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元悪役令嬢と婚約破棄してなぜかヒロインやらされてます。  作者: 上川ななな
僕が私になりヒロインになって攻略される寸前まで
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17 王立図書館へ

 翌日から、兄上による個人授業が早速始まった。

 王立学院に籍は置いたままなので、定期的にテストを受けさえすれば卒業は認められるという。


「で、なんで君までいるのかな?」


 兄上の問いに、満面の笑みでアレックスは答えた。


「なんでって、マックス兄様が別にいいって言ったから」


 彼はちゃっかり、私の席の隣に机を並べて座っている。


「君も大変だな、ユーエン」


「いいえ、別に」


 ユーエンはいつものように素っ気ない態度で、何やら本を読んでいる。


 兄上は、多少呆れながらも、授業は真面目にやってくれた。やっぱり兄上は教え方も上手く、分かりやすい。


「お前、だいぶ知識抜けてるのな」


「そりゃあ、学校辞めてしばらくだし。さすがに抜けちゃってるよ」


 私は兄上みたいに頭が良くない。

 それは自覚している。


「先生ここ、分かりませーん」


 アレックスはことあるごとに兄上に質問をしている。

 半分嫌がらせっぽい。

 こんなとこで悪役令嬢属性発揮しなくてもいいのに。


「お兄さん、油断するとジーンに何するか分かったもんじゃないし。なんせ変態だから」


「変態って言うな!!」


 兄上に堂々と、気持ち悪いだの変態だの言えるアレックスがすごい。


 もしかして、兄上を牽制する為に私の(そば)にいるの?


 私とアレックス二人を教える兄上は、授業中は至って普通だ。

 別にどこかの王子のように強引に迫ってくるとも思えない。


「じゃあ、ここで一旦休憩で。十分したら再開するから、復習しといて」


 兄上はそう言って部屋を出て行ってしまった。


「お兄さんて残念イケメンだよね」


「あんまり言わないで。一番ショック受けてるのこっちなんだ」


 確かに兄上は、(はた)から見たら高スペックだ。

 没落した伯爵家の後継ぎだけど、兄上が金鉱脈を掘り当てて、財政は盛り返しつつある。

 見た目は金髪碧眼、高身長で超美形、頭脳は学院始まって以来の天才。そして、剣術も格闘も達人の域でこなす。

 性格だって優しく温厚で、少々気弱なところもあるが、ていうか、なんだか近頃の兄上は、性格がまるで変わってしまったかのようだ。まさか、こんな嫉妬深いとは思わなかった。こちらが本性というべきなんだろうが。


