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元悪役令嬢と婚約破棄してなぜかヒロインやらされてます。  作者: 上川ななな
僕が私になりヒロインになって攻略される寸前まで
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22 悪役令嬢は転んでもタダでは起きない

 数日後、私宛に朝から大量のプレゼントが届いた。


 有名店のお菓子や手作りらしいケーキ、クマやウサギのぬいぐるみや子供のおもちゃ、ドレスや帽子などの衣装やアクセサリーに例のパン屋のクロワッサンや、大量の赤い薔薇の花など。


 あっという間に、部屋中それらに埋め尽くされる。


 兄上が呆れ顔で、


「これ、半分嫌がらせじゃないのか?」


 私の部屋は決して狭くはないが、それでもこの有様はさすがにやり過ぎとしか言いようがない。


 これらの送り主は言わずもがな、クラリッサその人である。

 先日のお詫びと称して送られたその品は、どう見ても度を越していた。


「自作のポエムもあるぞ?」


「お願いだから、それ読まないで!」


 ラブレターなんて可愛いものではなくて、彼女の想いのたけが綴られたポエムは物凄い威力をもって、私の腹筋と涙腺を一瞬で破壊した。ようやくさっきおさまったところなのに!!


 明日はお腹が、笑い過ぎて筋肉痛になってしまうかもしれない。


「お前、クラリッサに一体何をしたんだ?」


「何って、ただ正体をバラしただけだけど?」


 そうなのだ。クラリッサはユージーン=ユージェニーに気付いた途端、あくまでお詫びと称したプレゼント攻勢を仕掛けてきているのだ。


 そして、そのプレゼントの端々に、なぜか彼女の兄、スターリングの隠し撮り写真が添えられていた。


 なんで隠し撮りなのかは、なんとなく理解出来たが。


 自作のポエムとは別に、自分の兄と結婚したら、私達は義理の姉妹になりますね! とか、子供が産まれたら、自分の子供同然に可愛がるとか、そんな決意表明まで綴られていたのだ。

 どうやら、私と自分が結婚することは不可能なので、兄のスターリングと私を結婚させる方向に転換したようだった。


 転んでもタダで起きないとはこのことだ。

 前向き過ぎだろ!!


「まあ、良かったんじゃないか? お前も彼女が精神病院に入院したと聞いて、気が気でなかったんだろ?」


「まあ、そうだけど」


 彼女は昨日、入院先を抜け出して、私がよく通っていた店にたまたま顔を出したようだ。


 まあ、彼らは双子なんで、自分がダメなら、兄に希望を託したいって感じなのかもしれない。


 確かにスターリングは、アレックスとの縁談がらみで、夫候補になったものの、学院に通ってない私とはほとんど接点がなくなってしまった。


 それに別に彼も、あくまで隠れ蓑として候補に加えて欲しいと申し出ただけで、他の候補者とは訳が違う。


 スターリングは今時珍しい常識人なので、彼だけでも、どうかまともであって欲しい。


「えっ、何これ? どうしたの?」


 部屋に入ってくるなり、驚きの声を上げたアレックス。

 でも、逆にその姿を見て、私の方が仰天した。


 彼は車椅子に乗ってなかった。松葉杖を突きながらも、自分の足で、立っていたからだ!!


