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元悪役令嬢と婚約破棄してなぜかヒロインやらされてます。  作者: 上川ななな
僕が私になりヒロインになって攻略される寸前まで
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50 運命を決める旅の始まり

 列車に乗ること数時間、始発から乗って、まさに終点の駅で降りた。到着した頃にはもう陽が傾き始めていて、いかにうちの領地が田舎かを思い知らされた。


「おばあ様、体調は大丈夫?」


「ええ、元気ですよ」


 まさか王太后様がいらっしゃるなんて思いもしなかった。

 だから、兄上が簡単に同行出来たのね。


 宿は駅からまだまだ先、山の上だ。

 そもそもどうやって、登るの? 王太后様もいるのに。


「こちらです」


 兄上が先導して着いた先に、なんとケーブルカー!?

 ああ、そりゃあ連れてくるわ。こういうことだったの?


 荷物運搬用の簡素な作りな物だけど、人ももちろん乗れる。

 かくして、私達は山登りの労力を厭わずに、いとも簡単に山頂へ到着したのだった。


 兄上は王太后様のお気に入りで、片時も傍を離してもらえないらしく、ずっと相手をしている。列車の中でもそうだった。

 王太后様の親友の孫にあたるから、仕方ないといえばそうなんだけど。何でこんなにモヤモヤするんだろう?


 私はアレックスと手を繋ぎながら、宿までの短い道のりを歩いた。


 少し歩くとすぐ木立の向こうに、宿というには、大きな山小屋? いやロッジが見えてきた。木造のかなりの大きな建物で、まだ真新しい。


「なかなかいいじゃないか!」


 マクシミリアン王子は気に入った様子で、まるで子供のように一番に走ってロッジへ入って行った。


「あ、兄様先に行くのずるい!! 僕達も行こう?」


 アレックスも走り出したので、私も否応無しに走る羽目に。

 彼がこんなに元気に走れるようになるなんて、ついこないだまでは思いもしなかったのに。


 ロッジの中は思ったよりちゃんとしていて、やっぱり旅館かホテルのようだった。梁がむき出しになった天井は吹き抜けになっていて内部はとても広い。

 まだ新築の木の匂いが清々しかった。


 フロントらしきカウンターに若い栗毛の女の子。ここの従業員だろうか?


「いらっしゃいませ。ご予約はされていますか?」


 たぶん、兄上が手配済みだとは思うけど。

 肝心の兄上が王太后様に付き添ってて、まだ来ないからよく分からない。


「ここのオーナーが一緒なんだが?」


 マクシミリアン王子が、いつもの笑顔で答えた。

 途端にフロントのお姉さんは、頬を赤く染めた。


「承っております。ええと、十三名様でご予約ですね?」


 えっ、そんなにいるんだ。

 王太后様付きのメイドや護衛がいたな、そういや。


「申し訳ありません。こちらの手違いでご予約が重なり、あいにくお部屋が六部屋しかご用意出来ないのですが」


「えっ、そうなのか? おい、それってどうなんだ?」


 王子は私達を振り返った。

 私に聞かれても、さすがに分かんないな。


「さあ、お兄さんに聞かないと。部屋割りとかどうなってるんだか」


 アレックスがそう言うと、遅れてみんなが到着した。


「あ、お兄さん、部屋割りってどうなってるの?」


「あぁ、何部屋空いてた?」


「六しかないって」


 兄上は目を閉じて少し考えると、


「王太后様が一部屋、残りは二人で一部屋使って下さい」


「それでも足りないぞ?」


 マクシミリアン王子が突っ込んだ。


「僕とジーンは従業員用の部屋に泊まります」


 何だ、一応部屋はあるんだ。


「僕とジーンは客じゃないし、従業員用の部屋で構わない」


「それなら、とりあえず適当に分けるか」


 それで王太后様を除き、部屋割りを決めた。

 単純に兄弟で同部屋にして、残りは適当といった具合になった。

 とりあえず荷物を置いて、ラウンジに集合ということに。


「お前はこっちだ」


 兄上に呼ばれて、なぜか建物を出る羽目に。


「えっ、この建物じゃないの?」


「従業員用のコテージがあるんだ」


 兄上に付いていくと裏の拓けた敷地に、いくつか可愛らしいコテージが建っていた。


「従業員はみんなこっちに部屋がある。僕もこっちに泊まるのは初めてだ」


「へぇ」


 到着したコテージの中はテーブルとソファ、ベッドが二つ、奥にキッチンまであって、ここで料理も出来そうだ。そして階段の上はロフトになっている。


「兄上と同じ部屋ってこと?」


「ロフトの上にもベッドがあるだろ。文句言うな」


「別に文句は言ってないでしょ? 最大ここに四人で泊まれるってことか」


 トランクケースを置いて、私はロフトに上ってみた。

 こちらには布団が二組敷いてあった。上は布団なんだ。


「じゃあ、私は上で寝ることにしよう」


「好きにしろ」


 それにしても、うちがこんな温泉宿をやってるなんて。父上も何も教えてくれないんだもん。


「ねえ、ここってキャンプも出来そうだよね?」


「キャンプも出来るし、釣りも出来るし、温泉だって入れる」


 キャンプや釣りもみんなでやってみたら、楽しそうだな。


「おい、早くしろよ」


 下から兄上の呼ぶ声がした。


「分かった、すぐ降りるから」


 私は慌ててロフトの階段を降りようとすると、後ろ向きで慣れないせいか、するっと足が滑ってしまった!

