23 仕組まれた再会と罠
私達は車で、王都にある孤児院を訪れることにした。
ここは、王家が運営管理している施設で、なんらかの理由で両親を亡くした子や、家庭の事情で育てられない子が預けられている。
車に積めるだけの荷物は積んだけど、さすがに全部は無理なので、残りは配送で頼んだ。
ここは小規模ながら、学校の体をなしているので、立派な校庭があり、そこに植えられた新緑の木々の若々しい葉が風に揺れていた。
昼下がりの午後、教室内からは子供達の明るい声が響いていた。
「まあ、新しい聖乙女がわざわざお越しになるなんて。よくいらして下さいました!」
院長先生は、とてもおっとりと喋る優しげな女性だった。
私の母が生きていれば、これくらいの年齢だろう。
「すみません、突然押しかけてしまって」
突然の訪問にも嫌な顔一つせず、院内へ通された。
建物自体は古いが、よく手入れは行き届いている。
「小さい子供達は、今、絵本の読み聞かせを、ボランティアの学生さんにお願いしていまして」
通された部屋には、たくさんの子供に囲まれて、絵本を読んでいる見覚えのある制服姿の青年。青みがかった黒髪に、青い瞳。
「スターリング?」
この声に、子供達はみんな一斉にこちらを振り返り、スターリングは本を読み上げるのを一旦止めた。
「ごめん、邪魔してしまったみたい」
「いいや、気にしないでくれ」
クラリッサの件で、あの後彼とは直接話はしていないものの、もちろんユージーン=ユージェニーなのは了承済みだろう。
「あら、彼とお知り合い?」
院長先生はびっくりしながら聞いてきた。
「ええ、学校が同じで」
「僕は彼女の夫候補なんです」
凛とした声で、スターリングがはっきり言った。
うーん、確かに成り行きでそうなってしまったけど。スターリングに関しては、私と結婚したいとはさすがに思っていないだろう。クラリッサの思惑はともかくとして。
「まあ、それでしたら、この後のお茶会でも是非一緒に参加して下さいな」
ここでは、毎日おやつの時間にみんなでお茶を飲むのだという。
「お茶会に出るのはいいんだけどさ、なんでよりにもよってあいつがいるのさ?」
再開した読み聞かせを邪魔しないように、アレックスがひそひそ声で囁いた。
「うーん、たまたまじゃないかな?」
アレックスは訝しげに、絵本を音読するスターリングを見つめている。
「ジーンは甘いよ。僕は何だか仕組まれてる気がするよ?」
「まさか!」
そうは思ったけど、アレックスの勘は妙に鋭い。気にはしておくべきなのかもしれない。
その後、配送されたぬいぐるみも合わせて子供達にそれぞれ配り、それはそれは喜んでもらった。
不思議だったのが、ぬいぐるみやおもちゃの種類がぴったり子供達の希望と一致していたこと。
「本当にありがとう! お姉ちゃん!!」
「ずっと欲しかったのこれ!」
アレックスはぬいぐるみを配りながら、ずっとスターリングを睨みつけている。
クラリッサはともかく、スターリングは大丈夫だと思うけどなぁ。
「あいつだって、クラリッサの兄貴だから、油断はならないって」
「そんなこと言ったら悪いよ!」
スターリングは常識人、それがユージーンの頃から彼に抱いていた印象だ。確かにそんなに親しくはなかったが、信頼のおける人物には違いない。
「そんなの、分かるもんか! ジーンは優し過ぎるんだ」
向こうで、お茶会の為に机を並び替えていたスターリングが、とうとうアレックスの声に反応した。
「僕が何か? 言いたいことがあるなら、はっきり言ってくれないか?」
「ああ、お前らが全部計画したんじゃないかってことさ!」
「何のことだ?」
アレックスは、ぬいぐるみを指差した。
「これらのことだよ。ジーンに大量に送りつけて、ここへ持って来させようと誘導したんじゃないか? お前とここでバッタリ会わせる為にさ!」
ここへ寄付しようと言ったのは、アレックスなんだけどな。
「なるほど」
スターリングは腕を組んでじっと考え込んでいたけど、やがて何か納得がいったように表情が変わった。
