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元悪役令嬢と婚約破棄してなぜかヒロインやらされてます。  作者: 上川ななな
僕が私になりヒロインになって攻略される寸前まで
31/161

31 これはまさか貞操の危機ですか?

 私はとりあえず新しい部屋に戻った。

 兄上は、必要以上に私の部屋に長居することを許されず、仕方なく自室に下がってしまった。

 さすがに今日は授業も出来ないので、アレックス達もとりあえず帰ってしまった。


 どうやら、私の身柄は完全に、マクシミリアン王子から国王陛下に管理が移ってしまったらしかった。


 今までは、王子の権限である程度自由があって、兄上なんかも部屋に入り浸りだったのに。

 まあ、兄上は護衛も兼ねていたので、当たり前と言ったらそうなんだけど。


 今は部屋の前にも厳重な警備が敷かれていて、護衛が常に誰か立っている状態なので、兄上の護衛は必要ないらしかった。


 メイドも部屋の中に何人か常にいるので、人払いしないと話も出来ない状態だ。


「ユージェニー様、陛下が夕食をご一緒したいと仰せです」


「分かりました」


 もちろん断ることなど出来ないんだよな。

 食事前に、着替えさせられた。王妃ともなると、一日のうちにも、何度も着替えなくてはならないらしい。


 非常に面倒くさい。


 国王陛下の趣味なのか、着替えさせられた青いドレスは、また胸元が大きく開いたデザインだった。


 メイドに誘導されて、食事の為に部屋を移動する。

 廊下ですれ違う者全てが、私に深く頭を下げる。


 食堂の広間では、例の長いテーブルが置かれ、その端に国王陛下その人が既に席に着いて私を待っていた。


 私は礼をして、指定された隣の席に着く。


「来たな、我が婚約者よ。これからはなるべく二人で食事をしよう」


「恐れ入ります」


 陛下は食事中、大変ご機嫌で、色々な話をなされた。

 私は愛想笑いを浮かべつつ、話を聞いていたが、まあろくに頭になんか入らない。豪華な食事の味なんかも、もちろん全く分からない。

 基本、はいとかそうですねと返事して会話を全て済ます。


「今宵はそなたの部屋へ行っても良いか?」


「……はい」


「それでは、行くとしよう」


 はい? え? えええええ!?

 今、私、何かヤバイことに返事してしまった?


 そのまま和やかな食事が済んで、私はすぐさまメイドに誘導されて部屋に戻された。

 部屋に戻されると、すぐさま入浴し、また隅々まで入念に洗われて、着替えさせられた寝間着は、豪華なレースのネグリジェだった。


 マズイ! これは非常にマズイ!!!


 ドアのノックの音にメイドが応対し、すぐさま陛下が入っていらした。


 ど、どうしよう!?


「お前達は、皆下がれ」


 メイド達が、すごすごと下がってしまう。

 お願い、一人にしないで!! とは私の心の叫び。


 部屋の中に、陛下と二人きり。

 私は緊張して、何も声が出せない。


「そう、固くなるな。これから夫婦になるのだ。まだ結婚前だが、なるべく早く打ち解けたい」


 いや、それってつまりアレするってことですよね?


「お前は初めてか? いやあれだけ夫候補がいたのだ、無粋なことは聞くまい」


 いや、私は正真正銘、処女です、生娘です。


 初めてなんで、そういうことは勘弁して下さい!!

 喉まで出かかっているけど、言える訳がない。


 陛下が私の肩に触れて、そっと自分に引き寄せた。


「顔をよく見せろ。ああ、やっぱりよく似ている」


 誰にだ? でもそんなことはとても聞ける雰囲気ではない。

 すぐそばに陛下の顔、やはりマクシミリアン王子やマシュー王子の面影がある。こう間近で見ても、とても若く見える。まだ三十代と言っても通りそうなイケメンだ。


 緊張で、口から心臓が飛び出そうとはこのことだ。

 こんなことなら、兄上とでもさっさと結婚しとけば良かった!!