 そんな兄上が、私を溺愛してるなんて。

 そして、私の夫候補にまでなってしまうなんて。

 まあ、実の兄妹じゃなかったから、許されることなんだけど。


 兄上は家に帰らず、そのまま王城に住んでいる。部屋はすぐ隣だ。


「マックス兄様もどういうつもりなんだか。ライバル増やしてどうするんだっつうの」


「ねえ、ゲーム中での兄上ってどんな人だったの?」


 アレックス、うーんと唸った。


「正直、いわゆる隠しキャラだからな。僕は実は攻略してないんだ。そういえばお兄さん、学院に出入りはしてたな」


「なんで?」


「臨時の教師だよ。条件満たすと来てくれる」


 それ以上は、アレックスも詳細は分からないらしい。


「ていうか、ゲームの内容ともうだいぶ違うよね。世界観は同じだけど、もう別物として考えた方が良さそうだよ」


 確かにそうかもしれない。

 そんな感じで、私と兄上とアレックスの授業は滞りなく進み、昼食を庭園のガーデンテラスで四人で食べた。

 ある意味怖い会食だった。

 兄上はわざとなのか私にしか話しかけないし、アレックスは兄上にずっと悪態をついてるし、ユーエンにいたっては一言も発しない。


 食後のお茶を飲んでいる時に、アレックスが言い出した。


「午後からは、付いてられない。今日はリハビリの日なんだ」


「そうなんだ」


「でも、ちゃんと手は打ってあるから! 安心して」


 何だろう? 手って。

 アレックスは名残惜しそうにしてユーエンと出掛けて行った。


 午後からはアレックス達もいないので、私と兄上だけになってしまうかと思いきや、


「なんで殿下が?」


 兄上の深い溜め息。


 マクシミリアン王子が、アレックスの席に満面の笑みで座っていた。


「なんでって、見学だよ。きちんと指導しているか、見定めに来たんだよ」


「アレックスに見張れと? 嫌だなぁ、信用ないのかな、僕」


 兄上がぼやいた。ちょっとかわいそうだ。


「じゃあさ、ちょっと三人で出掛けないか?」


 突然の提案に、驚く私達。


「どこへ?」


「本当は、ジーンと二人で出掛けたいんだけど、マヌエルが許してくれないだろうし」


「僕を妹の護衛にしたのは、誰でしょうね?」


 これには王子は苦笑いだ。


「お前を護衛にしたのは、失敗だったかな。ニコラスのままが良かったのかな?」


「ニコラス様は忙しいから、暇な兄上でちょうどいいですよ」


 思えばニコラス様は、だいぶ無理をされていた。

 私に付いていたばかりに、本来の仕事が疎かになっていたようだし。そもそも聖騎士団長と近衛隊の隊長の仕事は激務だ。


「で、どこへ行くんですか?」


「王立図書館だ」


 この国のあらゆる蔵書が保管されている巨大図書館だ。

 もちろん、王城内にも図書室はあるが、規模が全然違う。

 あそこはまるでちょったしたアトラクションのような場所で、

 一日いても飽きない場所だったりする。


「何か本でもお探しですか? 殿下の読まれる本ならば、城内の図書室におありになるのでは?」


「私だって、図書館くらい行ったっていいだろう? お前と違って確かにあまり読書はしないが」


 かくして、マクシミリアン王子の希望により、私達三人で王立図書館へ行くこととなった。


 私は貴族の令嬢らしく、きちんとドレスに着替えた。

 いわゆるバッスルスタイルというもので、ダークグリーンを基調としたビロード素材のものだ。

 まあ、私の部屋付きのメイドさんに、面倒なのでコーディネイトは全て任せている。


「……本当に、君は見栄えがするな」


 着替えてきた私の姿を見て、マクシミリアン王子が感嘆する声を上げた。


「手を出したら、殿下といえども容赦しませんよ?」


 兄上は私が着飾るのが実のところ面白くなさそうだ。

 他の男に言い寄られるのが我慢ならないらしい。


「彼女の同意があれば別だろ?」


「同意しませんから!」


 なぜ兄上が断言する?

 怪訝そうな顔をする私を見て、兄上は決まりの悪そうな顔をした。


「エスコートするくらいは、構わないだろう?」


 王子がめげずに腕を差し出してきた。

 正直、慣れないヒールは歩きにくいので助かるのが本音だ。

 王子にエスコートされ、歩き始めた私達に、兄上は小走りに付いてきて私の空いている左腕を、自分の腕に絡ませた。


 まさに両手に花状態だ。


「はははっ、たまにはいいかもな、こういうのも」


 マクシミリアン王子はなんだか楽しそうだ。


 やたらデカイ三人が、腕を組んで道を練り歩く異様な姿に、道ですれ違う人々が、皆一斉に振り向く。


「めちゃくちゃ目立ってますよ?」


「そりゃあ、美男美女が三人も連れ立って歩いてるんだ。みんな見るに決まってる」


 一応、お忍びなので王子は軽い変装はしているが、伊達眼鏡を掛けてる程度なので、見る人が見たら気付かれてしまうだろう。


「マヌエル、少しは遠慮してくれよ」


「いいえ、嫌です」


 兄上はきっぱりはねつける。


「愛されてるねぇ」


 私は苦笑いするしかない。

 兄上は始終私に張り付いて、寄ってくる男の人を全て排除する気マンマンだ。

 たとえ、それが王子だとしても。


「クラリッサだけど、その後の話聞いてる?」


 王子が突然、話題を変えた。

 あんまり聞きたくない名だ。


「いいえ」


「錯乱して精神病院に入ったそうだ」


 精神病院!?


「彼女はそれだけのことをしたんだ。お前が気に病む必要はないよ」


 兄上はそう言うけど、私はやっぱり良心が痛む。

 

「今は病院で拘束されているが、今後はどうなるか分からない。マヌエルは気を配っておいてくれ」


「分かりました」


 あそこまでして、私を手に入れようとした。

 それもある意味狂気の恋。

 私には分からない感情だ。

 私も、我を忘れるほど、誰かを好きになれるのだろうか?


 王立図書館に到着したのは、それからすぐだった。

 元々は、王城の敷地内にあったというそれは、今はこの場所に移築されて、増築が繰り返されてちょっとしたアトラクションのような場所になっている。

 某夢の国にでもありそうな、雰囲気だ。


 入り口入ってすぐに、広いエントランス、天まで届きそうな書棚がずらりと並ぶ姿は、圧巻だ。


 これじゃあ、目当ての本を探すのは大変だと思いきや、ここは司書が有能で、希望の本を言えば取ってきてくれし、最先端の技術も導入されていて、検索システムもある。


 どういう原理かはあまり気にしてはならない。たぶん魔法なんだろうけど。


「それで、殿下はどんな本をお探しで?」


「ここにしかないんだ、禁書で」


 禁書!? 持ち出しが禁止なものと、閲覧自体が禁止されているものがある。


「一般には閲覧禁止だ。王族しか読むことを許されていないものだ」


「ほう」


 本の虫の兄上には興味深い話のようだ。

 暇があれば、ずっと本を読んだり、勉強をしていたような人だから。


 ここは兄上にとっては、庭みたいなものだ。


「王族のみ閲覧可の本ですと、僕には分かりませんね」


「司書を呼んでこよう。おそらく、本はこのエリアにはない別室だし」


 マクシミリアン王子は、カウンターの司書の元へ行く。

 やがて一人の司書を伴って、戻ってきた。

 なぜかサンダル履きの、よれよれの司書の制服を着た、癖のある黒髪、鬱陶しそうな前髪の長い青年だ。お陰で顔はほとんど分からない。この独特の風貌は見覚えがある。


「……王立図書館司書のラファエル・シェイファーです。案内するんで、こっちへ」


 めちゃくちゃやる気のない、ゆっくりとした独特の喋り方!

