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元悪役令嬢と婚約破棄してなぜかヒロインやらされてます。  作者: 上川ななな
僕が私になりヒロインになって攻略される寸前まで
30/161

30 やっぱり王妃にはなりたくない

 私はどこをどうやって部屋まで戻ったのか、覚えてなかった。

 あまりに突然過ぎて、ショックで。

 部屋に戻るなりたくさんのメイドが、部屋を移るために荷物をまとめ始めていた。それを呆然と眺める。


 新たに移された部屋は、今までの部屋とは規模からして違った。さすが王妃の部屋というだけあって調度品、家具も年代物の高級そうなアンティークで揃えられ、ベッドの大きさから何もかもが違う。


 直ちに入浴、しかもメイドに体を洗われて、そしてピンクのドレスに着替えさせられた。こんな胸元の開いたドレスは着たことがない。ぎゅーぎゅーにコルセットで締め上げられ、あんまりない胸がちゃんと谷間になっているから凄い。これは軽い詐欺だ。


 何から何まで世話をされるという、今までよりきめ細かい対応、嫌でも立場が変わってしまったのを思い知らされた。


 国王の婚約者、それが私に付けられた新たな肩書きだ。

 断るという選択肢はなかった。

 いや、今から無理って言ってもダメかな?


「ジーン!?」


「兄上!?」


 ノックもせずに、部屋に飛び込んできた兄上に、私は思わず抱きついた。


「兄上、どうしよう?」


 しかし、兄上は私の両肩に手を置いて、素早く体を離した。


「ダメだ」


 顔を背けてしまい、私から少し距離を置く。

 今までのようにはいかない。それが痛いほど分かってしまった。

 私は部屋の中にいたメイド達に、下がるように指示を出した。


「今、マックス殿下が陛下に直接抗議に行っている。それが良い方に転ぶのを待つしかない」


 兄上の表情は厳しい。

 このまま覆らなかったら、私は王妃にされてしまう。

 どうしてこんなことに!?


「最悪、お前を連れて逃げよう」


 兄上が小さく呟いた。


「たとえ、お尋ね者になったとしても、お前に意に染まぬ結婚などさせられない」


「兄上!!」


 私達が逃げたら、父上はどうなる? やっぱり逃げるなんて現実的じゃない。


「どうしてこんなことに……」


「お前が出来過ぎたんだ。やはり、フォーサイスの血なのか、聖乙女の力なのか。お前は自分に相応しい相手を惹きつけ過ぎるんだ」


 相応しい相手を惹きつける? ようはモテ過ぎってことか。


 その時、ドアをノックする音が響いて、入ってきたのはアレックスとユーエンだった。


「ジーン、どういうこと?」


「どうもこうも、国王陛下に無理やり結婚を決められてしまって」


「伯父上め、ジーンがあんまり綺麗だから、トチ狂ったんだ。自分の息子よりも年下の娘に、その気になるなんて気持ち悪い!!」


 気持ち悪いって、はっきり言うなぁ。


「そもそも、息子の相手になるかもしれない娘に横恋慕して、強引に婚約するなんて、横暴だ。これはさすがにダメだろう」


「今、マクシミリアン殿下が抗議に行ってるんだけど」


 アレックスはうーんと考え込んだ。


「たぶん、マックス兄様じゃダメだろうね。そもそもさ、ことの発端はマシュー兄様が、ジーンのことが好きなのに、エステルの横槍が入ってややこしくなったからだろ? そんな男関係でぐちゃぐちゃになってるジーンと結婚したがる時点で、伯父上はどうかしてるんだよ」


「ぐちゃぐちゃって、ちょっと酷くない?」


 そもそも裁判の件は、完全に言い掛かりで私は無罪だ!


「ごめん、他にいい表現が思い浮かばなくて」


 現実は厳しいということか。私はこのままおとなしく、国王の花嫁として王妃になるしかないのかな?


