89話 ホテルへ
そして、俺たちは日が西に傾くまでひたすら泳ぎ続け、事前に立花さんの名で団体予約しておいた近くのホテルへ向かう。全くもって飛んでもない財力だ。
と、その前に皆トイレの中で着替える。
「なぁ、お前ら海に来たって意味って本当に感じてるのか?あれからほとんど泳がずに、呑気にかき氷とか食いながら水着ばっかり眺めていたが...。そんなの海に来なくも見ようと思えば...。」
俺が着替えながら浩平らに言うと、中心人物である浩平が言った。
「正一、お前はバカか!?バカなのか!?海で乙女の柔肌を見るからこそ意味があるんだぞ!!!」
全く訳の分からない言葉を次ぐは圭吾。
「そうだぞ。薄く濡れる少女の柔肌、そして湿り照り輝くあの髪の毛!それは海でしか楽しめん!」
彼と来れば犯罪者予備軍にでもなりそうな勢いの言を発する。
「僕は幼女の水着が見たかったんだぁ。」
と、無論、学は既に時遅し。彼はもう犯罪者になってしまっている。それには流石に皆ドン引きであった。
そして、着替え終わって皆が合流。今からホテルに向かおうとはしたのだが、疲れで足は中々進まず。結果、立花さんがいつものように谷間からスマホを出し、鈴本さんと栞とが自らの寂しい胸元を見下ろして涙目になる。この下りは今までに何度か見たことがある。
(それにしても、立花さん...。もっとマシなところに直せないのか...?)
と俺がつくづく思うことも珍しくない。
「え?場所?南東京海水浴場の目の前ですわ。ええ...11人は乗れる車を手配してくださいな。」
立花さんはスマホを耳に当てそんなことを話している。
それからしばらくして、漆黒に染められた車は俺らの目の前に来る。それはリムジンでまさに金持ちの所有物である。俺は驚きで少し固まるも、幾度も連なる扉を開けて中に入る。
その約5分後。歩こうと思えば歩ける距離なので車だと本当に短い。俺たちは、皆で
「ありがとうございます。」
などと声を重ねて礼をする。次いで立花さんは
「ご苦労様。お屋敷に戻ってください。」
「はい。お嬢様とどうかお気をつけて。」
返事は抑揚のない単調な声。その運転手は車に乗って去っていった。
そして、俺たちは男女で分かれて予約した部屋へと入る。
「なんで分かれんだよー!」
浩平が文句を言ったが、当然のことである。俺は
「下らねえこと行ってねえで早く行くぞ。」
と言って、無理矢理男子部屋の方へ押し込む。その際、鈴本さんが落ち込んだような顔をして近付いてくる。おそらく、俺と同じ部屋であることを期待してくれていたのだろう。それで裏切られてしょんぼりしている、と。
(畜生っ、可愛すぎる!)
俺は本気で今この場でキスをしたいぐらいであった。
が、抑えて俺は笑いながら鈴本さんに言う。
「また、食事の時に会おう。で、その...一緒に並んで食べよう。」
彼女が出来たと言うのに俺が言えるのはそれだけであった。が、あっちも理解しているらしく、それが何とも情けないのだが、彼女は返してくれた。
「ええ、分かったわ。じゃあね、井上くん。」
「じゃぁ...。」
そうやって、俺は鈴本さんに別れを告げ、浩平らと部屋の中へ。そこは和風な部屋でまず恒例の食事が先か風呂が先かの話になる。
そういった口論の末、俺たちは先に風呂へ向かうこととなったのであった。




