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元悪役令嬢と婚約破棄してなぜかヒロインやらされてます。  作者: 上川ななな
僕が私になりヒロインになって攻略される寸前まで
20/161

20 お兄ちゃんの想い

 王立図書館を後にした私達は、そのまま王城には帰らず、街に繰り出していた。


 マクシミリアン王子が、どうせなら外で食事をして帰ろうと提案したからだ。私達はもちろん断ることも出来ないので、こうして来ている訳だが、


「だから、なんでこうなるの?」


 大の大人三人が、私を真ん中に挟み腕を組んで歩いている。図書館に行く前もそうだが、再び両手に花、いや、正確に言うと、私を挟んで睨み合っている。


「お前はもう帰っていいよ?」


「殿下こそ、帰られたらどうですか? 側近達も心配してますよ?」


 道ですれ違う人々の視線が突き刺さる。

 私達はとにかく目立つ。三人とも身長がある上、王子と兄上は、側から見れば特上のイケメンだ。そして私も相応の美女なのだろう。そんな三人が、道の往来でぎゃーぎゃーやっているのだ。


 目立たない訳がない。


「人に見られてます、めっちゃ見られてます!! 殿下、正体バレてもいいんですか?」


「別にバレだって構わないさ」


 まさか私と交際してると噂になって、それが広まり、こちらが引くに引けない状態を狙ってる?


 王子は私の右手を手に取り、なんと恋人繋ぎに変えた!


「見せつけてやればいい」


 不敵な笑みを浮かべて、そのまま道を突き進む。

 私の左隣にいる兄上は、引っ張られる私の手を頑として離さない。


「僕の目が黒いうちは、絶対に好きにはさせません!」


「お前の目は、黒くないだろ?」


 そこ、突っ込むの?

 王子はニヤニヤしている。相変わらずだなあ。


 そんな私達の前に、五歳くらいの小さな茶色の髪の女の子が突然立ち塞がった。


 王子が優しく声を掛けた。


「どうした? お嬢ちゃん」


 黄色のリボンのツインテールの可愛い子だ。

 彼女は、私達を見回して聞いてきた。


「お兄ちゃんはお姉ちゃんが好きなの?」


「そうだよ?」


「そっちのお兄ちゃんも、お姉ちゃんが好きなの?」


 兄上は急に自分に振られてちょっと驚いたようだけど、


「そうだ」


 女の子は頷いて、とうとう私に視線を移した。


「お姉ちゃんは、どっちが好きなの?」


 ここできますか、私にその質問を?


 よく見れば、道行く人々が立ち止まって、私達に注目している。イケメン二人を連れ歩く美女が、どちらが好きなのか子供に詰め寄られてる図は、通行人の興味を相当引いてるらしい。


 ここは慎重に答えないとまずい。


「えーっと、どっちも好きかな?」


「ダメ! どっちか選ばないと!!」


 ええ〜!? そんな、ここで選ぶの?


 王子は相変わらずの笑顔で、兄上は私を睨んでいる。

 こんなんで選べる訳ないじゃんか!!

 ここで、私は苦肉の策に出た。兄上にはちょっと悪いけど。


「えっとね、こっちの人はお兄ちゃんなの。ほら、私達似てるでしょ? こっちの人は、えーっと」


「彼氏?」


「えっと、そんなもんかな? アハハ!」


 そう答えると、王子が私を引き寄せて、満面の笑みを浮かべて言った。


「そうだ、恋人なんだ」


「ちがーう!!」


 すかさず否定する兄上の足を踏みつけ、私は愛想笑いを浮かべた。


「三人は仲良しなんだね!」


「そうだよ!」


 最後に女の子は、兄上に向かって辛辣な言葉を浴びせた。


「妹のデート、邪魔しちゃダメだよ? お兄ちゃん」


「!!」


 そして彼女は嵐のように去って行った。


「誰が、お兄ちゃんだ!?」


「まあまあ、兄上」


 その場で憤る兄上を、なんとか宥めようとする。


「あの場はああでもして収めないと。私が浮気な女と言われてもいいんですか?」


「だから、遠慮しろと言ったんだ。彼女の護衛は私がやるから問題ないよ、()()()()()


 王子の言葉は、どうやら火に油を注いでしまったようで、兄上はすっかり機嫌を損ねてしまった。


「先に帰る。あの子に邪魔するなと言われたし」


「兄上!!」


 私の呼びかけにも、兄上はもう応えてくれなかった。さっさと踵を返して帰ってしまう。


 小さくなる背中を二人で黙って見送って、私はなんとなく罪悪感で胸が痛んだ。


「マヌエルも、どうしていいのかよく分からないみたいだね」


「?」


「君はずっと兄上と彼を呼ぶだろう? 兄妹として彼を兄だと思ってる?」


 そう言われると、悩んでしまう。兄上はずっと兄上だし、これからもそれは変わらない。


「兄は兄です。ずっとそうでしたし、これからもずっと」


「でも、彼は違う。君を異性として見てきた。ずっと子供の頃からだ。その想いを、君は本当に分かっているのか?」


 王子がこんなことを言うなんて、意外だった。

 兄上の肩を持つなんて。


「君が彼を兄と呼ぶ限り、彼は兄を辞められないんだ。それはあまりに残酷なことなのかもしれないね」


 ふっと軽く溜め息をついた彼は、私の手を改めて握り直した。


「ともあれ、これからは二人のデートの時間だ。うるさい邪魔もいなくなったし、何か美味しいものでも食べて帰ろう」


 そう言う彼は、もういつもの笑顔で、私は王子の人柄をさらに知った気がした。彼は、ちゃんと周りの人間のことも考えられる人なんだ。


 将来国王に成るべくしてなる人。

 そんな彼の隣に立つのはどんな人なんだろう?


 私の相手が決まらない限り、彼の縁談話も進まないんだろう。

 彼の身分と立場を考えると、あまり待たせる訳にもいかないのかもしれない。


 来年の春までに、誰か一人を選ばなければならないなんて。

 そういう設定なんだから仕方ないんだけど。


 でも、悪いけど、やっぱり私に王太子妃は無理な気が。

 この人を好きになったら、気が変わるのかな?

 それでも頑張ろうって気になるのかな?


「そんなに顔を見つめて、まさか、私にとうとう惚れてしまったか?」


 えっ!? そんなに見てた!?


「ご、ごめんなさい」


「いやいや、こんな顔で良ければずっと見ててくれ」


 やっぱり自信のある人は違うんだ。私なんか、彼に顔をずっと見られてたら、きっと顔から火が出て悶絶してしまうだろう。

いつもありがとうございます!

PVやブクマの微増にびっくりしております。

本当に励みになります。ありがとうございます。


今後も登場キャラが多いので、各キャラにスポットを当てて話を進めるつもりです。今回はちょっとお兄さんの心情が垣間見えた感じです。

次回もまたよろしくお願いします。明日も更新予定です。

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