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元悪役令嬢と婚約破棄してなぜかヒロインやらされてます。  作者: 上川ななな
僕が私になりヒロインになって攻略される寸前まで
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19 兄はやきもちやき

 ようやく部屋から出てきた私達に、兄上は相当御冠だった。

 私の顔を見て、真っ先に指摘した。


「口紅が剥げてる」


「!!」


 め、目ざとい! さすが兄上。

 兄上は、マクシミリアン王子に詰め寄った。


「僕がいないことにかこつけて、手を出しましたね?」


「ああ、出したとも。何がいけない? 私だって、彼女の夫候補だ」


 王子、開き直ったーーーー!!


「いくら殿下といえど、許しませんよ? まさか無理やりではないでしょうね?」


「彼女に聞いてみるといい」


 私にそこでフリますか? 酷いなぁ。

 兄上の厳しい視線が、私に注がれる。


「無理やりされたのか?」


 あれは、えーと不可抗力?


「うーん?」


 結果としてキスを拒めなかった私も、悪い。

 でも、あそこで拒むことは、すみません、なんか無理でした!


 そんな多情な女じゃ、ないんだけどなぁ。


 そして王子は、とうとう兄上に不満を言い放った。

 これは王子に限らず、他の候補も常々思っているであろう不満だ。


「マヌエル、お前もいい加減にしろ。確かにお前は彼女の兄かもしれないが、その前に夫候補の一人だろう? 他の候補の妨げをしてはいけない」


「それ、殿下がジーンとキスとかするのを、黙って見てろってことですよね?」


 兄上も一歩も譲らない。

 ダメだ、ここで言い争っていても、不毛なだけだ。


「兄上!」


 話題を変えようと、私は兄上に本で見知った内容をぶつけることにした。


「兄上! 私は元々女だったんですね?」


 兄上の顔色が変わった。


「どうしてそれを? そうか禁書に?」


 兄上は大体を察したようだ。


「どこまで知った? 全て話せ」


「私が話そう」


 王子がかいつまんで兄上に説明した。

 兄上は椅子に腰を下ろし、深い溜め息をついた。


「──そうか。出来ればこれはお前に知られたくなかった。聖乙女に(まじな)いを掛けるように頼んだのは、実は僕なんだ」


 な、何だって!?


「お前が生まれてすぐ、聖乙女の資質を備えていることが分かった。二歳になる頃には、さまざまな魔物がお前にちょっかい、いや、少し違うな。魔物と仲良くなっていた」


 これには、私と王子二人とも驚愕した。


「魔物と仲良く!?」


「魔物と言っても小物だ。特段、害のないものばかり。だが、大きくなって力が増すにつれ、そういう訳にもいかないのは目に見えていた。そのうちきっと、僕の手に負えない魔物がお前に手を出してくる。そうなる前に手を打つ必要があった」


「それで、(まじな)いを? アレックスを犠牲にして?」


 兄上は首を横に振りながら、


「代償のことは聞いていたが、どこの誰が選ばれたかまでは、僕は知らなかった。僕達と同じ、王家の血を引くものが選ばれたとは聞いたが、聖乙女は結局教えてはくれなかった」


 そんな! アレックスはいいとばっちりだ。


 王子が何かを思い出すようにして、話す。


「大公夫人は、前聖乙女と懇意にしていた。二人は元々親戚なんだ。おそらく二人の間で何か話をつけたんだろう」


「男になれば、力は弱まる。そういうことだったんですね」


 二人は無言で頷いた。

 兄上が、私に固執する理由、なんとなく理解出来た。

 きっと責任を感じているんだ。こんな複雑な人生にしてしまったことに。男なのか女なのか、よく分からない自分になって、悩んでいる私を放っておけなくて。


 兄上は優しいから、きっとそうだ。


「小さい頃のお前は物凄く可愛い女の子で、初めて喋った言葉が『お兄ちゃん』だった。いつも僕の後を追いかけてきて、可愛くて可愛くて仕方がなかった。本当に可愛くて可愛くて」


「何回、可愛いって言ってるんだ?」


 王子のツッコミにも負けず、兄上は遠い目をして何やら幸せそうな顔をしている。


 前言撤回! 兄上はただのシスコンの変態だ!!


「まあ、でも可愛いのは間違いなかったんだろう、今はこんなに綺麗になったんだから」


 そう言って、王子は私の肩を抱いて自分の方に引き寄せた。

 なんかごく自然にされたぞ? さすがはマシュー王子の兄君!!


「あっ、こらっ!!」


 兄上が立ち上がって、すかさず私達の間に割って入った。


「殿下といえども、ジーンはやっぱりやれません!!」


「いや、彼女は絶対に私の妃にする。もう決めたんだ」


 王子はきっぱり言い切った。

 絶対? もう決めた!?


「もうこれからは、遠慮せず、どんどんアプローチしていくつもりだ。心してくれ」


「いや、しなくて結構です」


 二人の言い争いは、まるでコントのようだ。

 そんな様子を笑って見ていると、何やら絡みつく視線を感じた。


「わっ!」


 いつのまにかラファエルが、じっとこちらを窺っていた。

 突然現れるから、びっくりした!


「……そろそろ閉館時間なんだけど?」


 相変わらず、やる気のなさそうな声。

 もうそんな時間だっけ?

 兄上が、彼を一瞥して聞いた。


「お前、いつからそこにいたんだ?」


「……んー? 小さい頃のお前は物凄く可愛い女の子で、初めて喋った言葉が『お兄ちゃん』だった。いつも僕の後を追いかけてきて、可愛くて可愛くて仕方がなかった。本当に可愛くて可愛くて……くらいから?」


「うわああああああっ!!!!」


 兄上が素っ頓狂な声を上げて取り乱した。

 いや、あんたそのままの台詞喋ってましたよ? なんかうっとりしながら。


 ラファエルも人が悪い。何もあの恥ずかしい台詞を丸暗記することないのに。


 マクシミリアン王子は、肩を震わせて我慢していたけど、そのうち大爆笑した。


「あははははははっ!! マヌエル、お前やっぱりアホだろ?」


「うっさい!!」


 兄上、もう言葉遣いが不敬です。

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