01 元悪役令嬢に迫られて
アレックス編です。
本編64話からの続きで読んで下さい。
別キャラとのエンディングが良い方は適度にスルーして下さい。
「アレックスい──」
ノックをしようと構えたら、ガチャっとドアが開いて満面の笑みのアレックスがそこにいた。
彼は唖然とする私の両手をしっかり握った。
いや、私まだノックする前だったよね?
「ジーン、やっぱり来てくれたんだね!!」
ガバッと抱きつかれて、さっと部屋の中に連れ込まれた。
「今か今かと来るのを待ってたんだ」
アレックスはドアにそっと聞き耳を立てるように張り付いて見せた。
「こうやって、廊下を歩く足音を聞いて」
「そ、そうだったの?」
するとアレックスは、声を立てて笑い出した。
「イヤだなぁ、本気にしないでよ! お兄さんじゃあるまいし」
確かに兄上ならやりかねないけど。さすがにちょっとここで引き合いに出すのはかわいそうな気が。
「たまたまだよ、実は僕も君の部屋に行こうとしてたんだ」
「あ、そうだったんだ」
やっぱり色々考えたけど、一度アレックスに相談すべきだと思ったから。
もちろん、彼が私に恋愛感情を抱いていることは知っている。
初めはお互い転生者として、何かと協力していければと思っていたけれど。
いつのまにか目まぐるしく変わる周囲の状況や、彼の気持ちの変化にも戸惑って、自然と距離を置いてしまった。
それでも、やっぱりこの世界で、私達の知っている物ともう全くの別物の世界だとしても、攻略の手掛かりを話し合えるのはアレックスただ一人だけだ。
まあ私の目標は、この不条理な短命とか幽閉に近いことをされるという設定をぶっ壊して、ただ平穏に暮らしたいだけなんだけど。
「で、話ってやっぱり誰と結婚すべきかの相談?」
「まあ、ぶっちゃけいうとそう」
アレックスは深い溜め息をついた。
やっぱり最近兄上に似てきたような?
「僕に相談するなんて、冗談なの? それとも嫌がらせ?」
「ごめん」
「……別にいいよ。君の立場は理解してる」
この部屋にはめぼしい家具はベッドしかないので、私達は自然とそこに並んで腰を下ろした。
「皆に言い寄られて、困るよね。それでいて皆、無駄に高スペックだし」
私は頷いた。まあ、私が優柔不断なのが一番いけないのだけれど。
「ねえ、そもそもアレックスは私のどこがいいの?」
「へっ、そこで僕に振るの? 相変わらずだなぁ」
好意を寄せられているのは最初から分かってはいたけれど、私のどこが好きなのかまでは聞いていなかった。
「まあ、見えない力に影響されてるのは感じる。これは僕に限らず、候補者全員がそうかも。前に君に言ったよね? 皆、君に好意を持つだろうって。でも僕は決してそれだけじゃないよ?」
アレックスは食い入るように私の顔をじっと見つめて言った。
「君のその性格もそうだ。裏表がなくて、真面目で素直で優しい。もう!! とにかく可愛いんだよ君は。反則なくらい」
そこまで言い切ると、アレックスは真っ赤になって横を向いてしまった。
「それって顔も含めての話?」
私は小声で眉をひそめて訊いた。
「ぷっ、何その顔。顔に限らず全部かな? そういう所も含めてだよ」
全然、気付かなかった。
「やっぱり、誰かに取られるのはイヤだな。ねぇ、本当にまだ誰かに決められないのなら、僕でダメ?」
「えっ!?」
うるうるした瞳で、私を見つめてくる。
私は決してショタコンではないのだけれど、可愛い男の子にせがまれればやはり悪い気はしない。
「子供だってちゃんと作れるよ? ……その、さすがにまだ経験はないけど、知識だってちゃんとあるし」
生々しい話だ!! 私は途端に恥ずかしくなって俯く。
「……ね? お願いだよ」
うう、そんな目で私を見ないで〜〜〜〜!!
どうせ、誰かとやんなきゃいけないなら、この際アレックスでもいいのかな? でも、彼は年下だし、本当にいいのかな?
あれ? 私何だか混乱してる?