 国王陛下は確かに渋いイケメンだけれど、うーん。


「確かに伯父上もいい相手ではあるよね。既に子供もいるから、子供は作れるだろうし、女の子を産んでその子が能力持ちなら次代も安泰だよね」


「や、やめて!!」


「アレックス」


 ユーエンの嗜める声に、アレックスはペロッと舌を出した。


「冗談だよ、そんなことにはさせないから」


「なんだ? 何かいい方法でもあるのか?」


 兄上がアレックスに尋ねる。


「もちろん、伯父上だって一人だけ頭の上がらない人物がいるじゃないか。そう、おばあ様さ!」


「王太后様!?」


 アレックスは得意げだ。


「おばあ様に、僕が頼んでみるから。おばあ様は僕には甘いんだ。絶対に言うことを聞いてくれる」


 なんという一筋の希望の光! アレックスが天使に見える。


「お前を見直した。そういうことなら、さっさと王太后と話を付けてこい」


 しかし、アレックスはうーんと難しい顔をした。


「実はおばあ様、今ここにいないんだ。うちの父上達と一緒に、別荘にバカンスに行ってて」


「なんだって!?」


「電話してみるけど、あの人達、なんせ移動しまくりで、連絡はすぐにはつかないかも」


 そういえば、大公殿下はずっと別荘に療養だかに行ってて、お屋敷にずっといないって言ってたな。


 アレックスは部屋にあった電話の受話器を取って、どこかへかけ始めた。


「もしもし、おばあ様と連絡を取りたいんだけど? え、どこに? えー?」


 話から察するに、本人に連絡はなかなかつきそうにない。


「ダメだ! なんか今は船に乗ってるらしい」


「船!?」


 やりたい放題だなぁ。私の一生が掛かってるというのに!!


「どうするの?」


 アレックスは、パッと何かを思いついた顔をした。


「お兄さん、南の避暑地から、王都の港まで何日かかる?」


 兄上は、ちょっと考えてから答えた。


「ん? 南の避暑地か、王家の別荘のある? あそこからならそうだな、五日もあれば」


「向こうを出発して、今日で三日目だから、明後日は王都の港へ着くよ!!」


 どんなに早くても、王太后様と話が出来るのは明後日か。

 それなら、さすがに間に合うのかな?


「国民に婚約の触書きを出すのは、おそらく準備もあって三日後くらいだ。ギリギリ間に合うかどうかだなぁ」


 アレックスの言葉と同時に部屋のノックの音が響いて、マクシミリアン王子が落胆した様子で部屋に入って来た。


「ダメだった。父上は何が何でも君と結婚すると言って譲らない。何か手を考えないと」


 肩を落とす王子に、アレックスが明るく声を掛けた。


「マックス兄様、おばあ様だよ! おばあ様にどうにかしてもらうんだ」


「そうか! その手があったか!!」


 アレックスは王子に王太后様の事情も含めて説明をした。


「明後日か。おばあ様が戻ってこられたら、速攻で話を付けて、婚約を撤回してもらおう」


「それしかないね!」


 そちらの話が落ち着いた所で、私はずっと気になっていたマシュー王子の元へ急いで向かった。

 私を庇って怪我をして、本当は付き添って医務室まで行きたかったのに、それも許されなかった。


 怪我は大したことはないらしいけど、一歩間違えば大変なことになっていたかもしれないんだ。


 あの場で咄嗟に庇ってくれたこと自体、彼が私を想ってくれているのが痛いほど分かった。


 医務室のベッドで、薬が効いているのか、マシュー王子はぐっすりと眠っているように見えた。


 起こすとさすがに悪いかな。


 私は顔だけ見て、そっとその場を離れようとした。


「!!」


 腕を掴まれて、私は振り返った。


「行かないでくれ」


 マシュー王子が掠れた声で私を呼んだ。


「君の夢を見ていた。君が手の届かない遠くへ行ってしまう夢。だから行かないでくれ、どうか側にいて欲しい」


 私はそのままベッドの脇の椅子に腰掛けた。


「どこも行きません。殿下の側にいますよ」


 まだ、顔色があまり良くない。傷は塞がっているけど、出血が酷かったから仕方がない。


 綺麗なアッシュブロンドの髪、国王陛下と同じだな。

 私は彼の髪を優しく撫でた。手を握って落ち着かせて眠りに誘った。


 思えば彼は私に対していつもまっすぐだ。

 兄上は別として、一番早く私に求愛し、すげなくされてもめげずに想っていてくれる。


 王妃様が早くに亡くなってしまったらしいから、きっとそれで女性に甘えたい人なのかもしれない。寂しがり屋の人なんだ。

 でも、それだけ愛情の深い人でもある。


 私が国王陛下と婚約したなんて知ったら、彼はどうするんだろう?

 もし本当に結婚したら、私は彼の義理のお母さんじゃん。マクシミリアン王子も息子になってしまう。


 こんな大きい子供のお母さんをやれと?

 やっぱり無理だーーーー!!


 これは本当に王太后様にどうにかしてもらわないといけない。どう考えても、国王陛下との結婚は考えられない。せめて王子のどちらかという訳にはいかないのかな?


 頭の中でいろんな思いや考えが巡るけど、まとまらなかった。


 医務室を出たら、廊下で兄上が私を待っていた。

 兄上の顔を見たら、なんだか堪らなくなった。


「兄上、もう嫌だ。王妃なんて、聖乙女なんて、もう全部嫌だ」


「ああ、分かってる」


 兄上は、私の頭をポンポン叩いて宥めた。


「絶対にどうにかするから、お前は僕を信じて待て」

いつも読んで下さってありがとうございます。


一話の話が短いので、シリアスシーンが続いて展開が遅くて申し訳ないですが、あくまでこの話はラブコメです! この先、どうしてもやりたかったネタの為に書いてます。


どうか気長に読んで下さい。よろしくお願いします。

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