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元悪役令嬢と婚約破棄してなぜかヒロインやらされてます。  作者: 上川ななな
僕が私になりヒロインになって攻略される寸前まで
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42 兄と喧嘩した後は……

 曲者って兄上のことだったの?

 私は愕然としながら、兄上の言い訳の言葉を待つ。


「いや、本当は忍び込むつもりはさらさらなかったんだが」


 ばつが悪そうに、髪をクシャクシャしながら兄上が経緯を説明し始める。


「正面玄関からちゃんと訪ねたのだが、反応がなくて」


「それで、仕方なく忍び込んだの?」


 兄上は頷いた。

 時間も遅いし、夜分の訪問は迷惑だろうに。少しは考えなかったのだろうか。あまりにも軽率過ぎる。


「明日にすれば良かったんじゃないの?」


「そういう訳にはいかないだろう? お前があんな風に飛び出していったままだし、このまま帰ってこなかったらと思うと」


 兄上は何ともやるせない表情をした。

 一体誰のせいで、あの場を飛び出す羽目になったのか。


「私はしばらくここでお世話になるから。兄上はもう帰って」


「はあ? 何だよそれ」


 兄上なんかともう話なんかしたくない。

 肝心なことも私に隠してたくらいだし。


「寿命のこと隠してたでしょ?」


 兄上の顔色が変わった。やっぱり知ってたんだ。


「それはそのうち説明しようと」


「言い訳なんかいい。もう兄上なんか知らない」


 私はそっぽを向いて、ツーンとしてやった。

 オロオロする兄上は、必死で私の機嫌を取ろうとする。


「どうしたら、機嫌を直してくれるんだ? そうだ! 何か買ってやろうか? 何がいい?」


「いらない」


 兄上は私が顔を背けた方にすかさず回り込む。


「おい、話を聞いてくれ」


 私は再びそっぽを向いた。


「もう帰って。顔も見たくない」


「ジーン、頼む。話を聞いてくれ」


「……………」


「だったら、強硬手段だ」


 すると兄上は、突然私を肩に担ぎ上げて、そのまま部屋を出ようとする。


「ちょっ、何すんの?」


「何って、帰るんだが?」


 私は目一杯足をジタバタさせて、必死で抵抗した。

 でもお尻の付け根から大腿の裏をしっかりと抑えられていて、それ以上身動きが取れない。


「嫌だ! 私は帰らないって言ったでしょ!?」


「それは僕が許さない」


 こんのクソ兄貴め!! 私は上半身を無理に起こして、兄上の髪をひっ摑んだ。


「こら!! 髪はダメだ!! やめろ!! ハゲる、ハゲるからダメだーー!!」


 何とか兄上から脱出して、私は身構えた。

 兄上は、必死で髪を気にしている。


 心配しなくても、うちの家系では誰もハゲなんかいない。ドが付くほどのフサフサだから、今少し抜けたところでハゲはしないよ。……たぶん。


「アホか!! ハゲたらどうするんだ?」


「私のカツラを貸してあげますわ、お兄様」


 私は出来るだけ婉然と微笑んだ。

 兄上は、私の顔を見て表情を引き締めた。


「やる気か? この僕に勝てるとでも?」


 もちろんまともにやり合ったら絶対にかなわない。

 だから、私に取れる手は一つだけだ。

 私は意を決すると、猛然とダッシュして部屋のドアを開けた。


「おい!!」


 咎める兄上の声を無視して廊下に出ると、まっすぐニコラス様の部屋へ向かい、ドアをノックしまくった。


「ニコラス様!! まだ起きてますか!?」


 もし寝てたら、後で謝ればいいや。

 しかしすぐドアが開いて、ニコラス様が怪訝そうな顔で現れた。


「どうした? 何か問題でも?」


「曲者が、私を攫おうとするんです!」


 これにはニコラス様もちょっとびっくりしたようだけど、すぐ私の背後に視線を移して言った。


「彼女は帰りたくないと、言っているようだが?」


「家族の問題なので口を出さないで欲しい」


 兄上が、毅然とした態度でキッパリと言った。

 そして私に対して嫌味を言う。


「お前、僕にかなわないからって、こいつを巻き込むとか卑怯だな」


 卑怯だろうが、何だろうが、嫌がる私を強引に連れ帰ろうとするあんたよりマシだ!


