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元悪役令嬢と婚約破棄してなぜかヒロインやらされてます。  作者: 上川ななな
元悪役令嬢は絶対に諦めない
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06 闇オークションにかけられて

 夜になって、さっきの男と数人の男達が私達を連れにやってきた。


「さっさと来い。変な真似をしたら、ただじゃおかないぞ」


 大人しく男達に連れられ、私とアレックスは猿轡と目隠しをされて馬車に乗せられた。

 一体どこへ連れて行かれるというのか──。


「着いたぞ、降りろ」


 馬車に数十分は乗っていただろうか? 突然降りるように言われ、どこかの建物内に連れ込まれた。

 目隠しが外されると、部屋の明かりが目に眩しい。

 豪奢な部屋の装飾からして、どこかの屋敷の一室のようだ。


「銀髪とは珍しい。これは上玉な娘だ。男の方も相当な美形だな」


 目の前に立っていたのは、どう見ても貴族の格好をした男だった。神経質そうな細い目に、ツンと跳ね上がった口髭をたくわえている。


「……良くやった。金を貰って帰るがいい」


「へへ、ありがとうございます伯爵様。またよしなに」


 私達を連れて来た男は、下卑た笑いを浮かべながら部屋を出て行った。


「誰かある!」


 伯爵と呼ばれた男が声を上げると、すぐさまメイドが数人部屋に入って来た。


「この者達を洗って、着替えさせろ」


「畏まりました」


「ああ、逃げようと思わないように。ここからは絶対に逃げられない」


 伯爵は一言そう告げると、部屋を出て行った。

 私の手枷と足枷が外され、メイド達は私の服を脱がしにかかる。


「僕に触れるな」


「申し訳ありません。でも言いつけを聞かないと、私達が旦那様にぶたれてしまいます」


 よくよく見ると、どのメイドもメイド服から覗く手足に傷らしきものが見え隠れしていた。あからまさに顔にアザのあるメイドもいた。

 そしてどのメイドも覇気がなく、おどおどしていた。


「失礼します」


 すっかり脱がされて私の上半身が露わになると、メイド達は絶句した。


「ま、まさか女性!?」


 私は一言も発しなかった。

 同じように脱がされたアレックスの方も、メイド達はまたまた同じような反応を見せた。


「こっちが男!?」


 驚きを隠せないようだったけれど、彼女達は真面目に任務を遂行した。

 私達は丁寧に風呂で洗われ、用意された服に着替えさせられた。

 真っ白なワンピース、下着も何も着けずにそれ一枚だけ。

 そして私もアレックスも、首輪を付けられて鎖に繋がれた。


 メイドの一人が部屋を下り、伯爵と呼ばれた男が部屋に戻って来た。


「性別が逆だったと!?」


 伯爵は、私達を舐めるように見回す。


「お前、女だったのか?」


 顎を掴み、顔を近付けてじっくりと私の顔を眺めた。

 臭い息がかかって、背筋がゾッとした。


「なるほどな、確かにこれは美しい。黄金の髪に深い青い瞳。今まで取引した中でも間違いなく一番の上玉だ」


 伯爵はアレックスの方に向き直った。


「そしてこちらが男だと? 銀髪に紅い瞳、これだけでも珍しい。少々まだ幼いが……。お前の子を欲しがる夫人がたんまりいるだろうよ」


 顔色を変えるアレックスに掛けれる言葉もなく。

 私達はまさしく慰み者にされようとしているのだ!!


「今夜は特上の客が来るらしい。何でも外国の王族だとか。外遊に寄られたついでに闇オークションの噂を聞き付け、無理に参加を希望してきた。ひょっとするとお前達は外国に行くことになるかもしれんなぁ」


 下品に笑う伯爵は、本当に醜く非道だった。

 こんな風に攫ってきた者を、売り飛ばしているだなんて。


「それにしても美しい。お前は処女か? どれ、確かめてやろうか?」


 伯爵は私の下半身に手を伸ばしてきた。

 思わず身をよじるけれど、鎖を引っ張られて私は地面によろめいて倒れた。


「汚い手で僕のジーンに触れるな!!」


 伯爵はすかさず腰からぶら下げていた鞭で、アレックスを打った。


「あっ!!」


 肩先を打たれたアレックスは尻餅をついた。

 そのアレックスの鎖を引いて、伯爵は言い聞かせるように彼に怒鳴った。


「いいか? この女はお前のモノじゃない。売り物なんだよ!!」


「この下衆が!!」


 ペッと顔に唾を吐きかけたアレックスを、伯爵は激しく平手打ちした。


「アレックス!!」


 大きな音を立てて倒れこむアレックスを、伯爵は懐から出したハンカチで顔を拭きつつ、ねめつけるようにして怒鳴りつけた。


「お前達は奴隷だ!! 売り買いされるモノなんだよ? いい加減自分の立場を思い知れ!!」


 キッと私が伯爵を睨み付けると、気持ち悪いくらいニッコリ笑った。


「お前は過去最高の値がつくだろうな。楽しみだよ」


 伯爵はここから逃げられないと言っていたけど、私はすぐさまその言葉を理解した。

 この屋敷は大きな深い堀に囲まれて建っていて、唯一の出入りは跳ね橋によるものらしい。

 メイドに連れられ屋敷の中を移動しつつ、窓の外を眺めると、暗がりの中でも堀の水が闇で染まる色を垣間見れた。


 ここまで来て逃げるチャンスがあるとしたら、落札された後だろうか?

