24 衝撃の告白の後に
どうしよう、閉じ込められた?
スターリングは私を振り返ると、
「ここにいることは、院長先生も承知だ。すぐに助けが来るだろう」
しかし、しばらく経っても誰も来ない。
一体どうしたんだろう?
「何かあったのかな?」
「うーん」
仕方ないので、助けが来るまで二人で話をしているしかなかった。
食品の棚の前に、二人並んで座り込む。
「クラリッサのこと、本当にすまなかった。あんな暴挙に出るなんて、浅はかとしか言いようがない」
「うん」
「口調は昔のままなんだな」
「ああ、もう取り繕う必要もないし、貴族のお嬢様な口調はどうも慣れなくて」
どうせ私の周りの人間は、ユージーン=ユージェニーということを承知している。誰も私の口調なんか気にしてない。
「クラリッサはいつから、僕、私のことを?」
「中等部の入学式の時からだ。一目惚れしたそうだぞ」
そんな前からだったのか。全然知らなかった。
「お前はモテたからなぁ。うちの妹なんて、目にも入らなかっただろう。あいつはなんせ甘やかされて育ったから、すごいわがままな奴だし」
「お前だって、首席で生徒会長をずっとやっていて、女子生徒にも人気があるじゃないか。彼女作らないのか?」
そこで、スターリングは深い溜め息をついた。
「どうせ、恋人を作ったところで、どうせ結婚は自由に出来ないし」
そうだった。こいつの家は名門の侯爵家だった。
「でもまさか、お前が女だったなんて」
「一番自分でも驚いてるよ。うちの兄上の仕業なんだ。生まれつき、聖乙女の資質があったばっかりに、力を抑える為にちょっとした呪いを施したらしい」
「へぇ」
ここで、私は一番気になる問題をぶつけることにした。
「なあ、なんで夫候補を降りないんだ?」
少しばかり続く沈黙。
「もう、アレックスの事情も聞いて知ってるんだろ?」
アレックスはこいつの前で、既に素の喋り方をしていた。あの子はそういうところは抜かりがないので、スターリングも承知の上なんだろう。
「ああ、クラリーの件で、大公家から正式に断りがあった。まあ、詳しい事情は察してくれ。大公家は、王族だからな」
「何か別の縁談話でも?」
正直、クラリッサのことがあるので、スターリングが夫候補を降りてくれた方が、私的には有り難いのだが。
やっぱり、彼女を許す程には人間が出来ていないので。
「候補を降りたと言えば、いくつも舞い込むだろうな」
「でも、来年の春までには、私は誰か一人を選ばないといけないんだ。どんなに引っ張ったって、あと一年もないんだぞ?」
「僕もそうなんだ」
スターリングは小さく呟いた。
「何が?」
「お前のことが」
彼は、一旦言葉を切って、俯いた。
「お前のことが好きなんだ」
「はあ!?」
それはあまりにも突然の告白だった。
スターリングは頭を抱え込んだ。
「ずっとおかしいんだと思っていた。自分が同性愛者だなんて、思いたくもなかった。クラリーがお前の話をするたびに、羨ましくて仕方がなかった。お前の姿を見かけるたびに、胸が高鳴った。どんな女も目に入らず、好きになったのはお前だけだった」
「そんな素振り、一度も」
「言える訳ないだろう? そんなことを言ったら、きっと軽蔑される。お前とはクラスも違うし、お互い有名人だから、面識があったくらいだ。ずっと心の奥にしまっていたんだ。だが、お前そっくりの聖乙女が現れて、僕はお前を好きになった理由が分かった。すぐに分かった。聖乙女がお前本人だって」
「!!」
スターリングは私がユージーンだと気付いていたのか!?
見破ったのはヴィヴィとニコラス様だけだと思っていたのに。
「お前が女なら、別に僕の想いはおかしくもなんともない。至極真っ当なものだ。縁談の隠れ蓑にしてくれなんて言ってすまなかった。本心は、ただ単純にお前が好きだったからだ」
衝撃の告白に、私は呆然とした。
クラリッサだけでなく、スターリングも私をずっと想っていただなんて。
なんだか目の前がくらくらした。
ちょ、ちょっと待て。──ということは、今ここで、スターリングと二人きりで閉じ込められているということは。
私に好意を持つ相手と二人きりってことでは?
スターリングに限って、手を出してくるとは思わないけど、何だかこれはヤバイ状況なのでは?
私は思わず、スターリングからじりじり距離を置いた。
「そんな、毛嫌いしないでくれ。好かれてるとはもちろん思ってないが、そう露骨にされると傷付く」
「ご、ごめん」
非常に気まずい! 早く誰かここから出してくれ!!
