表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元悪役令嬢と婚約破棄してなぜかヒロインやらされてます。  作者: 上川ななな
勢いだけでこうなったけどあながち悪くもない
84/161

08 心と想いが通じ合って

 ラファエルは私を抱き寄せて、首筋に視線を落とし狙いを定めた。

 私はぎゅっと目を瞑り、痛みに耐えようとした。


「痛くしないで」


 でも、次の拍子にされたのは普通に唇へのキスだった。


「!!」


「いや、久し振りだから」


 赤い目のままラファエルが少し笑う。

 私は何だか堪らなくなって、彼の首に腕を回して抱き付いた。


「お前から、抱き付いてくるなんて意外だな」


 少し驚いたように掠れた声でラファエルが言う。

 私を宥めるように、優しく頭を抱いて抱擁に応えた。


「子供まで作っといて、何言ってんの?」


 私達は成り行きで関係を持ってしまって、恋人と呼ぶには難しい間柄だった。少なくともあの時の私の気持ちは彼にあった訳じゃない。でも今は違う。


 ぎゅっと強く抱き締め返されて、彼の気持ちを嫌でも思い知

 る。


 ──ちゃんと愛されてる。それだけははっきり分かった。


「……お前とお腹の子は何があっても守るから」


「もう勝手にいなくならないで」


「傍にいるよ」


 その瞬間に首筋を噛み付かれた。少しの痛みの後に痺れるような陶酔感に包まれた。

 痛いというより気持ちいいくらいで、気がふっと遠くなって意識を手放してしまった。


 私はすっかり気を失ってしまったようで、目覚めた時にはラファエルが傍で本を読んでいた。彼が傍にいることにただ安堵する。


「……目が覚めたか。加減が分からずちょっと吸い過ぎたみたいだ。悪かった」


 私は体を起こそうとするけど、眩暈がして簡単には起きられなかった。目を閉じていても何だかふわふわして妙に心地いい。

 ラファエルが体を支えてくれたので、体を預ける。


「吸血鬼に吸血されると軽く酒に酔ったような状態になる。麻薬のような物質が吸血鬼の唾液に含まれるんだ」


 それでこんなにふわふわしてるんだ。前にあの少年に血を吸われた時もこんな感じだった。


「血って美味しいの?」


「少なくともお前の血は甘い」


 ラファエルの胸にもたれるようにして彼の顔を見る。あれ?


「クマがなくなってる!!」


「ん?」


 ラファエルの青白い顔色には血の気が戻り、目元のクマがすっきり消えてなくなっていた。


「お前の血を吸ったからだろうな。俺は血を吸わなくても別に平気だけど、どうやら吸った方が体調は良くなるみたいだ」


 こんな顔色の良い彼を見たのは初めてだった。いつもは今にも倒れそうな顔色だから。


「いや、いいってもんじゃないな。まるで体中の力がみなぎるみたいだ」


 だったら定期的に、いっそ血を吸わせた方がいいのかなぁ?


「そういえば、クロエ様は血を貰ってるって」


「あいつの場合は直接吸ってるんじゃない。確か複数の人間から注射かなんかで血を抜いて貰ってる筈だ」


 そうなんだ。じゃあ、直接吸わなくても平気ってことなのかな?


「でも、俺は吸うなら直接の方がいい」


「えっ?」


「お前が俺のものだって気が凄いするから」


 なっ、何言い出すのコイツ!!

 私は耳まで真っ赤になるのを感じた。


「初めてお前を見た時に、お前が欲しいって思った」


「図書館で初めて会った時?」


「まさか一目惚れだって言うの?」


「んー、どうだろ?」


 それを一目惚れって言うんだ!!

 私達、何だか順序がめちゃくちゃでおかしなことになってたけど、ここにきてようやく心が通じ合った気がした。


「今夜、あのガキとケリをつける」


「勝てるの?」


「余裕」


 彼の話では、あの少年以外は何とか倒したらしい。

 あの子さえどうにかすれば、家に帰れるの? あ、もう家なかったんだっけ?


「そういえば、家はどうするの?」


 家に来ると、兄上に嫌がらせされそうだし。

 どこか新たに借りるかしなきゃダメかなぁ?


「あれは社宅なんだ。だから別に」


「えっ、あれ社宅なの?」


 さすがは王立図書館の司書。


「本当はルームシェア用の家なんだ。誰も俺と一緒に住みたがらないんで、たまたま一人だったんだけど」


 そんなことだろうと思った。

 それなら新しく部屋は借りればいいけれど、せっかく揃えた家具とかも全部ダメになっちゃったな。


「……住む所はどうにかするから、心配するな」


 ラファエルがそう言うので任せることにした。


「ちゃんと生活必需品くらい揃えてね」


「分かったよ」


 そう言うと、ラファエルは私にキスをした。

 想いが通じ合って、初めてするキスは長過ぎた。


「ぷはっ!!」


 ようやく唇を離して、私は大きく息をついた。


「いつまでするの? 息が出来ない」


「……息くらいすればいいだろ? 面白い奴だな」


 まあ、そうなんだけど。何だか慣れなくて。……つい何となくしそびれた。


「じゃあ、もう一回するか?」


「もう!!」


 ラファエルはそれはそれは晴れやかに笑った。その目を細めた笑顔が可愛いこと。やっぱりこいつって、女の子より綺麗な顔をしてるんだよね。私よりも可愛い顔をしているなんて、ちょっと女として自信を失う。

 女の子だったら、かなりの美少女だったろうに。あ、美少女って年でもないのか。

 でもあの襲撃の晩の彼はまるで別人だった。あれは言うなればしなやかな獣だ。


 それにしても半吸血鬼ですらなかっただなんて。かと言って完全な吸血鬼とも言えない。


 私達は今後のことを少し話し合った。

 とりあえず住む所を決めて、それから子供の名前とか、育て方とか。


「男の子かな? 女の子かな?」


「どっちだって可愛いに決まってる」


 そりゃあ、ラファエルに似たらきっと可愛い顔だろうな。

 彼は何だかんだで子供が出来たことを喜んでいるようだった。

 そしてまだ大きくもないお腹に手を当てて、優しく声を掛けた。


「おい、ママを頼むな」


「あんたって子供好きだったの?」


 そう訊くと、ラファエルはううんと首を振った。


「……いやどちらかというと苦手だけど? でも自分の子はやっぱり別かもな」


 そう言いながら、欠伸をして大きく伸びをした。

 相変わらず、マイペースな所は変わってない。


「ここで待ってるから、絶対無事に戻って来て」


「そう心配するな。俺は結構強いから、たぶん負けない」


 ……たぶんなんだ。でもそこがコイツらしい。

 私に出来ることは、無事に帰ることを祈ることだけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