 もし、アレックスと私が別々に売られてしまったら?

 むしろその可能性の方が高いのだろう。


 アレックスの顔色は良くないものの、相変わらず目の輝きは失われてはいない。


 私達は大広間に連れられ、設えられた舞台の袖に移された。そこには既に、私達と同じような境遇の者が何人もいた。

 明らかに異国人と分かる者、屈強な体格の男や、痩せてガリガリの子供など、その内訳は様々だ。

 だがその者達の誰もが、皆諦めているのか虚ろな眼差しで、新たにやって来た私達に目もくれようともしない。


 既にオークションは始まっているようだ。舞台の方の異様なまでの熱気が伝わってくる。


 ここまで来ると私達はどうすることも出来ず、ただその場の状況を見つめていることしか出来なかった。

 一人、また一人と減り、そしてとうとう私達二人になってしまった。


 アレックスの鎖が引っ張られ、ついにその時が来てしまった。


「ジーン!!」


「アレックス!!」


 お互い名前を呼び合うことしか出来ないなんて。

 私は悔しくて涙が溢れた。


 舞台の方からは今までにない歓声が上がる。どうやら今までの最高値を叩き出したようだ。


 仮にも一国の大公家の公子なのに。王族の彼が闇オークションにかけられてしまうだなんて!!


 そしてとうとう私の鎖が引かれ、舞台上に引っ張り出されることになった。


 薄暗かった袖とは打って変わって、眩しい光に溢れていた。思わず目を細める。


 大広間に設置されたいくつものテーブルに、豪華な食事やワインが並べられ、身なりの良い貴族や商人風の客が目元を覆うマスクをしてこちらに注目していた。


 それはかなりの大人数だ。こんなに闇オークションに参加する愚か者どもがいるだなんて。

 司会の仮面をした男が声を張り上げた。


「本日最後の目玉となります。黄金の髪の凛々しい美女。瞳の色は深い海の如く、その肌は滑らかで雪のように真っ白です」


 ふいに背中のファスナーを下され、私は大勢の前で裸を晒す羽目になってしまった。


 歓声が上がり、私は驚きとともに羞恥で震える。


「陶器のような真っ白い肌です。始めは金貨五十枚から!」


 瞬く間に客席から声が上がり、どんどん値が釣り上がっていく。


 これ以上の屈辱はない!!

 私はひたすら胸元と秘所を手で押さえながら、身を縮こませていた。


「金貨千枚」


 それまで出ていた値を遥かに圧倒する声だった。

 静かな、それでいて凛とした声。

 会場がざわつき、興奮した司会の男が大声を張り上げた。


「金貨千枚出ました!! 過去最高値更新です!! 他にはありませんか?」


 しばらく他の客の反応を窺うも、千枚を超える声は上がらなかった。


「金貨千枚で落札です。そちらの紳士に!!」


 落札されてしまった!? 私は思わず私を落札したであろう人物に視線を向けた。

 テーブルに着いてこちらを眺めている紳士二人組。仮面をしているものの、その美貌は隠せやしなかった。

 片方は薄茶にメッシュの入った髪を肩まで伸ばしている。そしてもう一人は漆黒の髪に東方風の衣装を着込んだ異国人だ。


 まさか、この二人は!?


「先程の少年に続いての落札です」


 アレックスも落札したの!?


 私は思わず安堵でその場に膝をつく。

 私を落札した紳士の一人が上着を脱いですかさず私に羽織らせた。


「君をこんな目に遭わせた奴らを決して許さないから」


 いつもは優しい彼が語気を強めつつも耳元で囁いた。


「もう少しだけ待ってて。ちゃんとケリを付けてくるからね」


 思わず涙が溢れた。まさか彼がこんな所まで助けに来てくれるだなんて、思ってもみなかった。


「ニコラス様!」


「しっ! 今の私はただの金持ち貴族のボンボンだよ」


 まあ、確かに伯爵家の次男である彼は、年の離れた現当主の兄君の後継と目されている。並々ならぬ努力によって、国の聖騎士団長にまで上り詰めた彼ほどその言葉が似合わない人はいないだろう。


 私は再びメイドに連れられ、今度はきちんとしたドレスに着替えさせられた。


 そして、同じく着替えをさせられたアレックスと同じ部屋に移された。


「ジーン!! 良かった!! ジーンもユーエン達に落札されたんだね?」


「うん」


 伯爵が言っていた急遽参加してきたさる国の王族とは、彼らのことだったのだ。


 こんなことになってしまって、どうなることかと思ったけれど、結果的にニコラス様とユーエンに助けられる格好になってしまったのだった。

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