 そう思うと、なんだか胸に熱いものがこみ上げてきて、涙が溢れてきて止まらなかった。


「どうした? 大丈夫か?」


「大丈夫です。緊張してしまって」


「こっちで、休むといい」


 陛下は優しく、私を宥めた。

 でも、しっかりベッドまで連れていかれてしまった!!


 ベッドに座らされ、ちゃっかりその隣に座られた。

 肩を抱かれて、もう逃げられる気がしない。

 その時、部屋の外が何だか騒がしくて、陛下の手が止まった。


「騒がしいな、何事だ?」


 陛下が、立ち上がってドアの方を気にし始めたので、私はさっとその隙にベッドから離れた。


「お待ち下さい!!」


「入ってはなりません、殿下!?」


 護衛の制止を振り切って、部屋に入り込んできたのは、マシュー王子だった。


「殿下、なりません!!」


「うるさい、そこをどけ!!」


 そのまま、ずかずかと私達の前に歩み出た。


「父上、ジーンは父上にはやれません」


「この娘は私の妻にする。お前は諦めろ」


「それは無理です。私はその娘を愛しています! 父上こそ諦めて下さい」


「私に意見するのか? この娘はもう、私の妻にすると決めた。新しい王妃だ。お前の新しい母親になるんだぞ? そんな母親にお前は手を出そうというのか?」


「母親じゃありません。ジーンは私よりも年下なんですよ? 年を考えて下さい」


 二人の不毛な言い争いを聞きながら、なんだか私は冷静さを取り戻しつつあった。


 二人は似た者親子なんだな。


 えっと、とりあえずは貞操の危機は回避出来たのかな?


「とにかく、父上と結婚だなんて認められません!!」


「お前は勘当だ。どこへなりとも、出て行け!!」


「分かりました。でも、ジーンは連れて行きますからね」


 そう言うなり、彼は私の手を取ろうとした。


「一緒においで」


 しかし、陛下が私の体をグイッと自分の方へ引き寄せた。

 胸にしっかりと抱き締められ、身動きが取れない。


「乙女は渡さんぞ? これはもう私のものだ」


 離して欲しいとも言えず、私はマシュー王子に目で助けて欲しいと訴えるしかない。


「そこまでです! 父上も、ジーンを離して下さい」


 厳しい声が響いて、マクシミリアン王子が間に割って入って来た。い、いつのまに!!


「マックス、お前もか?」


「ええ、そうです、父上。やっぱり、はいそうですかとジーンを渡す訳には参りません。私は彼女を守ると誓った。彼女が自ら夫を選ぶまでは、私が彼女を守ります!」


 マクシミリアン王子!!


「そうです。聖乙女は、聖殿に入るまでに自ら夫を選ぶ権利を有します。たとえ父上でも、その権利を奪うことは許されません!!」


 マシュー王子も!!

 二人の王子が私を守ろうと、陛下に懸命に進言する。


「……興が削がれたわ」


 二人の剣幕に陛下も気圧されたようだった。


「だが、私はこの娘を諦めないぞ? 結婚はもう決まったことだ。また明晩、ここへ来るからな」


 そう言って、陛下は部屋を出て行ってしまった。


「とりあえず良かった。その、無事だね?」


 マクシミリアン王子が、私に確認してきた。

 私は無言で何度も頷いた。


「父上にも困ったもんだ。母上が亡くなって、ずっと独り身を通すものだと思ってたのに、まさかジーンにその気になるなんて。息子の相手だというのに」

 

 ソファにとりあえず腰掛けて、マシュー王子が一息ついた。

 マクシミリアン王子が淡々と述べる。


「息子の相手と分かっていても、我慢出来なかったのだろう。ジーンの聖騎士姿はそれだけ神々しかった。あの美しさに心を奪われたんだ。父上はまだまだお若い。後添えを考えるのも理解出来る」


