58 これはまさかの一夜の過ちですか!?
翌朝、私が目を覚ますと、目の前にラファエルの綺麗な寝顔があった。
「え?」
ガバッと体を起こして、状況を確認する。
確かに彼は、ニコラス様がコテージに移したはずだ。
何でここで寝ているの?
同じベッドに思いっきり寝ていた。
慌てて衣服を確認するが、寝間着は乱れた様子はない。
私はどうしてこんな状況になったか分からずにちょっと混乱する。昨日はニコラス様に部屋を譲ってもらって、ここで一人で寝たはずだ。
ラファエルは相変わらず寝ている。
「ちょっと!!」
どういう訳かは分からないけど、ここに戻ってきたらしい。
それで、同じベッドでいつのまにか眠ってしまったのだろう。
元々ここで彼が寝ていたから。
「ラファエル、起きて!!」
しかし彼は、揺すっても叩いても起きる様子がない。
「ねえ、起きてよ」
「うーん」
肩を揺すっていたら、何と彼の腕が伸びてきて、懐に抱え込まれてしまった。
「えっ、ちょっと!!」
ぎゅっと抱き締められて、長い脚でがっちり体を押さえ込まれてしまう。
こ、この体勢はマズイ!!
私は肘を突っ張るように腕を伸ばして、彼から体を離そうとするけど、彼の力は強くでなかなか逃げられない。
「ラファエル!!」
「……うるさいな」
今、喋った? ひょっとして起きてるの?
しかし、彼はそのまま起きる様子がない。
もしかして今のは寝言だったの!?
頭を抱え込まれて、よりぐっと引き寄せられた。
ラファエルの体温を感じ、彼の心臓の音が聞こえた。
寝息は規則正しく、やっぱり完全に眠っているようだ。
こんなに誰かと密着したことなんて、兄上とだってない。
せいぜい手を握って寝たことがあるくらいだ。
どうしよう? 身動きが取れない。
何だか胸が早鐘のようにドキドキした。
再び何とか脱出を試みようとする。下半身を抑えられているので、なかなか抜けられない。
本当に寝てるの? まさかわざと?
ようやく拘束を抜けた手で、彼の頬を軽くはたいた。
「離して!」
そこでようやく、ラファエルがうっすら目を開けた。
「……………」
焦点の定まっていない目で、私が見えているのかそうでないのか。
「起きた? おーい!」
途端にラファエルは私を引き寄せて、よりにもよってキスをした。
一瞬何が起きたか分からず固まった私を、そのまま押し倒す形で彼が上になった。
「えっ、ちょっと」
彼は私の首筋に顔を埋めるようにキスをして、そのままあろうことか私の大腿に手を伸ばした。完全に覆いかぶされていて、私は身動きが取れない。
ええええっ!!
剥き出しになった大腿を彼の手がなぞるように触る。
そのまま上にいったら、さすがにやばい!
一方で、もう片方の手は器用に胸元のボタンを外す。
するり手が入ってきて、私の胸に触れた。
反射的に彼を全力ではねのけた。
「何すんだ!!」
慌ててはだけた寝間着を手で押さえながら、私はラファエルの様子を伺った。
仰向けにひっくり返った彼は、やや間を置いて体を起こした。
「……俺のベッドにいるってことは、そのつもりで来たんだろ?」
「はあ!?」
やっぱり襲う気だったんだ。
「それならさっさとやろう? ちゃんと責任取るから」
そう言いながら私の頬にキスをして、体に手を伸ばそうとしてきた。
私は思わず、彼を突き飛ばす。
「ちょっと待った! あのね、私と部屋を交換したの。昨夜起こしても起きなかったから、ニコラス様があんたをコテージに運んだの。それで私がこの部屋を一人で使うことになったんだ」
キョトンとしてラファエルが私を見つめた。
「え? やりにきたんじゃないの?」
「違う!!」
一瞬ぼーっとして、ようやく理解したらしい。
「何だそうだったのか」
そしてそのまま再び横になってしまう。
私はラファエルの背中をバシバシ叩きながら、
「寝るな!! もう出てって!!」
その時、部屋のドアを激しく叩く音が響いた。
「ジーン、どうしたの!?」
アレックスの声だ。
私は立ち上がって、部屋のドアを開ける。
驚いたことに鍵がかかってなかった!!
「騒ぐ声が聞こえたからって、ああ!! ラファエル!?」
アレックスはすぐベッドで寝ているラファエルに気付くと、顔色を変えた。
「ま、まさか? ラファエルと?」
私とラファエルを交互にに見ながら、アレックスは私の胸元を凝視した。
私は彼の視線に気付いて、胸元がはだけて胸が覗いていることにようやくここで気付いた。
「あっ!」
「……見えた」
完全に見られた!! 恥ずかしくて顔が赤くなるのが分かる。
私は慌ててボタンを留める。
「やってない、やってないからね? これは誤解だから」
「ラファエルと寝てないの?」
「いや、寝たけど違う、そうじゃない!」
軽くパニックになった私は、とにかくラファエルを起こそうとした。背中をこちらに向けていた彼は、ゴロンと向きを変えると、私の腕を掴んで再び懐に抱き込んだ。
「ちょっと、また!?」
「ジーン!!」
アレックスが慌てて私をラファエルから引き離そうとする。
ラファエルは私の体をがっちり抱いて離さない。
「どうしました?」
開けっ放しになったドアから、ユーエンの声がした。
「ユーエン、ジーンを助けて!!」
アレックスの声にユーエンは部屋に入ると、素早くこちらに駆け寄り状況を理解したようで、ラファエルの腕を捻り上げて、見る間に拘束を解いた。
「いててててててっ!!」
「一体どういうことですか?」
アレックスは興奮気味で口走った。
「ラファエルがジーンを襲ったんだ」
「いや、だからやってないから!!」
私は慌てて否定して、状況をちゃんと説明した。
「つまり、部屋を交換したはずが、ラファエルがいつのまにかこちらの部屋に戻ってきていたと?」
「鍵は持ったままだったようだね」
ラファエルのズボンのポケットから、この部屋の鍵が出てきた。
「いや、なんか寝た覚えのないとこで寝てたから、部屋に戻ろうと思って。鍵は持ってたし」
「だからって、私が寝てるのに気付かなかったの?」
ラファエルはぼーっとしながら、首を横に振った。
「……全然。起こされるまで気付かなかった」
気付かないでそのまま一緒に寝ちゃったんだ。
それで起こされたら、自分のベッドに私がいたから、その気になったかと思って襲ったと。
「そんな寝間着姿でベッドにいたら、やったっていいと思うだろう?」
「ダメに決まってるだろ?」
アレックスに睨まれても、ラファエルは動じもしなかった。
ボーッとしながら私を見つめて、ぼそっと言った。
「じゃあ、俺また寝るから」
そのままベッドにまた横になろうとしたので、私は思わずグーでラファエルをぶん殴った。
彼は後ろにひっくり返って、動かなくなった。
その様子を見て、ポカーンとするアレックス。
「着替えてくる。ユーエン、悪いけどそいつを外に引っ張り出してくれる?」
「分かりました」




