55 混浴した後は……
私が先に風呂から上がり、脱衣場を強引に封鎖して、マクシミリアン王子の着替えを済ませた。
先程のお姉さん達にも話を通していたので、幸い他の誰に会うこともなく、無事に。
「ああ、のぼせた!!」
封鎖する間待ってもらっていたので、さすがにのぼせてしまったらしい。
大浴場を出たところで、アレックスが私達に気付いた。
「え? どうして二人で女湯から出て来るの?」
これに王子は私の肩を引き寄せながら、自慢げに話す。
私は思わず苦笑いだ。
「二人で混浴したんだ」
「えーーーーーーーーっ!?」
アレックスは仰天して、私に確認する。
「本当なの?」
「殿下がお風呂で眠ってしまわれて、時間でお風呂が男湯と女湯で入れ替わってしまったんだ」
「ええっ!?」
アレックスはマクシミリアン王子をじっと睨みつけながら詰め寄った。
「ジーンの裸見たの?」
「もちろん、バッチリ見た!」
彼は目を閉じて何やら思い出そうとする。
「この世の女神かと思うような、真っ白い肌で」
バシッ!!
私は思わず王子の頬を引っ叩いてしまい、何ともやるせない思いになり、その場にいられなくなり踵を返した。
「あ、ジーン!!」
アレックスの呼ぶ声が聞こえたけど、私は無視した。あんな風に面白がって話をするなんて、酷い。
そりゃあ、裸を見られたのは私の不注意だし不可抗力だったけど。
早足でラウンジを抜けようとすると、マシュー王子に声を掛けられた。隣にはニコラス様の姿も見受けられた。
「ジーン! 探してたんだ。もう風呂には入ったのか?」
私は王子達を一瞥して、軽く会釈だけするとそのまま通り過ぎようとした。
「おい、待ってくれ」
マシュー王子は席を立ち上がって、私を追いかけて来た。
一向に立ち止まらない私の腕を取って、強制的に足を止めさせた。
「どうした? 何があった?」
私に心配そうに声を掛けてくる。
ニコラス様も、私の様子にただならぬ事態を察したらしく、こちらに向かって来た。
「いいえ、何でもないです」
「そんな顔をして、何でもない訳がないだろう? 話を聞かせてくれ」
私はマシュー王子を見つめた。
綺麗な淡いペールブルーの瞳はただ私を心配する色を映していた。
「マクシミリアン殿下とちょっと」
「兄上と? 何かされたのか?」
私はただ首を横に振った。
お風呂で裸を見られたなんて、とても恥ずかしくて言いにくい。
「兄上、寝湯で寝てしまって、起こしてもなかなか起きないから置いて来てしまったが、その後で何かあったのか?」
あんたが置いてったのかい!!
マシュー王子が、ちゃんと連れて出てくれていれば!!
私は何だか腹が立って、正直に言ってしまった。
「殿下に裸を見られただけです!!」
「何だって!?」
マシュー王子は、私の顔を覗き込んだ。
「まさか、兄上に覗かれたのか?」
私は仕方なく経緯を説明した。それで、お風呂で王子と混浴する羽目になったことを。
「な、なんてことだ!」
マシュー王子もニコラス様もさすがに驚きを隠せない様子だった。
「他の女性客に見つかっても堂々としてらして。さすがは王子様ですね」
「まあ、兄上らしいといえば、そうなのだが」
ニコラス様は、何とも微妙な顔をされていた。
マシュー王子はともかく、彼にまで知られたのはちょっとショックだった。
「過ぎてしまったことだし、あまり気にしないように、ね?」
ニコラス様がようやくそう口を開いて、私は仕方なく頷いた。
マシュー王子は厳しい面持ちで、マクシミリアン王子に対して怒りを露わにした。
「ったく、何やってんだ、あのバカ兄貴は!! 王太子としての自覚がなさすぎる」
「殿下、ここでは人目に付きますから、抑えて下さい」
ニコラス様に諭されて、マシュー王子はぐっと堪えたようだ。
私達一行は、今回はあくまでお忍び。王太后様含め、皆身分を隠している。
他の宿泊客に配慮したこともあるが、お忍びでないと警備に人をもっと割かなくてはならなくなり、とてもゆっくり出来ないからだった。
「よりにもよって、君の裸を見てしまっただなんて」
「いや、もうそのことは言わないで下さい!」
「あ、ジーンいた!」
そこにアレックスとユーエン、そしてマクシミリアン王子が連れ立って現れた。
うう、王子を引っ叩いてしまった手前、顔を合わせるのが気まずい。
「ジーン、傷付けたのならば謝る。どうか許してくれないか?」
マクシミリアン王子は、私の顔を見るなり頭を下げて来た。
そんな風に謝られたら、私はもうこれ以上怒ることも出来ないじゃないか。
「兄上、今回のことは少々行き過ぎだ。彼女に相当な迷惑を掛けたんだぞ? そう簡単に許してもらえると思うな」
マシュー王子は相当お怒りのようだ。たまにここの兄弟はどちらが年上なのか分からなくなりそうになる。
「お前が私を置いてったのも、原因の一つだと思うが?」
「何だと!?」
ああ、このままでは喧嘩になってしまう!
「まあまあ、兄様達抑えて。ジーンの前で喧嘩は良くないよ?」
「むっ」
アレックスは私にニッコリと微笑んだ。
まあ、このことはとっとと忘れよう。
それで私はふと兄上のことを思い出した。
「あの、兄上がどこにいるか知りませんか?」
これにはニコラス様が答えた。
「王太后様に付き添って、露天の貸切風呂を案内すると出て行ったが?」
えっ、貸切風呂なんかあるんだ。
「あの、兄上の縁談の話なんですが」
王子達はもう知っているのだろうか?
これにはマシュー王子が苦い顔をしながら教えてくれた。
「ああ、おばあ様の悪い癖だ。マヌエルが独身だと聞いて、早速話を持ってきた件だろ? さっき聞いたよ。アレックスがおばあ様に詰め寄って聞いていたから」
「──でも、彼は君の夫候補だとおばあ様に話をしなかった」
マクシミリアン王子が、腕組みをしながら言う。
「それはなぜだろうね?」
「…………」
そんなこと、私に分かるはずもない。
そもそも王太后様は、私達が実の兄妹だと思っているだろうし、それを疑いもしていないだろう。
「おばあ様から言われた縁談だから、やっぱり断り辛いのかな?」
アレックスはそう首を傾げる。
「いいや。あいつのことだから、何か違う意図を感じるなぁ」
しかし、マクシミリアン王子は違う見解のようだ。
違う意図とは?
「本人に直接訊けば良いのです。ここで、うだうだ言っているだけ無駄ですよ」
ユーエンがそのものズバリはっきり言った。まさにその通りだ。
私は席を立ち上がった。本人に直接会って、理由を訊こう。
「ジーン!」
ニコラス様が私に声をかけた。
「いや、何でもない」
彼は何か言いたげだったけど、そのまま口をつぐんでしまった。
「行ってきます」
私は兄上と直接話す為に、貸切風呂へ向かうのだった。
いつもありがとうございます!
久々の更新になってしまいました!
執筆にあまり時間が取れず、遅くて申し訳ないです。
エンディング分岐先に少々手こずっております。
キャラによって話のテイストがかなり変わる仕様になります。シリアス、ラブコメ、何だろう? もうぐちゃぐちゃで……(汗
とにかく完走を目指して頑張るのみです!!
なるべく少しずつでも頑張って更新していきますので、また次回もよろしくお願いします。