 上半身が反るような形でひっくり返る。


 わっ、落ちる!!


 ギュッと目を瞑って衝撃に耐えようとしたら、兄上に抱き抱えられていた。


「ナイスキャッチ!」


 私は思わず声に出した。

 兄上は私を抱えたまま、呆れた顔でこちらを見つめていた。


「何やってんだ、お前は?」


「何って? 兄上に抱っこされてますが」


「……………」


 ひょいと下に降ろされて、兄上は私を振り返りながら言った。


「お前はもう、ロフトに上がるのは禁止な!」


「ええーっ、じゃあ兄上が上で寝るの?」


 兄上は首を横に振った。


「別に一緒に寝たっていいだろう? 何か問題でも?」


 まあ、兄上は私に結婚しろとか迫るけど、実際に同じ部屋で昼寝したり、うたた寝してても手を出してくることはない。

 思えば私が着替え中でも、全然我関せずだし。

 そこのところ、本当はどうなんだろう?


「手とか出さない?」


 兄上は私を妹として見てるのか、異性としてちゃんと見てるのか、そこの境界がイマイチ分からなかった。


 そりゃあ、キスはもう何度もしてるけど。


「手を出して欲しいのか? それなら期待に応えるだけだが?」


 私は勢いよく首を横に振った。


「絶対やめて」

 

 兄上はまっすぐ私を見つめて、やがて視線を逸らしつつ、


「……だったら、そんなこといちいち聞くなよ」


 兄上はそう言うと、押し黙ってしまった。

 その表情は何だか険しい。怒らせちゃったのかな?


「なあ、お前さあ。この旅行中に相手を決めるつもりだろ?」


 う、やっぱりバレてたか。


「そのつもりだけど、もし私が他の人を選んでも、文句言わないでよ?」


「…………お前、もし僕が、いや何でもない」


 兄上はそう言いかけて、途端に踵を返した。

 そのまま部屋を出て、スタスタ先に行ってしまおうとする。

 私は慌ててその背を追い掛けた。


「待ってよ、兄上!!」


 兄上は早足でどんどん先に行く。私を振り返ろうともしない。

 私はそんなに兄上の機嫌を損ねるようなことを言ってしまったのだろうか?


 私は後に兄上の苦悩を、嫌と言う程知ることになるのだけれど、この時はそれを知る由もなかったのだ。


「あ、やっと戻ってきた」


 もう皆がラウンジに集まっていた。

 アレックスが私に走り寄る。


「そっちの部屋はどうだった?」


「ああ、こっちはコテージなの。ロフトもあって」


「コテージってことはお兄さんと同室?」

 

 私は慌ててアレックスにしーっと人差し指を口元で立てる仕草をして、声の大きさを落とすように言った。


「大きな声出さないで。みんなに聞こえたら気まずいから」


 途端にアレックスはヒソヒソ声で話し出した。


「お兄さんと一緒の部屋で平気なの?」


「平気だよ。同じ部屋で昼寝とかしてたって、手なんか出してこないし」


 アレックスは怪訝な顔をした。


「お兄さん、それは我慢してるだけじゃないかな?」


「大丈夫。さっき怒らせちゃったから、なんか機嫌悪くて。私もう相手にされてないんだ」


 アレックスは兄上の方を見やる。相変わらず、王太后様の相手をしていて、その表情はこちらから見る限りではにこやかだ。


「おばあ様には、優しそうだけど?」


「私には冷たいの。さっきも置いてかれたし」


 アレックスはうーんと唸った。

 彼には、私の言ってることがイマイチぴんとこないんだろう。


「さて、皆揃ったようだし、温泉にでも入るか?」


 マクシミリアン王子の提案に、アレックスが物申した。


「えーっ、僕もうお腹が減って限界だよ」


 そういえば、列車の中でお昼を早めに食べちゃったからねぇ。

 アレックスがそう言うので、仕方なく夕食を先にとることに。

 夏だから陽が長いとはいえ、さすがに辺りは夕闇に包まれ始めていた。


 奥の食堂に移動して、各々好きな物を注文して食べる形式だった。山で採れた山菜や高原野菜を取り入れたもの、鹿肉や猪肉を使った肉料理など、様々なバリエーションがあった。


「ユーエンの手料理の方がいいなぁ」


 アレックスがそう言い出して、皆を困らせた。

 彼はかなり好き嫌いがある。だから、あんまり外食はしない。


「厨房を貸してもらえば、作りますが」


「あ、コテージにキッチンがあったよ。そこで何か作れば?」


 私は従業員に食材を分けてもらえないか聞いた。

 快く了解してくれて、厨房から好きなだけ持っていっても良いと言われた。


「じゃあ、何か作りますね」


「やったー!!」


 普段、王都ではなかなか手に入らない食材を使って、彼が作る料理は楽しみでもあった。


 でも、コテージの中はそう広くない。全員ではとても入れそうになかったので、とりあえず料理だけそちらで作り、出来上がったものをこちらへ運ぶということになった。


 私はユーエンを裏のコテージに案内して、彼の料理が出来るのを待つことにした。

いつもありがとうございます。


エンディングに向けて、これから数話ごとに話が分岐するかもしれません。分岐していく場合はパラレルワールドと言うことでよろしくお願いします。

その都度、前書きで詳細をお知らせします。


かなり分岐があるので、既に掲載した話を遡って後に修正が入るかもしれませんがご了承下さい。


次回もよろしくお願いします。

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