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元悪役令嬢と婚約破棄してなぜかヒロインやらされてます。  作者: 上川ななな
玉の輿に乗りたくて乗った訳ではないんです!
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13 新たなる真実とすれ違う思い

 馬車は再び悪路の中進み、とうとう止まった。

 到着した先は、真っ白な壁の大きな館だった。異国の独特な形の建物で、天井が物凄く高い。柱も床も大理石だろうか?

 使用人らしき人々は、皆肌が浅黒く髪も黒い。皆、ミカと私の姿を認めるなり、ニコニコ笑って頭を下げていく。


「ようこそおいで下さいました、聖乙女よ」


 背後からよく響く声がして振り返ると、この地の衣装に身を包んだ白髪の老紳士の姿があった。先程から見かける現地の人々は、皆浅黒い肌をしているので、この人がミカの父だという前任の大神官だろうか?


「強引なご招待に、大変お怒りだとは思いますが、何卒ご容赦頂きたい」


「こんなことをしてタダで済むと思っているのでしょうか?」


 すると老紳士は見るからに申し訳なさそうに深く頭を下げた。


「これも全てあなたお救いしたい一心で行ったこと。息子は私の指示に従っただけ、全ての責任は私に」


 この人も腰の低い人だ。丁寧で穏やかで人が良さそうな。この親子やっぱり似てる……。


「じゃあどう責任取ってくれるんです? 私は第二の王子の婚約者でもあるんですよ」


 私はここぞとばかりに相手を責め立てた。やっぱりこんなやり方を容認する訳にはいかないからだ。


「あなたの結婚相手には私の息子を。どこに出しても恥ずかしくない息子です」


 うーん、やっぱりそうなるんだ。ここはどんなに反論しても無駄そうだ。

 肝心のミカはというと、涼しい顔で私と前大神官の話を見守っている。何か口を挟むでもなく、ただ大人しく。


「ご存知ですか? 我がマクファーソン家もあなたと同じ初代聖乙女の血を色濃く受け継ぐ家なのです。当家もフォーサイス家と同じように、代々聖乙女を多く輩出してきました。つまり、あなたの結婚相手として全く問題はありません。聖乙女はどうしても、同じ血を持つものを求める傾向があるので……」


「その話は初耳です」


 言われてみれば、私の夫候補達は、全員聖乙女に何らかの関わりのある血筋かもしれない。元々初代はこの国の王女であったそうだから王子達は言わずもがな、大公家の二人もそうで、聖属性魔法が使えるニコラス様も然り、ラファエルに至っては先代の息子な訳で。兄上はまぁ説明要らずだろう。


「我々の一族は代々大神官を継いできました。そして聖乙女の辿る過酷な末路を嫌というほど見てきました。国の為に、これ以上、一人の人間を犠牲にし続けるのは、あまりにも辛いのです」


 大神官はとても切実なまでに私に訴えかけてきた。その目には涙すら浮かんでいる。


「実は私の祖母が先々代の聖乙女なんです。父がまだ幼いうちに亡くなったそうですが……。祖母の最期もまた悲惨なものだったそうです。己を失って、廃人同然で……」


 ミカの話に私は全てを納得した。この人達が私をどうにかしようとしたのは、身近な大切な人の最期を目の当たりにしたからだと。


「なぜ聖乙女が精神に異常をきたすのか、実際のところ原因は分かっていません。幽閉同然なのは、全てはこの事実を表沙汰にしない為。我々は聖乙女が次第に自我を失っていく様を、ただ傍で見守るしかなかったのです。それがとても忍びなくて」


 その話が全て事実なら、どこまで聖乙女というと存在は過酷な運命を背負わされるのだろう? 私は今さらながら自分の運命を嘆いた。


「あなたをあんな目には遭わせません。それでたとえ国が滅びるとしても……もうその運命を受け入れるべきなのです」


 そう国が簡単に滅びることはないだろうけど……。今は何とか友好的な関係を保っている周辺国も、神の加護を失ったと知ればどうなるか──。

 私はそこでハッキリ自覚した。たとえ自分がどうなろうと、愛する人達がいる国を、みすみす滅びの道を辿らすような真似が出来る訳がない。歴代の聖乙女達もきっとそう思ったからこそ、己が犠牲になる運命を受け入れてきたのでは?


 お互いがお互いを思うからこその、すれ違いなのかもしれなかった。


 ミカ達は大事な家族をそうして失って、極端な手段に走ってしまったけれど、悪気がない事はもちろん理解出来る。

 それでも、賊を使って私達を陥れて油断させ、賊とはいえ結果的に命を落とさせてしまったことはこの人の罪なんだろう。


「私はあなたのお婆さんとは違う。みすみすおとなしく運命を受け入れる気はない。だから愛する人達と一緒に今必死で抗ってるの。この聖乙女というまるで人柱のような存在を、その根本からなくす為にね」


「神との契約自体を無効にする為に、動いているという話ですか……」


 ミカは眉根を寄せて、うーんと唸った。


「国王のみに代々受け継がれる、神との契約に関する書物があることが分かってるの。その禁書さえ手に入れられれば、聖乙女との契約自体を破棄出来るかもしれない」


「その禁書の存在は聞いたことがあります。しかし、長年聖乙女一人を犠牲にして、安穏と暮らしてきた王家が果たしてそんな禁書を手放すとは到底思えません。仮に神との契約が破棄出来たとしても、神の加護を失った国は、他国からしたら裸同然。いつ攻め込まれてもおかしくない状態になるのです。そんなことに彼らがするとでも? 乙女よ、あなたは騙されているのです」


 前大神官の言葉に、私は言葉を失う。

 まさか王子達が私を騙すだなんて、そんな事は絶対にあり得ない。


「私は第二王子の婚約者でもあります。彼は私を聖乙女の役目から解き放つ為に、一生懸命王太子殿下も含め、動いてくれているんです。彼らが私を騙すだなんて、絶対にあり得ません」


「少し考えればすぐ分かります。彼らは生粋の王家の人間です。何より国の繁栄と平和を望む者達です。その者達が、国とあなた一人果たしてどちらを選ぶかなどと、明白でしょう」


 ミカの尤もな意見に、私は言葉を返せない。

 我が国は小国、大国に挟まれた軍事力も乏しい無力な国。神の加護という触れ書きがあるからこそ、大国は畏怖を持って、我が国の平和が守られてきたのは紛れもない事実だ。


「私と父はあなたを救いたいだけなのです。どうか分かって下さい。今日はもう慣れない土地に来てお疲れでしょう。部屋に案内しますので、ゆっくり休んで下さい」

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