「その、私のどこがそんなにいいんだ?」
男の時にモテてる自覚はあったが、女になってからもそれが続いているのがどうも納得出来ずにいた。
私は女にしては身長が高過ぎる。性別が女になっても、背が縮んだりはしなかったので、この世界の男の平均身長を軽く超えてしまっている。女としては可愛げがないと私は思うのだけど、幸い周りの人達は、皆背が揃って高いこともあって、私の身長はあまり気にならないらしい。
普通、男って小さい女の子が好きなんじゃないのかな?
「顔かな?」
やっぱりそうなのか。クラリッサもそうなんだけど、やっぱりそういう所は兄妹なんだな。結局面食いだったんだ。
「綺麗な顔の子なんて、他にもいっぱいいるだろ?」
スターリングは首を横に振った。
「初めてお前の顔を見たとき、天使がいるのかと思った。実際天使がいたら、お前みたいなんだと思う。男でも、女でもない、なんか中性的な感じの」
「うちの兄の方が綺麗な顔だと思うけど?」
「お前の兄貴を見たことはある。確かにお前の兄貴の方が、男としては上位互換だな。だが、お前には中途半端な危うい魅力があるんだよ。なんか不安定なようでいて、妙に惹かれる」
うーん? 要はミロのヴィーナスの腕がない方が、完全な物より、不完全な物の方が想像力を掻き立てて、より美しく見えるというアレか。
まあ、アレックス以外にミロのヴィーナスの話をしても分からないだろうけど。
それにしても助けが随分と遅い。ここにいることは、分かっているはずなのに。
この部屋には窓もない。他に出口はない。
それになんだか息苦しくないか?
何だかとても暑いし。
「ねえ、何だか暑くないか? 息苦しく感じる」
スターリングは、意外というような顔をした。
「別に? 気温は低くも高くもなさそうだが?」
私だけなのかな? 体が何だか妙に火照る。
ワンピースの胸元のボタンを開けたいが、やっぱりここでは憚られる。
「密室に閉じ込められているから、ストレスや圧迫感を感じているんじゃないのか?」
「……そうだと、いいんだけど」
熱でもあるんだろうか、とても体もだるい。
「ひょっとして、具合が悪いのか?」
「分からない、急に何だか暑くて息苦しくて」
スターリングが私の額に手を当てた。
瞬間、電流のような痺れが全身を走った。
「ひゃっ!!」
「!!」
「なんて声を出すんだ? びっくりしただろ?」
「ごめん」
触れられた瞬間のあれは何だろう? 体が何だかおかしい。
息苦しくて、思わず肩で息をしてしまう。
「おい、大丈夫なのか?」
私に触るのをさっきので敬遠しているのか、スターリングは声を掛けてくるだけだ。
体が熱くて熱くてたまらない。私は我慢できず、ワンピースのボタンを外していく。
「おい!! まさかこんな所で脱ぐ気か? やめろ!!」
スターリングの制止する声も、もうどうでも良かった。
「お前、おかしいぞ? 一体どうしたんだ?」
私はすっかりワンピースの胸元のボタンを全て開けてしまい、下着が完全に覗く格好になっていた。
それでも熱いのは一向に治まらない。
「僕だって、目の前でそんなことされたら、さすがに我慢出来ないぞ?」
スターリングが私に手を伸ばした。触れられた場所が痺れるようにさらに熱を帯びる。
「そんな潤んだ目をするなよ、たまらないだろ」
スターリングが私の顔に手を当て、自分の方へと向けた。
そして、ゆっくり顔が近付いてくる。
唇に唇がそっと触れた。
抵抗も出来ずにキスを受け入れてしまった私は、されるがまま、そのままその場に押し倒されてしまった!
「誘ったのはお前の方だからな」
その瞬間、物凄い轟音と共に、ドアが外側から破壊された。
「!!」
頭は冴えているのに体が思うように動かない。
スターリングが、開いたドアの方を凝視している。
私は何とかドアの方へ首を向けて、ドアを蹴破ったであろう人物の姿を確認した。
そこに立っていたのは、なぜか髪が濡れたままの兄上だった。
いつもありがとうございます。
閉じ込められてからの、
スターリングのターンかと思いきや、
次回からは、まさかのお兄ちゃんのターンです!!
まさに、なにこの展開。
エンディング予定キャラとはみんな絡む予定です。
何度も言いますが、そういう設定です。
気長にお付き合い下さると幸いです。
評価下さった方、ありがとうございました!
全然気付いてませんでした。
これからも精進して頑張りますので、
よろしくお願いします。




