80話 勉強会(後編)
定番の鍋。初めは野菜と肉がたくさんあり、俺たちはそれぞれお椀に取って、出汁もお玉でそっと足す。牛脂の旨味と甘味。野菜から出る甘味。それらと、出汁のあっさりとした塩味が絶妙にマッチし、豊かな味を醸し出す。
その味のよく絡んだシャキシャキの白菜、そして、プリプリのブロイラーはとても美味であった
「こりゃ、上手いな。」
俺が言うと、次いで浩平は
「みんなで食べるご飯は美味しいてのはこのことか。」
(おぅ、そうだな。)
「女を交えてるからだと思うぜ。」
(女たらし発言頂きました。)
「僕はおかずに幼女も欲しかったけどねぇ。」
(お前は黙って食え、変態ロリコン野郎。)
友達としてあるまじきこの"差"である。だが、決して間違ったことではない。女たらしはウザいだけで何とかなるが、ロリコンと言うのは時に犯罪を犯す。最近のニュースで女児が襲われることが多いのはそのためだろう。
俺は学にそんな犯罪者などにはなってほしくはない。だから、むしろ、これは彼のため。俺はそう言い訳を着け、自分の行為に悪気を感じない。
(それも問題だけどな。)
俺は自分で自分に呆れながら、お椀にまた野菜と肉を入れ、口の中へと運ぶ。
(やっぱ、美味しいわ、この肉。金持ちのお裾分けはやっぱちげぇ。)
俺は心の中で感嘆の声を漏らす。
そんなこんなで鍋の中の肉も野菜も次々と消えて行き、あっという間にうどんとラーメンの〆に入った。うどんもラーメンも甘味が絡み、鍋焼きのようであった。しかも、それを邪魔しない程度の塩味。それらもあっと言う間に終わってしまい、時刻は2時前。
俺たちは鍋を片付けた後、30分ほど一服するとすぐに勉強を開始。たらふく食べて眠りこけっていた学は鈴本様モードで叩き起こされた。それが、あまりにも怖かったのか彼の眠気はすっかり飛んでしまったようだ。
昼御飯の前から始めていた社会はあと30分ほどで本日の分を終えて、次は理科。俺も生物と化学ぐらいは得意だったし、地学もほぼ暗記なので無理なことはない。だが、ほぼ数学だろと思うほど、それに近しい立ち位置にある物理。あれには苦手と言うか意味不明だと感じる所も多い。
特によく分からないのが、摩擦係数だとか摩擦力の公式だとかそこら辺である。しかも、プリントでは厄介な問題を出された。内の高校と言うのは平均よりも偏差値が少し高く、テストも少し難しめ。鈴本さんと付き合うまでは無理していかなければ良かったと思ったが、今となれば出会えてなかったのだから無理して良かったと思った。
その問題とはこちら。『質量20kgの物体が荒い斜面上にある。斜面と平行に働く力の大きさが82N、摩擦力の大きさが57Nの時の摩擦係数を求めよ。ただし、100gに働く重力の大きさは正しい値を使ったものとする。』だ。その物体に働く重力の分力の内、1つが82N、それと逆向きの摩擦力が57N、つまり加速する運動をすることは俺でも分かる。だが、最後の補足や摩擦係数なるものが良く分からない。
そこで、鈴本さんに聞いてみると、さっそく指摘された。
「井上くんは頭悪いんだから頭だけで考えても分からないわよ。とりあえず、ここに摩擦力の公式を書きなさいよ。」
少しムカッと来た。だが、折角教えてくれているのだ。僕は我慢し、摩擦力の公式『F=μN』を書く。そこからは、完全に簡単な方程式であった。まず、摩擦力Fに57を代入、問題の摩擦係数μの入りの右辺を左へ、左辺を右へ。すると、『μ=57/N』が完成。
「あとは、垂直抗力Nが分かれば良いの。それでね、そのNの求め方はこの物体に働く重力の分力のもう1つと釣り合ってるわけ。」
さらに、説明は続く。中学の物理を既に心得ていた俺はしっかりとそれを理解する。
「って言うことはとりあえず、合力を求めなければいけない。だけど、ここでは正しい値って言ってるでしょ?つまり、200Nではダメなの。じゃあ、正しい値ってどうも求めれば良い?」
そう言われてあれを思い出す。質量(kg)に定数9.8を掛ければ重力になるという物。つまり、この物体に働く重力とは20×9.8で196N。後は中学でやったことと同じ。分力を合わせれば合力。つまり、残りの分力は196-82で114Nとなる。その分力こそが抗力Nと釣り合い力。だから、Nは114となり、あとは57を114で割れば良い。
そして、出た答えは0.5。解答を見てみると、正解であった。鈴本さんの説明を聞きながら思うことが1つあった。
(この問題、厄介とか思ったけど落ち着いて整理すれば下手したら中3でも解けるぞ?公式知ってれば。)
それをまるでエスパーのように感じ取ったのか、
「やっば、頭の中で考えるより紙に写した方が良いでしょ。物理は数学みたいだとかよく言うけど、紙の上に整理してみれば、物理分野の話ばかりで計算は以外と簡単なの。これからは、問題文をちゃんと読んで整理してみて。」
と言われる。俺はコクコクと頷く。
そんな方法で問題を解いていくと、正解不正解は問わず、スラスラと答えを導かれてゆく。俺は思わず、
「やっぱ、二次元って偉大だわ。」
と呟いてしまう。無論、そこには整理が出来る他のニュアンスも、むしろ、そちらの成分の方が濃いのだが。
と、それからまた2時間。ついに、今日の分の理科も全員終わり、家で皆に別れを告げる。俺は帰路を行きながら今日の勉強会のことを考えていた。
「しかし、あの鍋美味しかったよな。やっぱ、女子の作る料理は違うか。」
俺の独り言はなおも続く。
「それに、鈴本さんの教え方もとても上手かった。紙と言う文明の素晴らしさも垣間見ることが出来たし。」
まだ独り言は続いている。
「神様。我々に紙という文明を与えてくださり、ありがとうございます。」
もう自分が何を言ってるのかが分からないぐらいになると、流石に独り言も止み、静かに夕焼けの中を進んでいく。
「ただいま!」
そして、元気よくそう言い、玄関の扉を開けると、母は
「おかえり!」
と元気よく迎え入れてくれた。