「まあ、ここで話をするのもなんだから、中へ」


 再びニコラス様の部屋に入って、私たち三人は座りもせずにそのまま話を続けた。


「とっとと帰って。兄上なんか顔も見たくない」


「帰るなら、お前も一緒だ。こっちへ来い」


 兄上が私の手を掴もうと手を伸ばしたので、私は思わずその手を振り払った。


「触らないで!」


 ニコラス様はそんな私を自分の方に引き寄せて、兄上をじっと見据えた。


「ここは私の家だ。勝手な真似は控えてもらおう」


 ニコラス様は優美な微笑みを浮かべているけど、目が笑ってはいなかった。


「そいつの保護者は僕だ」


「彼女が拒否している以上、渡さない。私が責任を持って預かる」


 二人はしばらく睨み合い、辺りが不穏な空気に包まれた。

 私はニコラス様に身を寄せる。その様子を見つめた兄上の何とも苦い顔。


「そいつがそんなにいいなら、もうそいつにずっと守ってもらえよ? 僕はもう知らないからな」


 兄上がとうとうキレて、そのままバルコニーにまっすぐ向かった。まさかそこから帰る気?


「兄上!!」


 呼び止めるが、兄上はこちらを振り返りもしない。そのままバルコニーに出ると、さっと手すりを飛び越えてしまった。


 ぎょっとして慌ててバルコニーに出ると、何でもないことのように見事に着地した兄上が、悠々と歩いて帰っていくのが見えた。


「ここに簡単に忍び込むくらいだからね。ここから飛び降りるなんて、彼にとっては容易なことだ」


 まるで忍者のようだ。兄上の身体能力の高さには本当に驚かされる。私の前では、ずっとそれを隠していた。思えば兄上は、私に隠し事をしてばかりだ。実の兄妹でなかったことも、(まじな)いのことだってそうだ。


「さて、兄君を追いやってしまったが、これからどうするんだい?」


「いいんです、もう。兄のところには戻りません」


 私の頭の中にこびりつく、あの兄上のセリフ。


『兄妹だと思っている僕を相手にしたってその気になるぞ? なんなら実際に見せてやろうか?』


 ユーエンに納得させる為とはいえ、あんなことを言った兄上は酷いし、大事な寿命のことも知っていた癖に黙っていた。簡単に許せることではない。


「君の身柄をこれからどうするか、マクシミリアン殿下のご意向を伺わないとならないが、国王陛下との婚約破棄のこともあって、王城ではしばらく落ち着かないかもしれない。だが、君には護衛が必要だ。出来れば私がこのまま務めようと思う」


 私を安心させようと、ニコラス様が色々気を使って下さるのが有り難かった。


「明日、やはり殿下と一度は会って話をしないといけないだろう。許可が下りれば、そのままここにいればいい」


「ありがとうございます」


 ここにいていいと言われて妙に安堵するも、兄上のこと、寿命のこと、アレックスを傷つけたこと、全てが頭の中でぐるぐるして落ち着かなくて、どうしようもなかった。


 涙が自然と溢れていた。

 色々ありすぎて、私はもう限界だったのかもしれない。


「どうした?」


「いえ、何でもないです」


 ニコラス様が困惑するのが分かる。こんな急に泣き出したら、彼だってどうしたら良いか。


「!!」


 気付いたら、彼に頬をキスされていた。

 そっと一瞬だけ触れた唇から、彼の優しい息遣いを感じた。


「ごめん、泣き止ませる方法が何も思い浮かばなくて。気付いたら、つい」


 申し訳なさそうに謝る彼に、私はまるで縋るように抱きついた。夢中で彼の背中に腕を回した。


「……ジーン?」


「ごめんなさい、少しだけこのままで」


 彼は、まるで壊れ物を扱うようなぎこちなさで私を抱き締めた。それがかえって私を安堵させた。


「──君を愛してる。ずっとそばにいて欲しい」


 彼の愛の囁きを聞きながら、私はそっと目を閉じた。


 ──って、これってまさかプロポーズ!?


 ふいにそう気付いて、私は目をパッチリ開けた。

 そりゃあ、彼も夫候補なので、私が『この人と結婚します』とでも言えば、正式に婚約にはなるんだろうけど。


「それって、プロポーズですか?」


「そう受け取ってもらっても構わないけど、ちゃんとムードのある場所で言った方が良かっただろうか?」


 ニコラス様は苦笑いで答えた。どうも、自然と口をついて出た感じらしい。


 私達はお互い何とも気恥ずかしくなってしまって興奮がおさまらず、眠れそうにもないので、それから他愛のない話を明け方まで続けた。


 結局ベッドに入って、目が覚めた時には、とうに昼を過ぎていた。

ここまで読んで下さり、ありがとうございます。


何とか今日も一本更新できました。

今回はお兄さんの頭皮の危機の回です。

さすがにサブタイトルに付けるのはやめました。

ニコラス氏はほっぺたにちゅーどまりです。

いつ手を出すのかな? そこらへんも今後の展開次第です。なるべくライトな軽いラブコメ路線でいきたいのですが、設定が重くてどうにも模索中であります。

どうしてこうなった!?


まあ頑張ります。


また次回もよろしくお願いします。

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