 やっぱりラファエルだ! 言わずと知れた攻略対象の一人。


「へえ、君がラファエルか」


 兄上が興味深そうに彼を覗き込んだ。


「王立学院の僕以来の天才ラファエルとは君のことか?」


「……金髪に青い瞳、そう言うあんたは、エマニュエル・フォーサイス?」


 な、なんだか不穏な空気?


 ラファエルのことなら、多少知識はある。

 平民出身ながら、王立学院に特待生として入学し、兄上以来の全教科満点を毎度叩き出し、首席で卒業した天才だ。

 エリートとしての輝かしい道もあったのに、それらを全て蹴り、ただの図書館司書に収まってしまった変わり者。

 人と接するのはあまり好まず、いつもだらしない格好、髪もボサボサで、いわゆる癖のあるキャラだ。でも本当の素顔はお約束通りなのだ。


 今までの攻略対象とは一線を画すのが彼だ。


 普通にプレイしてては、決して仲良くはなれないんだよな。

 まあ、私はこれ以上、夫候補を増やす気はないので、彼はスルーしよう。


「……じゃあ、こっちが聖乙女?」


「!?」


 聖乙女って誰か言った?


「……王立学院に聖乙女が現れたと。それと同時期にユージーン・フォーサイスが死んだ。偶然なのか、必然なのか」


 私は愛想笑いを浮かべるしかない。

 やっぱり、彼は独特過ぎる!


「いかにも、彼女がユージェニー・フォーサイス、聖乙女その人だ」


 マクシミリアン王子が、ここで私が聖乙女と明かした。

 ということは、ラファエルには話してないってことだ。


「……へえ、聖乙女は代々美人ばかりって本当なんだ」


 美人だと言われて悪い気はしないが、ラファエルは何となくヤバイ気がする。いちいち勘が鋭くて、この人。


「さあ、禁書の場所へ案内してくれるんだろ? 早く本を見たいのだが」


 マクシミリアン王子が催促したので、ラファエルは仕方なさそうに歩き始めた。


「……では、今から特別なエリアに行くんで」


 彼はエントランスを抜けて、奥にあったエレベーターのボタンを押した。やって来たエレベーターに私達は乗り込み、地下へ降りていく。


 降りた先には無限とも思える広さの部屋に、書棚が整然と並んでいる。


「すごいな!」


 マクシミリアン王子が感嘆の声を上げる。

 私もさすがにこのエリアに来たことはなかった。


「ここは通常の禁書が置いてある。持ち出し禁止だから、このエリアでしか閲覧出来ない」


 兄上の説明に、私達は頷いた。


「……目当ての本は、さらにこの奥、王族しか入れない部屋だ」


 王族のみ閲覧可なのだから、それも仕方ないのかもしれない。

 ラファエルに付いて行くと、一つの古い扉の前に着いた。

 でもドアノブも鍵穴も何も見つからない。


 扉には何やら手形のような装飾が施されている。


「……王子はそこに手をかざして、それで開く」


 ラファエルに言われた通り、マクシミリアン王子は扉の装飾部分に右手をかざした。

 すると瞬く間に扉が光って、見事に扉が開いた。

 扉の向こうはちょっと薄暗くて、よくは見えない。


「間違いなく、王族だったようだ」


 王子は私を見てちょっと笑った。


「ラファエル、乙女は入れるのか?」


「……もちろん、乙女はこの図書館のあらゆる部屋へ入ることを許されている」


 なんだその特権。でも、確かに王族に準じる身分だし、当たり前なのかも。


 ラファエルの言葉を聞いて、王子は私の手を取った。


「一緒に行こう」


 そしてそのまま、私の手を引いて部屋の中へ入ろうとする。


「あっ! ちょっと、僕は?」


 兄上が慌てて声を掛けて、王子は兄上を振り返った。


「適当に時間を潰しといてくれ」


 王子はまさにしてやったりの顔。

 ああ、この人は全部分かっててやっている。

いつもありがとうございます!

読んで下さる方がいて、日々励みになっております。

登場キャラがようやく出揃いました。たぶん。

今回から、マックス王子のターンです。(主人公はそうは呼ばないけど)

こんな感じで各キャラと絡んでいく感じで話を進めます。キャラが多い分、長い連載になりそうですが、気長によろしくお願いします。

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