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元悪役令嬢と婚約破棄してなぜかヒロインやらされてます。  作者: 上川ななな
幼い日の約束を叶える為に
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03 私がもしメイドになったら……

 王子の言葉は真剣で、とてもいつもの冗談で言っているのとは訳が違った。


「君には知られたくなかった。父上は今でも君を本気で愛している。私との婚約を報告した時、父上の激昂ぶりと言ったら酷いものだった。嫉妬に狂って、部屋中の物を壊したんだ」


 一国の国王ともあろう人がそんな子供じみた真似をするなんて。


「それから父上とは上手くいっていない。完全に私は妬まれている。話をしてもろくに聞いても貰えない」


「そんな険悪な状態で、禁書のことよく貸してくれと頼めましたね」


 マクシミリアン王子は、ここで少し表情を和らげた。

 いつものような笑みを浮かべる。


「禁書の場所が分からなかったからね。城内の図書館の何処にも見つからなかった」


「それって、まさか?」


「父上の部屋だろうと見当は付いていたけど、あの部屋は何分広すぎる。どこにあるかさえ分かれば、対処も出来る。結果的に君が来てあっさり場所を知れたから、まあ良しとしよう」


 なんてことだ。この人、最初から真っ向から借りる気ゼロ!?

 それで断られてもめげずに何度も頼んでたんだ。


「問題はどうやって、父上の寝室に入り込むかだが」


「私が行きます」


 少し食い気味に言うと、王子は目を見開いた。


「それで父上に抱かれると? それは絶対に許可出来ないな」


「だったら、どうしろと!?」


 これには、さすがに癪に触ったようで王子はちょっと険しい顔をした。

 虎穴に入らずんば虎子を得ずとはまさにこのことだろう。


「少しは頭を使おう」


 王子は私の頭を宥めるように優しく撫でた。

 そして少し大きな声で、


「誰かいないか」


 部屋の外に待機しているであろう、メイドを一人呼びつけた。


「お呼びでしょうか?」


「父上の部屋の担当メイドは誰だ?」


 メイドはちょっと思い出すようにして答えた。


「メイド長が自ら担当しております」


「では、そのメイド長を呼べ」


 メイドはお辞儀をして部屋を出て行き、しばらくしてメイド長を伴って戻ってきた。


「お呼びと聞いて伺いました」


 メイド長だという女性は、神経質そうな中年の女性だった。制服自体も若いメイドの物は違い、ロングスカートの落ち着いた物だった。


「父上の部屋の担当だそうだな。父上の部屋から、内緒で本を借りたいんだ。頼めないか?」


「内緒でございますか?」


 王子は満面の笑みで、全く悪びれる様子はない。むしろ堂々としている。


「なあ、頼むよ。決して君に迷惑はかけない」


「どんな本でございましょうか?」


「代々の王にだけ受け継がれる禁書なんだ」


 メイド長は細い目をぐっと見開いた。

 そしてキッパリとした口調で拒絶した。


「申し訳ありませんが、それはお受け出来ません」


「うーん、だったらこちらの手配するメイドを一人、そちらに配属させてくれ。君は何も見ていないし、聞いていない。それでどうだ?」


 メイド長は仕方なさそうに軽く溜め息をつき、額に手を当てながら言った。


「私は何も聞かなかったことにさせて頂きます。メイドは後ほどこちらに寄越して下さい」


「ありがとう」


 メイド長が出て行き、部屋には私達だけになる。


「はっきり頼むんですね。陛下にチクられたりしませんかね」


「私を誰だと思ってるんだ? それなりに人望のある方だと思っているよ」


 確かに王子は人気がある。見た目もさることながら、その手腕は評価されている。反対に国王陛下の評判は最近は芳しくない。

 それにしても、相変わらず凄い自信だ。


「で、問題は誰に行かせるかだが」


 現にさっきの人にも断られてしまったし。

 これは危険な任務だ。もしバレたら、ただじゃ済まない。


「君のメイドの誰か、頼めないか?」


「それなんですが、私じゃダメですか?」


「ええっ!?」


 私の申し出に案の定、王子は苦い顔をした。

 そんな危ない橋を、私のメイドに渡らせるくらいなら自分で渡った方がいい。


「君がメイドに? うーん」


「もしバレても、きっと私なら滅多な目には遭いません。殿下が庇って下さいますし」


「君はバカなのか……」


 王子はやれやれと頭を抱えた。

 え、何で!? そりゃあ、いつも兄上に散々バカにされてましたけど。


 しゅんとする私の頭を王子が優しく撫でてキスした。


「……まあ、君がそこまで言うならいいだろう。決してバレるな。そして正体を悟られるな」


「分かりました」


 そうと決まったら、すぐさま決行だ!!

 私はイブニングドレスから、メイド服に着替えた。

 その姿を見た王子の第一声はそれだった。


「その姿はまずい」


 ここのメイドは基本この格好だ。それを否定されたらどうすればいい?