「クラリッサに、ここの子供達の希望のプレゼントを聞いてくるように頼まれたんだが、これはまさか、あいつの仕業なのか?」
どうりで、希望がぴったり合うはずだ。
「妹がお前とジーンを引き合せようと画策したみたいだなぁ。手の込んだことで」
アレックスはスターリングに対して、相変わらず疑いの目を持っているようだ。
言葉の端々にいちいちトゲがあり過ぎる。
「妹から全ての事情は聞いた。それに関しては、本当に申し訳ないことをしたと思っている。だが、ユージェニーいやジーン、君は元々女性だったという訳なのか?」
この質問には、私は正直に答えた。
「そのことはちょっと複雑な事情で説明し辛いけど、現在は女性と思ってもらって構わないよ」
「では、僕の気持ちは変わらない。このまま君の夫候補でいさせて欲しい」
「!!」
これに反応したのは私ではなく、アレックスだった。
「僕との婚約話は一回頓挫してるし、クラリッサの件からして、候補は辞退するのが当たり前じゃないのか?」
「候補は辞退しない」
「何だって!?」
二人は睨み合って、このままでは一触即発だ。
「二人ともやめなさい。小さい子供の前で、口論は良くありません」
スターリングは、突然口を挟んだユーエンを一瞥した。
「失礼だが、あなたはたかが執事でしょう? 少々差し出がましいのでは?」
「ユーエンはただの執事じゃない。ジーンの夫候補だし、本当は僕の兄上だ」
アレックスがさらっとユーエンの実情をバラしてしまった。
これにスターリングは驚いた様子で、
「あなたが大公家の長男? 察した所、母親が異国人ゆえ認知されない庶子という訳か。なるほど、納得がいった」
どうしよう、子供達の前でこんな話はあまり良くない気がする。小さい子ばっかりだから、話の内容はほとんど分かってないみたいだけど。
「なになにケンカなの?」
「ケンカ良くないよ!」
「仲良くしなきゃダメ!!」
子供達も、不穏な空気は察しているようだ。
「もう、この話は一旦辞めよう? ね?」
私はとりあえず場を収めて、子供達にプレゼントを全部配り終えると、お茶会の準備を手伝うことにした。
お湯やカップなどを用意しに、部屋を出ていた院長先生が一旦戻って来た。
「何か手伝えることはありますか?」
「まあ、お客様にそんな手伝わせるなんて。でもそうですね。せっかくですし、厨房に用意してあるクッキーを持ってきて下さいませんか?」
突然頼まれたけど、さすがに厨房の場所を私は知らない。
「厨房の場所がちょっと」
院長先生は、うっかりした様子で、手を叩いた。
「あらいけない! スターリング、案内して差し上げて。ついでにパントリーから紅茶の茶葉を取って来て」
「分かりました」
よりによってスターリングと一緒とは。
アレックスは面白くなさそうだ。
「こっちだ」
スターリングは先に部屋を出て、厨房へ向かって歩き出す。
私は言われた通り、彼の後を追うしかなかった。
厨房では、わりと大きい子供達が、自分達でクッキーを焼いていた。
「クッキーを取りに来るようにと」
「あ、はい、じゃあこれ」
クッキーを受け取って、今来た所を戻ろうとすると、スターリングが何故か立ち止まった。
「どうしたの?」
「紅茶を取ってこないと」
ああ、そういえば頼まれていたっけ?
スターリングは厨房の奥にあった小部屋に入っていく。
私も一緒に入り、彼が棚から紅茶の入った瓶を取り出すのを見た。
「じゃあ、戻ろう」
ガチャっと背後で何か音がした。
私は両手が塞がっていたので、スターリングが出入り口のドアを開けようとした。
「開かない、鍵を掛けられた」
「な、何だって!?」
ドアの奥で、子供達のふざけるような声が聞こえた。
「こら!! ここを開けろ!!」
スターリングがドアをドンドン叩いて、イタズラした子供達を呼んだが、反応がない。どうやら、厨房を出て行ってしまったようだ。
「……ったくあのチビどもめ、余計な真似しやがって」
いつも読んで下さりありがとうございます!
今回のエピソードはコメディ要素はあんまりないです。クラリー嬢の企み、暗躍がメインです。
彼女は相当しつこいです!(苦笑)
明日も更新予定です。




