわけか。
俺も【火炎球】のような低位魔法で、シャドウキメラを攻撃していく。
俺が二体を倒している間に、エイリスとノールがあっという間に八体全てを倒すのであった。
ふむ……魔力量からしてそう多くなかったが、あまり強くなかったな。
つくり手が、あまり強い魔力の持ち主ではなかったのかもしれない。
「ふう……一時はどうなる事かと思った。カッセル、あんたね!」
エイリスの声に、カッセルは申し訳なさそうに答える。
「す、すまん……だが、地図にない階段だったのでな」
「突然現れる扉や階段は危険だってのは、ここでの常識でしょ……はあ、まったく」
突然扉や階段が現れる……これも魔鉱石のトラップかもしれないな。
もしかしたら、ベルタもそれをいつの間にか経由して、迷ってしまったのかもしれない。
俺は周囲を【探知】で探ると、確かに階段付近に魔鉱石のような反応があった。
反応からして、【透明化】か……ここの階段を隠してたのだろうな。
そして誰かが迷い込むと、扉が閉まると……
一方で、シャドウキメラを召喚するような装置は見られない。
これは以前ここの倉庫で見たようなゴーレムと同じく、もともと配置されていた魔物だったのかもしれない。
エイリスがカッセルに説教する中、ノールが俺達に言った。
「ありがとう、皆。私達じゃ、とてもあの扉は開けられなかったわ。マリナちゃん……その、結構力があるのね」
その声に、ルーンが答える。
「マリナは木こりの子ですからね。力仕事はお手の物です」
「え? は、はい! 村では丸太を運んでいたので!」
マリナは腕の筋肉を自慢するような仕草を見せた。
細くて、なんとも説得力がない……
だが、ノールはすぐに俺に質問をする。
「しかし、よく分かったわね。シャドウキメラだって」
「え? それは……ここに来る前、ちょっと調べていたので」
「そう……あれに殺される冒険者も多いのよ。だいたいは、魔法を使えないのが原因でね」
「剣とかは効かないって話でしたしね」
「ええ。それにカッセルは明りがなかったでしょうから、もう少し遅れていたら危なかったわ」
明りは、ノールの【灯火】で得ていたのだろう。
トラップのせいで離れ離れとなり、カッセルは一人暗闇の中で彼らと対峙したというわけだ。
エイリスが説教を終えたのか、俺に声を掛ける。
「というより、どうしてここに? あんた達にはまだここは……」
そう聞かれるよな……さて、どう答えようか。
ユリアの依頼を正直に話すか?
だが、方角が一緒だったら、色々と厄介だ。
そういえば、ユリアは最下層へ行く際、冒険者を雇いたいと言っていた。
ノールとユリアは面識があるし、エイリスとカッセルも協力してくれるだろう。
ここは……正直に話すか。
俺はユリアの依頼を、ノール達に話すのであった。




