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元悪役令嬢と婚約破棄してなぜかヒロインやらされてます。  作者: 上川ななな
僕が私になりヒロインになって攻略される寸前まで
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09 新たな悪役令嬢に狙われて

「でしたら、あなたにはもう頼みません。自分でなんとかします」


  クラリッサの態度は、それから最悪だった。


 元々、僕に対して冷たい感じはしたんだけど。

 男のユージーンが好きらしいが、親戚のこっちの姿にもう少し優しくでもすれば、印象も違ったのに。


 決して、彼女の態度が悪いから、ユージーンとの間を取り持てない訳じゃないんだけど。


 女になってしまった僕とでは、到底無理な話なのだ。

 だが、なぜ彼女が僕に対してこんな態度をとるのか、少し考えれば分かる問題だった。

 この時の僕には、全然分かってなかったのだけど。


「クラリー、聖乙女に対して失礼だ。ユージーンとのことは諦めろ。元々彼は手の届かない存在なんだ」


「酷いわ! スターリングは私の気持ちが分からないの? 色々手を尽くして、あの女からようやく引き離したと思ったのに!! 彼は学院を辞めてしまって、挙句に公女と婚約までして。一度は諦めかけてたのに、公女と婚約破棄したと聞いたら、もう我慢出来ない。必ず想いを遂げてみせるわ!」


 おいおい、なんか聞き捨てならないセリフがあったぞ?

 あの女から引き離した? まさか?


「お前がユージーンの恋人に嫌がらせしているのは知っていた。知っていて止めなかった僕も最低だ。だが、彼らは幼馴染で、お前の付け入る隙なんかどこにもなかった。自分で気付いてくれると思ったんだけどな」


「そんなこと、結局止めなかったあなたが偉そうに言える?」


 スターリングは自嘲的な笑みを浮かべた。


「僕はお前を甘やかし過ぎたようだ。クラリー、お前にユージーンと結婚する資格なんかない」


「絶対に諦めないわ。彼はもうフリーなのよ? どんな手を使ってでも落とすわ」


 ひぃぃ、ほ、本気だ!!


「ユージーンに何かしたら、僕も黙ってないぞ」


 クラリッサは、スターリングをキッと睨みつけると、そのまま部屋を出て行ってしまった。

 それを黙って見送ったスターリングが、僕に軽く頭を下げる。


「ユージェニー、妹がすまなかった。昔はあんなではなかったのだが、恋は盲目というか、ユージーンに惚れてしまってから人が変わったようで」


「別に私は気にしてません。お話が終わったなら失礼します」


「あ、ああ」


 戸惑うスターリングを一人残して、僕は生徒会室を後にした。

 彼を成り行きで夫候補に加えてしまったが、別に彼を攻略する気もさらさらないし、必要以上に仲良くなることもないだろう。


 それにしても、まさかヴィヴィへのいじめを主導していたのがクラリッサだったとは。

 在学中、その存在すら知らなかった。そもそも彼女はSクラスだし、僕は一般クラス。まあ接点がないのはそうなんだけど、僕には追っかけや取り巻きがたくさんいて、その一人一人をあまり覚えていないというか、あまり興味がなかったというか。

 僕には既にヴィヴィがいたから、他の娘に目を向けることがなかったとも言える。

 もちろん、ヴィヴィがいるのを分かって、告白してくる娘はたくさんいた。だが、僕はそれらを皆、一言で片付けていた。


「恋人がいるのに、他の女に目を向ける男とつきあいたい?」


 大概はこれで、皆諦めていく。だが、それでも一度だけでいいから、関係を結んでくれだの、無茶を言ってくる相手もいた。

 そういう輩には、はっきりと無理と言って切り捨てていた。


 正直、僕には女の子と浮かれている時間など微塵もなかった。日夜勉強に明け暮れていたから。

 それで結局、ヴィヴィを蔑ろにしてしまった。他の女の子から妬まれて、いじめを受けていた彼女もろくに見ていなかったのだ。


 自分に対する自己嫌悪。忘れていた罪の意識。

 本当に最低な男だ。


 死にかけて、前世を思い出して、女になってしまうなんて。

 やっぱり、罰を受けたのかな?