「アレックス、足!?」


 彼はちょっと照れ臭そうに笑った。


「杖で歩けるようになったんだ。ジーンに歩いてるところ、見せたくて」


「凄いじゃないか! 頑張ったね!!」


 私は思わずアレックスを抱き締めた。

 兄上も、今回はさすがに大目に見てくれる。


 後から入ってきたユーエンは、部屋の有様にさすがにびっくりしたようだ。


「おはようございます。ん!?」


 さすがの彼もこのプレゼントの山を見て一瞬固まった。


「何事ですか? これは」


「凄いだろう? なんと送り主はクラリッサだ。完全に嫌がらせかと思うわ、これ」


 兄上はなんだかもう投げやりだ。そりゃあ、これのせいで予定していた授業が丸潰れだもんな。


「精神病院に入院したと聞きましたが?」


「それが、この通り。もうすっかり元気そうだよ」


 私は、アレックス達にクラリッサとの経緯を話した。


「気付かれたの? ユージーン本人だって」


「わざと教えたんだ。殿下の許可が下りたので」


「へぇ、マックス兄様が許可を?」


 アレックスは、プレゼントの山を物色し始めた。


「何やってんだ? お前も片付け早く手伝ってくれ」


「はーい」


 兄上とユーエンは、とりあえず部屋を片付け始めている。

 このままじゃ、授業も出来やしないからだ。


「食べ物どうします?」


「さすがに毒とかは入ってなさそうだけど、簡単に食べれる量じゃないな」


 とりあえず、仕分けして、衛兵やメイド達にもお裾分けすることに。


「お兄さん、毒味して!」


 アレックスが手作りケーキを持ち出して、兄上の口元へ一切れ持っていった。


「なんで、僕?」


「なんか、ただで死ななそうだから? 変態だし?」


「誰が変態だ!!」


 問答無用で、口の中へケーキを突っ込む


「うへ、かなり甘い」


 嫌そうな顔をして、無理やり飲み込んだ。

 兄上も甘いものが苦手だったな、そういえば。


「とりあえず、毒とかは平気っぽい」


 アレックスも一口食べると、ちょっと微妙な顔をした。


「うーん、ユーエンの作ったやつのがうまい」


「そうなの?」


 ユーエンの料理はプロ並だもんな。

 そういえば、お弁当は食べたことあるけど、彼お手製のスイーツはまだ食べたことがない。

 彼の料理はそんじょそこらのお店よりずっと美味しいし。


 やっぱり料理出来るのはいいよなぁ。

 私が男なら、迷わずユーエンを嫁にする。いや、彼も男だけど。


 でも手作りケーキだけは、やっぱり食べるのに抵抗がある。

 私も甘い物が実は苦手なのだ。

 それでも、彼女が一生懸命作ったことを考えると、一口だけでも食べないと悪い気がした。


「じゃあ、一口だけ食べる」


 アレックスが一口だけ、食べさせてくれた。

 確かにかなり甘くて、全部食べるのはとても無理そうだ。


「これは仕方ないよ。ジーンが無理して食べることない。ねえねえ、それよりこれ何?」


 彼が取り出したのは、例のポエムだ!


「ああそれは、読まない方がいいよ?」


「そう言われると見たくなる」


 あなたのその青い目が私を見つめる時、

 運命を感じずにはいられません。

 ずっと見つめていたい。あなたのその顔を。

 あなたの夢を毎日見ていたい。

 あなたの声を聞いていたい。


 ポエムを朗読していたアレックスの口元がみるみる緩んでいく。


「ぎゃははははははははっ、ヤバイ、これヤバイ!!!!」


「アレックス! はしたないですよ?」


 ユーエンの嗜める声にも、アレックスは止まらなかった。お腹を抱えて、笑い転げている。

 だから読まない方がいいって言ったのに。


「どんだけ、好きなんだ? 要は顔が好きってこと?」


「うーん?」


「だったら、お兄さん紹介したら? 似たような顔だから」


 そこで、兄上が何か危険を察知したようで、物凄い形相でこちらを振り向いた。


「何か良からぬことを企んでないか?」


「なんでもありませーん!!」


 アレックスはすっとぼけた。要領良いよね、この子。

 兄上を紹介って、それはそれでなんか嫌だな。

 ていうか、絶対兄上が嫌がるだろう。


「なになに、クラリッサって、今度は自分の兄貴とジーンをくっつけようと企んでる?」


 あ、気付いちゃった?

 そりゃあ、こんなに写真を紛れさせてたらねぇ。


「これ、全部隠し撮りじゃん。ていうか、クラリッサって相当ヤバイね」


「アレックスの実質の婚約者でしょ?」


「やめてよ! 父上が何と言おうと、クラリッサなんか絶対にゴメンだよ」


 まあ、あの極端な性格だしなぁ。

 私に対しても、あんな手を使うくらいだ。


「お前ら、真面目にやらないと授業が出来ないぞ」


「はいはい」


 それにしてもこの大量のぬいぐるみやおもちゃはどうしたものか。

 さすがにこんなもので遊ぶ年でもないし、困ったなぁ。

 思案に暮れていると、アレックスが提案してきた。


「孤児院にでも、寄付しちゃえば?」


「ああ、なるほど」


 それは妙案だった。


「兄上、孤児院に行きたいです」


「授業はどうするんだ?」


「後で補習でもなんでも受けます」


 兄上は片付ける手を一旦止めて、軽く溜め息をついた。


「分かった。行ってこい」


「兄上は来ないの?」


「孤児院なんて特に危険はないだろう? 僕だって忙しいんだ」


 私の方を見もしないで作業を再開した兄上は、別室に荷物を運ぶ為、部屋を出て行ってしまった。


 兄上? やっぱり様子が変だ。


「お兄さん、どうしちゃったんだ? 喧嘩でもした?」


「うーん、ちょっとね」


 思い当たるのは、先日の出来事だ。

 あれから兄上とはギクシャクしたまま、どうすることも出来ず、そのまま日々を過ごしていた。


 もちろん、全く会話がない訳ではないし、授業はいつも通りだし、なんだかんだで傍にはいるし、いつも通りと言えばそうかもしれない。それでも、やっぱり兄上はあれからおかしい。


「じゃあ、僕が一緒に行くよ。ユーエンいいよね?」


「構いませんよ。車を出しましょう」


 それで私は仕方なく、アレックスとユーエンと三人で、兄上抜きで午後から出掛けることにした。

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