61話 自由過ぎる雑談
そして、浩平たちとの東京巡りと鈴本さんとのデート以外何も無いまま、ゴールデンウィークは明けて、再び学校が始まった。
「すーずもとせーんぱーい!」
1人廊下で歩いている鈴本さんに伊納が話しかけた。
「伊納さんね。どうしたの?」
鈴本さんはその方を振り向き、伊能に聞いた。
「鈴本先輩!生徒会に入りませんか?」
と伊能。鈴本さんはどうやら前から入ってみたかったらしく、快くそれを承諾した。
結果はもちろん生徒会就任。容姿淡麗。才色兼備。胸の辺りは少し寂しいが、生徒たちの鈴本さんへの信頼は抜群。中には嫉妬する女子などもいたが、そんな奴らより彼女を信頼する者の方が圧倒的に多い。それは、応援演説が無くても余裕で突破出来るぐらいの勢いだった。
最終学年の3年生と言うこともあって、鈴本さんは生徒会長になった。そのせいで、俺と鈴本さんが一緒に帰ることも少なくなるだろうが、自分が我慢すれば良いのだと、そんな日は浩平たちと家に帰った。
そして、鈴本さん生徒会就任の週の土曜日。俺たちは浩平の家で打上会を開いた。俺は彼の母が出してくれた紅茶をすすりながら、全員揃っているかメンツを確認した。
(えっと...俺、浩平、圭吾、学、栞、鈴本さん、立花さん、伊能、ききょ...。)
その中に、誘ったはずの無い色黒の女が笑顔で座っているのに気付き、俺は大きく目を見開いた。
「桔梗さん!?何でいるんです!?」
と言うと、そそくさとこちらの肩を組み、耳元に囁いてきた。
「私の前で紗耶香と何かしたら...殺すからね?」
(メンヘラっすか、あなたは...。)
俺はちょっと引きながら、彼女を引き剥がした。
それから、雑談が始まるのだが、かなりの自由度で下ネタやら意味深な言葉やらが空を交い、立花さんは
「東隅野でも乙女同士ではそう言うことしていましたわね。私は緩い方でしたが、ガチな方もいらっしゃいましたわよ。」
と言い出したので、想像してしまった俺は鼻血を吹き出してしまった。
「先輩がたぁ!人の寝技も四十八手って言葉知ってますかぁ?」
(寝技とは?)
「それって、どういう意味ですのー?」
(聞かないで!)
「人の寝技は四十八手あるってことですよー。」
(答えないで!)
「意味深ですわねー。」
(言わないで!)
「転じて、方法は1つとは限らない。だから、色々な方法を試すのが大切だってなんですよー。」
(結構、ちゃんとした意味があったー!)
そんな色々うるさい中でも、鈴本さんは会長専用のノートパソコンを開き、仕事を始めた。
「鈴本せんぱーい!やっぱり、ブルーライトカット似合いますねー。」
そんな伊能の言葉に、思わずそちらを見てしまった。どうして、清楚な女の子はこうも眼鏡が似合うのだろう。俺はしばらくそんな鈴本さんに見とれてしまっていた。
「じゃぁ、私もお手伝いします!」
伊能がそう言うと、鈴本さんはキーボードも見ず、片手で高速タイピングをしながら、伊能の方を見て言った。
「ありがとう。じゃぁ、お願い。」
「はい、どういたしましてぇ。」
と言って鞄からを書類を出した。
(2人ともめっちゃ仕事が出来る感じだ!)
俺は想像以上でまた目を見開いた。
「こちら、今年度の行事予定と生徒会の抱負です。」
何やら冊子のようなものが置かれる。
「これは、先日行った入学・進級アンケートの集計とその結果です。」
その上にまた別の冊子が積まれる。
「そして、こちらが各部活動の部費の割り振りの結果です。」
さらに、その上にまた別の冊子が積まれる。
「最後にこちらがエキサイト本です!超エキサイティング!」
(おい!)
そやな冊子やら紙やらが積まれ、最後に伊能がそんな物を置いた。それに気付いた鈴本さんは片手タイピングを続けながら、エキサイト本だけを書類の山から弾いた。
弾かれたその本は高速で回転しながら壁に激突し、大きな音と共にくぼみを作り、空中で開いて、床に落ちた。浩平と圭吾は顔を綻ばせ、学はあまり興味が無さそうに目を反らし、桔梗さんはニヤリと笑う。さらに、立花さんは
「あらまぁ。」
と手で口を覆い、栞は赤面。
だが、鈴本さんを見ていた俺と伊能は恐怖でしかなかった。ブルーライトカットの奥から覗く光彩の消えた目。わずかに見える白い歯の輝き。心なしか漂っている気がする邪悪なオーラル。
(鈴本様のご光臨だぁぁぁぁぁっっっっっ!)
恐怖のあまり、俺も伊能も周りの目を気にもせず、2人肩を寄せ合った。