 僕はしみじみ考える。


「ジーン」


 呼ばれて振り返ると、ニコラス様が立っていた。


「迎えに行ったら、教室にいなくて。探したよ」


「申し訳ありません。校内を案内してもらっていました」


 ニコラス様は僕の隣に歩を進めて、二人で並んで歩き始める。そして彼はなにげに呟いた。


「何かあった?」


 やっぱりこの人は、抜け目がない。

 僕はスターリングとクラリッサ兄妹の話を簡単に話した。


「スターリングも夫候補に? アレックス公女との婚約話を進めない為に?」


「ええ。公女と結婚となると、婿に出なければならないからと」


 ニコラス様は、興味深そうに話を聞いていたけど、クラリッサに関しては彼もそのまま放っておく訳にもいかないようで、


「彼女は、君に何か危害を加える可能性があるな」


「僕にですか?」


「話を聞く限り、彼女は君の元恋人をいじめたり、実際に手を出している。ユージーン恋しさに、ユージェニーの君に危害を加えかねない」


 そっちか! そうか、彼女の中ではユージーン≠ユージェニーなんだ!!


「ユージーンとのことを断ったからでしょうか?」


「邪推されたのかもしれないよ? 下手をすれば、ユージーンを巡るライバルにされたのかもしれない。君達は親戚、はたから見れば結婚は可能な間柄だからね」


 それは全くの盲点だった。僕の中で、ユージーン=ユージェニーな以上、ありえない発想だった。


 だから、彼女の態度は僕に対して最悪だったんだ。


「いずれにしろ、クラリッサには注意だ。私も気を配ろう」


「ありがとうございます」


 以上の点で僕は確信した。アレックスが悪役令嬢でなくなった今、その役割がそのままクラリッサに移ったのだと。


 ゲーム中、アレックスがヒロインにやらかした数々の悪事。あれがそのままクラリッサの手により僕に行われるとしたら?


 背筋がゾッとした。


 それにしても気になるのはアレックスのことだ。マクシミリアン王子の一声で、僕との婚約が破棄された直後にすぐさまスターリングとの縁談話が進んでいたなんて。スターリングは僕と違って、完全に男なのに。


 彼と会って話がしたかった。どうにかして、連絡を取れないものだろうか? 寮の部屋には個別に電話がない。外部と連絡を取るには、手紙か、上の人間の許可が必要だった。

 ある意味学院内は閉鎖された空間なのだ。許可がないと外出も簡単に許されない。


「ニコラス様、アレックス公女に一度連絡を取りたいのですが?」


「アレックス公女に? 婚約破棄になって、気まずくないか?」


 僕は首を横に振る。

 ニコラス様は彼が男であることを知らない筈だ。


「どうしても、公女と話をしなければならないのです」


「そこまで言うなら、寮長に頼んで電話を貸してもらおう。今からすぐにでも?」


「はい、ありがとうございます」


 ニコラス様が話の分かる人で良かった。

 そのまま寮に帰り、寮長に頼んで電話を貸してもらう。

 寮長は食堂の調理も担当する、気のいいおばさんだ。

 ニコラス様は、今日の仕事が残っているとかで、一旦王城へ帰って行った。


「もしもし、アレックス? ジーンだけど」


『申し訳ありません。アレックス様はお留守でございます』


 メイドさんが出た。


「アレックスはどこへ? いつ頃戻りますか?」


『それが、アレックス様はお屋敷を出られてしまいまして。こちらにはしばらく戻られないかと』


 なんだって!?

 アレックスが屋敷を出た?


「どこへ行ったんですか?」


 そう聞いた途端に、僕の視界の先に見覚えのある車椅子の少女の姿。背後にはそれを押すユーエンも一緒だ。


 アレックス!?


