54話 近親恋愛
「な、何なんっ、だっ!?こ、れは?」
俺は目を丸くする。あまりのズレに雨でも降るのではと体を震わせる。それは、始業式同日の放課後のことであった。
なんと、あの浩平が、あの浩平君が。なんと!なんと!20歳ぐらいの美人と一緒にベンチで眠っていたのだ。それも、かなり良い雰囲気だ。
(クソッ、この野郎...。俺と鈴本さんの仲を邪魔しておいて、お前はリア充すんのかよ。俺の折角のモテ期を返せぇぇぇぇぇ!)
俺は心の中でそう叫んだ。
「ふぇあぁ...?」
すると、その女性が目を擦りながら、欠伸をする。
(ヤバい...!俺には鈴本さんがいるのに、惚れてしまいそうかも。てか、鈴本さんと付き合ってなかったらさ...。)
「絶対に寝取ってたな。てか、寝取るっ!うん、寝取る!」
俺はコクコク頷く。
「誰ですか?寝取るって何でそんなキモいこと言うんですか?」
その女性は聞いてくる。
(だよねー、キモいよねー。急に「寝取る」とか言ったらキモいよねー。うんうん、それが正しい!)
俺はひきつった笑顔を浮かべた。愛想笑いのつもりだ。
「何、笑ってるんですか?本当にキモいですよ?」
女性は丁寧語を使ってはいるが、全く敬意を示しているようには見えない。
(てか、何なんですかね、この人?初対面だからなおさらタチが悪いよ?ほんっと何なの?)
俺は少し腹は立ってはいたが、
(まぁ、浩平の彼女っぽいし、仕方が無いか。)
と彼とその人に失礼な納得の仕方をした。
「おい!浩平、起きろ!浩平!」
俺は浩平の肩を揺さぶる。すると、彼は起きた。寝起きの一言がこれだ。
「おっ!井上君じゃーん!よっーす!」
浩平は言う。俺は、ため息をつき
「変なギャル語使うなよ。でっ、誰なのこの人?」
と女性を指差す。
「あの、キモいので普通に名前聞かないでもらえますか?口説いてるなら、止めてくれますか?」
彼女は平気そうな笑顔で酷いことを言ってきた。
(てか、口説くかよ!断じて、こんな女は口説かんぞ!)
俺はその女性の胸の辺りに目を向ける。そこには、これでもかと言う程の平坦があった。つまり、貧乳と言うことだ。
(そんな、慎ましやかな胸を口説くわけない!断じて、だ!本当だぞ!)
俺は心の中でそう言った。
「で、誰なの?」
俺は再度、浩平に聞く。すると、彼は答える。
「俺の義姉の五十嵐優香。だいがくせいなんだけど、俺たちは春休みから遠距離恋愛を初めて、今は公園デートの帰りなんだ。」
「公園デート?何それ、めちゃ斬新。」
俺はそう呟いていた。
浩平は義姉と恋愛関係を築いていた。つまり、彼らは近親恋愛をしていたのだ。
(何?浩平って近親相姦がお好みなの?その内、しそうで怖いんですけども。)
俺は彼に対する恐怖感と不快感を覚えながらも、少しの魅力を感じてしまっていた。