「父上は今日は帰ったけど、明日またここへ来るぞ? どうするんだ?」


「もちろん、ここからよそに移さないと」


 このままここにいたら、私の貞操は奪われてしまうだろう。

 そうしたら、もう後には引けない。


「兄上も罪に問われるぞ?」


「そんなの、ジーンを守る為ならば、何も怖いことなどない。王太子の身分だってどうでもいい。彼女さえ無事ならな。とにかく、この部屋から彼女を連れ出そう」


 マクシミリアン王子は窓辺に立って、外の様子を眺めながら言った。


「私は勘当された身だし、兄上もそのつもりなら話は簡単だ。だが、どうやってこの部屋を出る?」


 マシュー王子の問いに、マクシミリアン王子はちょっと笑って答えた。


「手は打ってある。これだ」


 そう言うと、王子は本棚にあった本を何冊か下に落とした。

 空いた棚に腕を突っ込み、何やらスイッチを押す。


 ゴゴゴと仕掛けが動く音がして、本棚がまるで扉のように開いた。そこには、地下に続くであろう階段が見えた。


 これは隠し通路だ!!


「何だそれ? この部屋にそんな仕掛けが?」


「ここは元母上の部屋だ。私は母上にこの仕掛けを聞いていたのさ。いずれ、私の妃がここを使うことになるだろうからと。こちら側からしか、開かない仕掛けだ」


 私は素早く身支度を整え、王子達とその隠し通路に入った。逃げれば、大変なことになると分かってはいたけど、やっぱり国王陛下に黙って純潔を捧げる勇気はない。


 通路を抜けた先は、庭園の外れで、今は使っていない枯れた井戸の中だった。

 少し欠けた月が見上げた空に浮かんで、上では誰かの気配がした。


「おい、下げてくれ」


 マクシミリアン王子の声に、上から縄ばしごがするすると降りてきた。誰かが上にいて、私達を救おうとしてくれている?


「先に登るんだ」


 王子に言われて、私は縄ばしごを伝って上に登った。

 ようやく辿り着いた先で、私の手を引いてくれたのは、なんとユーエンだった。


「無事ですか?」


「ええ、ありがとう」


 王子が二人とも登ってくると、ユーエンは素早く縄ばしごを引き上げた。


「車を用意してあります。こちらへ」


 私達は、そうして王城を脱出したのだった。

 車が向かった先は、予想通り大公家の屋敷だった。


 アレックスが心配そうに迎えてくれ、仕事終わりのニコラス様まで、こちらに姿を見せた。

 私達はとりあえず一息つくことが出来たのだけれど、しかし私はそこで一つの疑念に気付く。


「ねえ、兄上は?」


 マクシミリアン王子は、この質問に顔色を変えて顔を背けてしまった。


「兄上は来ないのですか?」


 アレックスが仕方なく口を開いた。


「お兄さんは来ないよ。全員で逃げたら、きっと大変なことになるだろうからって、お兄さんはわざと残ったんだ」


「何だって!?」


「これはマヌエルが計画したことだ。君を逃し、おばあ様が王都に帰還するまでの時間を稼ぐ。あのまま城にいれば、父上は容赦なく君を自分のものにしてしまうだろう。そうなれば結婚は決定的で、もう覆せない。何としても婚約を破棄させるまでは、君を父上から引き離しておく必要がある」


 ようやくマクシミリアン王子が全容を話し出し、私は全てを理解した。


 でも、そんなことをしたら兄上はどうなる? きっと私の行方を追及されてしまうだろう。


「そんなことをしたら、兄上はただでは済まないのでは?」


「マヌエルには何か考えがあるようだ。それも時間稼ぎの一環だと言っていたが」

いつもありがとうございます。


何とかピンチから脱出しましたが、まだまだ面倒は続きます。書きたいネタはもう少し先で、大体33話あたりになるかと思います。

それの為だけにこんな面倒な話に。

私はアホですね。ごめんなさい。


気長にお付き合い下さると幸いです。

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