 僕は受話器を置いた。


「ジーン」


「アレックス? どうしてここに?」


 ユーエンが彼を僕の目の前まで連れてきてくれた。


「どうしてって、私が悪役令嬢な以上、この学院にいなくてはならないでしょう?」


 彼はそう言ってニッコリ笑った。


「元々、足の怪我がなければ私だって、この学院に通うつもりでしたの。あなたがここに通うと聞いて、居ても立っても居られずに来てしまいましたわ」


 アレックスが来てくれるなんて、思わなかった。


「今、君の家に電話していたところだったんだ。どうしても話をしたくて」


「あら、それは人に聞かれたくない話ですの?」


 僕は頷く。

 アレックスはユーエンに目配せした。


「では、私の部屋へ参りましょうか」


 僕達はそのままアレックスの寮の部屋へ移動する。

 特別寮の中でも、一際広い部屋だった。さすが公女様だ。


「マシューの奴がバラしたんだって?」


 部屋に入るなり、彼の態度が豹変した。


「マクシミリアン王子にいきなり、ね」


 アレックスはユーエンから婚約破棄までの詳細を聞いていたので、説明要らずだ。


「ユーエンが咄嗟に候補に名乗り出て、君への渡りを付けたけど、やっぱりそれだけじゃ心許ないし、そもそもユーエンはこの学院に通える年でもないし。やっぱり僕が来るしかないじゃないか」


「それより、スターリングと縁談が進んでるってどういうことなんだい?」


 これにはアレックスは、あぁと生返事で、


「父上が、婚約破棄なんて体裁が悪いからって慌てて持ってきた話だよ。スターリングと表向きは結婚するって話だけど、実際は違う」


「へ?」


 アレックスは面白くなさそうに、そっぽを向いた。


「本当の相手はスターリングの妹の方、クラリッサだ」


「なんだって!?」


 よりにもよってクラリッサだって? 冗談だろ?


「これはあちらとも合意の話らしい。本人達はまだ知らないだろうけど、アトウッド侯爵は僕の母方の親戚でもある。話が本決まりになったら、本人達にも話すはずだよ」


「表向きはスターリングと? 実際にはクラリッサと?」


「そー、だから面倒くさいんだよ。僕を一生公女としておきたいみたいだねぇ、父上は」


 そりゃあ、性別が変わりましたなんて、普通は言えない。公女様なら特にだろう。


「でも、クラリッサは自分が婿を取って、侯爵家を継ぐと言っていたけど?」


「侯爵家の後継ぎは外から親戚筋の養子を取るからって話だったよ? とにかくアトウッド侯爵も、息子が大公になるなら全然良いって話で」


 うーん、親はいい気なもんなんだな。


「スターリングは君との縁談話が進むのを嫌がって、僕の夫候補に立候補してきたよ?」


「そうなるだろうとは思ったよ。まあ想定内だ」


「それよりジーン、聖乙女にされて君は夫を選ばなければならなくなったろ? 結局のところ、誰にする気?」


 いきなり核心突いてくる? さすがはアレックス、遠慮がない。


「誰にするも、何も考えてないよ。聖騎士に戻って普通に生活するのが夢というか、目標というか。聖乙女にされて、正直戸惑ってるよ」


「だったら、僕を選んでよ」


「へ?」


 アレックスは、いつになく真剣な眼差しで僕を見た。


「僕だって君がいい。このまま公女として生きるのも、ウンザリなんだ。君が選んでくれたら、僕は公女の身分を捨てれる」


 そうか! 聖乙女は結婚相手の身分など関係なしで選べるんだ。たとえ大公が反対したとしても、聖乙女の意思が一番に尊重される。


「正式に立候補すると?」


「それはちょっと今すぐは難しいけど、君が卒業するまでには必ず」


 彼は自分の足を見ながら言った。


「聖乙女の夫になるのに、足が不自由なんてさすがに許されないよ。せめて自分で歩けるようになるまでは、立候補は我慢する。だから待っててくれないか?」


 僕はもう三年だから、正味あと一年しかない。


 アレックスなら気心も知れている。それが一番いい選択にも思えた。

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