「僕、頑張るから」
「……子作りを?」
「!!!!!!!!」
アレックスは目を一瞬大きく見開いて、ベッドに仰向けにひっくり返った。
「えっ! 違うの!?」
「ごめーん、話の流れが悪かったね」
仰向けにひっくり返ったまま、額に手を当ててアレックスはクスクス笑い始めた。
「いや、本当に子作りを頑張れというのなら、僕、本当に頑張るけど?」
ゴロンと肩肘を立てて横になった彼は、まだ少し笑いながら私に向かって言う。
「お兄さんが溺愛する筈だ。小さい時からこんなだったのかな?」
「うーん?」
アレックスは起き上がって、私の額に自分の額をくっつけて、頭をよしよしと撫でてきた。
「本当にジーンは可愛いなぁ」
「私の方が一応年上なんだけど? 私のことバカにしてるでしょ?」
「そんなことないよ? 本当に可愛いと思ってる」
私はお世辞にも可愛い顔ではない。美人とは言われても、可愛いタイプでは決してないのだ。
「ああ、そんな膨れっ面をしないでよ。でもそんな顔すら可愛いんだから反則だよね」
「だから、私の顔は可愛い顔じゃ……」
気付いたらちゅっとキスされていた。
一瞬、何が起こったのか分からず固まる私。
「ね? 僕とキスするの嫌じゃないでしょ?」
私は照れながらも頷いた。
そりゃあ、最近のアレックスは遠慮がなくて、ことあるごとにキスしてくるから。……慣れって怖いな。
「じゃあ、次のステップに……」
アレックスは私の胸元のボタンをいそいそと外し始めた。
「いやいやいや、ちょっと待って!!」
何かこのまま、する流れになってきてませんか?
私はアレックスを制止して、外されたボタンをとめた。
「ジーンも女の子としては初めてでしょ? 練習だと思ってすればいいよ」
「れ、練習!?」
そういう問題じゃない!!
ああ、もうどうすればいいんだ?
アレックスは完全に何かスイッチが入ったみたいで、ぐいぐい迫って私を翻弄してくる。
それでもなまじっか可愛くて、邪険には出来ないし。
私ってどうも流されやすくてダメだ。王子達にもいつもこんな感じで丸め込まれていいようにされてる気がするし、兄上には変なヤキモチを妬かれて、機嫌を取るために色々なことを要求されてるし。
私が一人にいつまでも決められないから、皆にいいようにされてる気もする。
「どうしても、決めなくちゃダメなのかな?」
もちろん寿命のリミットのことがあるからのんびりしてる時間がないのは分かってるけど、それでも何かいい方法があれば知りたい。
「皆が好きってこと?」
私は頷く。男女の愛情とは少し違うかもしれないけれど、それぞれ皆、好きなことは間違いない。
「一妻多夫ってのもアリなのかもしれないけど。皆の貞操観念がそれぞれ違うだろうし、難しいだろうね」
「!!」
いや、そういうことじゃないんだけどなぁ。
それじゃあ、完全に逆ハーレムじゃん……。
私だって、そこまで節操がない訳じゃない。
うう、説明するのって苦手だな。
「……私、そんなに器用じゃないよ。もっと時間があれば、いいのかもって思うけど、私にはもうあまり時間がないらしいから、いっそクジでも引いてもらって、決めるしかないのかもと半分思ってるし」
「クジ!? そんなんで一生の相手決めちゃうの?」
アレックスは信じられないって顔をした。
「だったらさ、もう僕で良くない? 最初の君の婚約相手は僕だった訳だし」
頬に軽くキスして、彼はぎゅっと私に抱きついた。
彼の様子は何か切羽詰まった様子で、とても焦っているようにも思えた。
「アレックス、一体どうしちゃったの? 何だか今日は変だよ?」
「変にだってなるよ!! まんざらじゃない君に、周りの奴らだってずっとチャンスを窺ってるんだ。君は隙だらけだし、天然で流されやすいし、そのうち誰かのものになってしまったって聞かされるのが怖くて怖くて仕方がない」
そんな風に思ってたの?
隙だらけで天然で流されやすいって、私ってばそんな風に見られてたんだ。ちょっと酷いけど、全くその通りで、とても反論出来そうにない。
私の胸に顔を埋めて、彼は泣いていた。
「君と婚約出来た時、凄く幸せだったんだ」
ていうか、胸……まあ、う、うーん?
私がアレックスの髪を優しく撫でると、彼は私の胸になお深く顔を埋めた。
「お願いだよ、もう一度だけ僕を選んで」
悲痛なアレックスの呟きに私は戸惑う。彼の気持ちが痛いほど伝わってくる。
「アレックス、あのね」
「……ジーンのおっぱいって小さいね」
その呟きは、私の怒りを買うには充分過ぎる程だった。
散々人の胸に顔を埋めておいて良く言うわ!!
「っ!!」
私は全力のゲンコツをアレックスの頭に見舞ってやった。
いつもありがとうございます!
アレックス編は実はオチがまだ決まってません!
見切り発車ですが、何とか終わらせますので、もうしばらくお付き合い下さると幸いです。




