33 作戦の行方は果たして?
大公家に戻った私達と入れ替わるように、マクシミリアン王子が、王城へと帰って行った。兄上のフォローに回るらしい。
「マヌエルの奴、うまくやるかな?」
「見た目はいい感じだったけど、喋るとマズイね。あとお兄さんの方がどうしても背が高いから、気になる点はそんなものかな」
マシュー王子とアレックスは、お茶を飲みながら、兄上達の作戦がうまくいくかを気にしていた。
私は、とにかく兄上が心配で気が気でなく、落ち着きなく部屋をうろうろしていた。
「なるようにしかならないよ! 少し休んだら?」
「だって」
アレックスはなんであんなに落ち着いてられるの?
やっぱり他人だからかな?
「ジーン、こっちへ」
ユーエンが、私を呼んだので付いていくと、そこは厨房だった。
「料理はしたことありますか? これとこれの皮を剥いてください」
大量の玉ねぎや人参やジャガイモをどんと渡された。
普段はさすがにやらないけど、さすがに皮むきくらいは出来る。
一心不乱に皮むきをしていたら、あっという間に時間が経っていて、ちょっと落ち着いた気がした。
「今日はたくさんカレーを作っておいて、明日、兄君達が戻ったら一緒に食べましょう」
そう、この世界の食べ物は結構、現実に準拠して色々種類が豊富だ。もちろんカレーもある。
「二日目のカレー、美味しいもんね」
「そうですね」
それにしてもこれ、何人前なんだろう?
屋敷の使用人達、全員の分ありそうだ。
「まさか、ユーエンていつもこんなにたくさん作ってるの?」
「調理担当はちゃんと別にいますよ? 私はたまに手伝う程度です」
たまに手伝う程度でも、その手つきはプロだよなぁ。
「好きなんです、料理。子供の頃、貧しくて、まともな食事が取れませんでしたから。ここに引き取られて、厨房に顔を出すと、いつもちょこちょこ食べ物が貰えて。そのうち手伝いもするようになりました。アレックスがわがままなので、工夫して嫌いなものも食べさせるうちに、料理の腕が上がっていましたね」
いつになく饒舌に、ユーエンが喋る。
彼が私の気を紛らわそうと色々手伝わせたり、話をしてくれてるんだと分かる。
「ありがとう」
「いいえ、こちらこそ手伝ってもらって」
その日の夜は更けていき、私達は否応なしに作戦の是非が気になって眠れずにいた。
そして、深夜遅くにとうとう電話が鳴った。
アレックスがすかさず出て、私達はその会話を息を飲んで見守った。
「もしもし」
アレックスの顔色が変わった。一体どうなったの?
「ええ!? うん、分かった」
短い会話で、受話器を置いたアレックスは、私達を振り返ると、微妙な顔をした。
「これから、こっちに帰ってくる。お兄さんもマックス兄様も」
「!!」
「成功したのか?」
アレックスは首を傾げた。
「うーん、事態はちょっとややこしくなったのかなぁ?」
「ええっ!?」
失敗なのか? でもそうしたら、無事にこっちへ戻ってくるなんて出来ないだろうし、一体どういうことなんだろう?
そしてしばらくして、作戦を遂行して無事に帰還した二人から、直接事の顛末を聞くこととなった。
二人は連れ立って現れたが、何だか様子が変だった。
お互い顔を背けて、目も合わせようともしない。
「駆け落ちしてきた」
マクシミリアン王子が、いきなり結論から述べた。
一同、皆ポカーン状態である。
「殿下があそこで、我慢出来ずに飛び込んだのが悪いんでしょう? 僕ならうまくやれたのに!!」
兄上はマクシミリアン王子に噛み付くように文句を言った。
「あのまま、放っておいたら、さすがにバレるだろうが? 脱がされたら一貫の終わりなんだぞ?」
二人の言い分は食い違い、互いが悪いと責め立てあった。
何これ? なんの痴話喧嘩?
「ねえ、何がどうなったか、ちゃんと説明してよ」
二人の話では、具合が悪いと密会を断ったのに、結局強引に入ってきた陛下に、なんとかお酒を勧めて睡眠薬を飲ませたものの、薬の効きが思ったより悪く襲われかけ、正体がバレそうになった。そこに飛び込んで助けようとした王子が、場を取り繕う為に兄上に強引にキスして、二人は実は愛し合ってると誤魔化して、そのまま駆け落ちしてきた。とのこと。
「それでキスしたの? マジで? あははははは!!」
アレックスはもう笑いが止まらない。
笑いごとじゃないんだけど、これは仕方ない。
二人が否応なしに、ラブシーンを演じた姿が目に浮かぶようで、私も笑いを堪えるのに必死なのだ。
「さすがにもう薬は効いたと思うぞ? かなりの量を入れたしな。どうも陛下は普段から睡眠薬を常用してるんじゃないのか?」
兄上はそう言って、首を傾げた。
「あれは即効性なんだけど、耐性があれば効きが悪いのかもねぇ」
「父上は、日々お疲れだ。薬を飲んでてもおかしくはない。睡眠薬を使うのはちと甘かったかな。私の調査ミスだ」
マクシミリアン王子も、作戦が思うようにうまくいかなかったのを反省しているようだった。
なんとか、兄上の正体がバレずに逃げては来られたけど、これはちょっと、私にとってはマズイ展開なんじゃ?
マクシミリアン王子は得意げに宣言した。
「ということなので、ジーンは私のものだ」
「なんでそうなるの!?」
「おい!」
アレックス一同、それぞれが抗議の声を上げた。
「私を愛していると、あそこで言ったからな」
「それはマヌエルが苦し紛れで言ったセリフだろう? もうマヌエルと結婚しろよ!! キスまでしたんだろ?」
マシュー王子が、兄上の肩を掴んでマクシミリアン王子に差し出した。
「こっちじゃない! これは男だ!」
「僕だってゴメンだ」
そこに、仕事を終えてようやく駆けつけたニコラス様が現れたので、みんなが食い気味に質問を浴びせた。
「どうなった?」
「陛下は?」
ニコラス様はにっこりと天使のように微笑んだ。
「それはもう、ぐっすりで。随分とお疲れのようです」
彼は薬のせいだなんて、絶対に言わない。
それにしても、とりあえずの時間は稼げた!
明日、王太后様が戻られたら、速攻で婚約を破棄をして頂かねば!
いつもありがとうございます!
今回の33話は二本立てなので、もう一本後ほど更新します!