「どこが変ですか?」


「まず、スカートが短すぎる」


 王子は難しい顔をして指摘してきた。

 それは身長があるので、どうしても短くなってしまう。

 でも急なんで、何せ私にぴったり合うサイズの制服がない。


 私は姿見の前で、よくよく自分の姿を確認した。

 メイドは見慣れているけれど、自分がその格好をするのはちょっと訳が違う。

 鏡の中でメイド姿の私が、不安そうに首を傾げる。

 その背後から王子がゆっくりと近付き、私の腰に両手を回してバックハグする格好になった。


「殿下!」


「可愛すぎて、そそられる」


 彼は私の耳元で囁いた。そのまま首筋にキスされて、私はくすぐったくて声を立てて笑う。


「やだ! くすぐったい!!」


「可愛い、可愛すぎる」


 そのまま押し倒されて、作戦はしばし中断してしまった。

 まさか王子がメイド服に釣れるだなんて思わなかった。

 そして、ふとした心配が私の頭をよぎる。


「まさか他のメイドにも、こんなことしてないでしょうね?」


「私はもう君しか目に入らないから大丈夫だ」


 その言葉に私は赤面した。本当かなあ?

 隣でうつ伏せに横になる彼は、顔だけこちらを向いてニコニコしながらずっと私を見つめている。


「服は、メイド長が着ていた衣装にしよう」


 あれはベテランメイドが着るものでは?

 私みたいな新参者が着ても大丈夫だろうか?


「あと軽く変装すべきだな。メガネとか髪型を変えるとか」


 確かにこの髪は目立つ。金髪のメイドは何人かいるけれど、金髪も色味が様々で、ここまで明るい髪色はなかなかいない。

 それで、改めて用意されたメイド服に着替えてみたのだけれど。


「うーん」


 姿見の中の私は、落ち着いたメイドになっていた。

 私付きのメイドが腕によりをかけて仕上げてくれた。

 髪はストレートの黒髪のカツラをかぶって、後ろで一つに纏めた髪型にした。前髪は眉毛の上でぱっつんだ。黒縁の伊達眼鏡をかけて、メイクも地味を徹底して、垢抜けないようにダサめ感を出した。どう見ても地味なメイドだ。


 しかし、私の王子様の反応は意外なものだった。


「可愛い」


「ええっ!?」


 お世辞にもこの姿は可愛いとは程遠いのに。


「君はどんな格好をしたって可愛い」


 ……ダメだこりゃ。惚れた弱みなのか、目が曇ってるのか。


「それで、私だって分かります?」


「私は変身するところを目の当たりにしているからね。君をよく知る第三者に聞いてみよう」


 それで、私は王子の指示でこの部屋の隣、私の部屋とは反対側の部屋の主人にお茶を運ぶことになった。


 もう一人の元々いた担当メイドに付いて、いたって普通に部屋に入り込んだ。


 この部屋の主人であるマシュー王子は、正装のまま襟元だけを緩めて、ロングソファの上で仰向けに寝そべりながら寛いでいた。


「お茶をお持ちしました」


 担当メイドが声をかけて、私はティーワゴンからティーポットから紅茶を注ぎ、テーブルにカップを置いた。


「ありがとう」


 だいぶお疲れのようだ。マクシミリアン王子だけでなく、マシュー王子も公務が相当忙しいようで、今日の晩餐会も仕事を無理やり都合を付けて時間を作ったのだと聞いていた。


 もう一人のメイドと目で会話し、私達は一礼して退出しようとした時だった。


「待った」


 マシュー王子の声がかかり、私達は足を止めた。


「ああ、そっちの背の高い方だけ。そっちの君はもう下がっていい」


 もう一人は、礼をして部屋を下がってしまった。

 うーん、何で引き止められたのだろう? もしかしてバレた?


「君、初めて見る顔だが?」


「……………」


 喋るとバレるかも。声はあんまり出したくない。

 彼は立ち上がって、私の顔をまじまじと見つめた。

 私は思わず顔を背ける。


「残念ながら、ずっと好きだった彼女にフラれてしまってね。寂しい思いをしてるんだ」


「そ、それはお気の毒に」


 ちょっと声が裏返ってしまった。おかしく思われたかな?


「君はとても背が高いね。彼女も君と同じくらい背が高かったから」


 私くらい背が高い女はなかなかいない。男としても割と高い方だったから。身長は誤魔化せないし、こればっかりは仕方ない。


「顔を見たい。よく見せて」


 さすがによく見られたら、私だと気付かれてしまう。


「どうかご勘弁を」


 マシュー王子は私の腕をしっかりと掴んだ。

 や、ヤバイ!!


「いい石鹸の香りがする。シャワーでも浴びてきた?」


 そこか!! ええ、つい今しがた浴びました。

 匂いまでは盲点だったなぁ。


 ていうか、ちょっとこれは危機的状況では?


「そんなに嫌がらないで。悪いようにはしない」


 私にフラれて、まさか女遊びが復活したの!?

 このまま手を出されてしまったら、どうしよう?


「困ります」


 掴まれた腕をやんわりと反対の手で外そうとして、その腕まで掴まれてしまった。両手首をがっちり捕まえられて、身動きが取れない。

 腕を外したい私と、私を逃がしたくない王子。

 ダンスでもするようにそのまま向かい合った。


「やっぱり彼女と同じ匂いだ」


 いや、だったらあなたのお兄さんも同じ香りですよ?

 同じ石鹸使ってますからね。

 そのまま物凄い勢いで引き寄せられて、とうとう抱き締められてしまった。

 や、ヤバイ!! でも私だとバラす訳には……。


「少しだけこのままで」


 そう言われると、振りほどくことも出来ない。

 これじゃ、検証どころじゃないんですけど?

 一体、私はどうすればいいでしょうか?

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